表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

1-2 Brightest Midnight

 もうこんなに暗いのか。すっかり夜になった東京の街を歩く。東京とは言っても郊外なので、周りにあるものと言えば住宅地と公園くらいだ。ある十字路に差し掛かった時、ギターの音が耳に止まる。この曲、ブラインド・ブレイクの曲だ!そんな曲聴いてる人他にいるんだ!とかそもそもあの技巧的なブルースを弾ける人なんているんだ!とか、とにかく色んな感動に胸が躍る。

 ギターの音がする方を見ると、黒人の少年がアカギを器用に弾いていた。声をかけようとして、目の前の少年が全くの他人であることに気付いて、急に躊躇いの念が湧き起こる。

「君、この曲知ってるの?」

なんと、少年の方から声をかけてきた!驚いた私は刹那、言葉に詰まる。

「う、うん。ブラインド・ブレイクのGUITAR CHIMESでしょ?」

「す、すごい!知ってるんだ!」

「当たり前じゃん!戦前ブルースならブラインド・ブレイク以上のギタリストなんていないだろうし。」

「そうだよね!?僕も彼が大好きでさ!でも日本じゃあんまり知られてないんだね、これを知ってる人は始めてだよ。」

「まあ戦前ブルースは皆ファッションで聴いてる程度だろうしね。」

「そっかぁ......僕はたまらなく好きなんだけどなぁ......」

「私もハーモニカやっててね。て言うか何歳?」

「15だよ。高校2年生。」

「同い年じゃん。高校は?」

「南高校だよ。」

「え、高校まで同じなの!?」

「まあ明日転校して初めての登校なんだけどね。」

「通りで見覚えがないと思った。」

「アーサー、よろしくね?せっかくだし軽音部にでも入って一緒にブルースやろうよ!エレキもちょっとは弾けるからさ。」

「いいね、勿論。私はユウ。よろしく。」

「とりあえず、今何かやってみない?」

そういうと、アーサーはFのスローブルースを弾き始めた。奇しくも、コンテストの曲、BLUE MIDNIGHTのキーだ。

私はイントロのフレーズから入り、あの夜空と寒風のシカゴの情景を吹き込む。

「いいね!最高だよ!」

アーサーが叫ぶ。

それからはもう覚えてないくらい遅くまで、色んな曲をやった。

「じゃあ、『悪魔の契約』やっちゃおうよ!」

「悪魔の契約?」

「十字路で誓いを立てて、ブルースをやる。そうするといいことがあるんだって?」

「それ、ロバート・ジョンソンは死んだじゃん。」

「まあ、僕の故郷のネタみたいな?やつだよ。」

「じゃあせっかくだしやってみよう!」

勿論、曲は CROSS ROAD BLUES。アーサーはチューナーも無しに器用にオープンGチューニングにギターを調律する。本人曰く、チューナーなんて無いこともあるからね、だそうだ。

ガラスのボトルの飲み口を使う、ボトルネック奏法で掻き鳴らされたギターは悲鳴を挙げ、六弦のベース音が轟く。悪魔の契約が始まった。そして時間も忘れて、二人で何小節もソロを回したり、二人で盛り上がって歌ったりもした。

「契約は......思いつかないし、最高のブルースを見つけるまで死ねない、で!」


 その日の深夜、イースト・スリムは、私のおじいちゃんが亡くなった。4月の暮れのことであった。数日後には家族葬が行われたが、私は何故か泣くことができなかった。その代わりに、心の奥深くにも、火でも水でもない、土とも風とも違う何かが宿った。それは強いて言語化するならば、青く、ドロドロしていて、激烈なエネルギーの燻った様なものだった。

読んでいただきありがとうございます。毎日最低で一話は投稿していますが、時間は不定期となります。


ブックマーク、☆での評価、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ