22-1 Up Jump The EAST SiDE SOUL
私はキャスケット帽を深く被り直し、赤いモージョー・ハンドをハーモニカホルダーにくくりつける。そしてハーモニカを吹きながら、私はステージの中央へと歩く。スポットライトが私を追いかける。フラターという、ハーモニカからアコーディオンの様な音を出す技術で4小節を支配する。そして、巻き舌で破裂的な音を出し、フラターに戻る。そして高音から降下する様にフレーズを吹き、そしてバンドが入ってくる。ビッグ・ウォルター・ホートンの代名詞的なインスト曲、Walter'sBoogieだ。舌を巧みに使って、パーカッシブ(リズム楽器的)なアプローチとメロディーを両立させていく。そして24小節を吹き終えると、遂に私はメロディーに注力する。軽快なリズムを上手く利用して軽快なフレーズを次々に吹き込み、観客が歓声を上げる。
私は1、2、3の穴を吸って、コード感のある音でリズムを刻む。それに合わせてアーサーのギターが炸裂する。力強く、キラキラした音でビブラートの効いた音を突き刺す。客席はその迫力に息を呑む。しかしアーサーのギターは決して容赦しない。最初の12小節をB.B.キング的なギターで決めると、エフェクターを踏み、一気に速弾きを始める。歪み切ったギターでのハードロックやVan Halenの様な光の速さのフレーズが轟き、一気に観客が熱狂する。観客の反応に満足したアーサーはカナタを指差す。するとカナタは官能的なソロで一気に世界観を塗り替える。そしてハーモニカに戻ってくる。もう観客は踊りはじめていた。ブルースは元々、バレルハウスという酒場で発展した音楽であり、酒を飲んだり、踊ったりすることがブルースマンにとって最高の賛美だ。私たちは自信をもって曲を終わらせる。
タタン、とドラムが鳴り、次の曲が始まる。重々しくも愉快な演奏が始まり、そこにBフラットのハーモニカが入る。リトル・ウォルターのMy Babeだ。アカネがボーカルマイクの前に立ち、妖艶に歌い始める。蛇がうねる様な、渦潮が巻き起こる様なグルーヴに歓声とダンスで観客が揺れ動く。もはや、アカネはシャーマンの様に、声色ひとつで観客を動かしていた。我慢の限界を迎えた若者たちがステージギリギリに群がり、揺れ動く。
そしてハーモニカソロになると、私はサックスの様な音使いでフレーズを吹き入れていく。官能的な音と心地のいい間を意識しつつ、12小節を吹き終えると、誰かが叫ぶ。「ブロー!ブロー!(吹け!吹け!)」私はステージギリギリまで向かうと、そこで観客に見せつける様にハーモニカをトリルして吹き込む。8小節目の終わりと共にパッシングフレーズを吹き、ドラムを指差す。アーサーが「Hey!」と叫ぶと、ドラムがターンアラウンドとしてソロを叩く。そして1小節目に戻ると共にアカネの歌声が戻ってくる。観客の熱狂に火が付く。
My Babeが終わると、すぐに次の曲を始める。Checkin' Up On My Baby、サニー・ボーイ・ウィリアムソンⅡの荒々しいハーモニカの音が響き渡る。飾り気のない単音でのフレーズは武骨でありながら、タング・ブロックの魅力的な音を打ち出すには十分であった。ギターとベースが禍々しい、低音の乗ったリフを体育館にこだまさせる。アカネの歌が終わると、私はアーサーに合図を出す。するとアーサーがエフェクターを踏み込み、ギターが凶悪な音を放つ。トレモロ・ピッキングやタッピングを多用した速弾きがストーリー性を持って濁流となり観客を襲う。
私がAztecたちの方を見ると、皆顔面蒼白で私たちを睨みつけていた。ブルースも速弾きも完璧なアーサーも、どんな曲も歌いこなすアカネも、シカゴブルースを叩きこなすモニカも、技巧的なベースラインを平然とこなすカナタも、彼らは憎いのだ。何よりAztecはイースト・スリムの後継者である私が憎いのだ。しかし、その気持ちにブルースはない。ただの醜い憎悪だ。しかし、ブルースができない彼らなど、もはや私たちの敵ではない。私たちのブルースはこの空間を征服しつつあった。
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