11 I'm Ready For You
第二章開幕です!
夏休み最後の夜、私たちは丁度スタジオでの練習を終えた所だった。この夏やったことと言えば、とにかくリズムだ。モニカが黒人音楽の真髄を教えると言ったのだった。それは聴く分には簡単なことだった。黒人のブルースのバッキングと日本人のブルースのバッキングを聴き比べると言って、ある程度ギターも弾けるカナタがまずギターを弾く。1,2,3,4の内、2,4拍にリズムの重心がある。しかし、アーサーのギターは違った。1,2,3,4の内、2,4拍の少し後ろにリズムの重心が来るのだ。こう聴き比べると不思議なもので、カナタのバッキングでは縦のノリが生まれるのに対して、アーサーのそれでは三次元的なノリが生まれるのだ。モニカが、「これこそがグルーヴだ。」という。実際、この黒人のリズムを意識しての演奏は難しくて、モニカ曰く、悪い癖を直す様なものだと思って気長にやっていくしかないとのことだ。モニカはわざわざ色んなリズムのドラムの音源を作ってくれて、これで練習するといい、とまで言ってくれた。
そして、夏休み後半では、九月中旬に<No Way Out>でブッキングライブが決まったこともあって、皆の練習意欲に更に火が付いた。そんなこんなで、ブルース三昧の夏休みはすぐに最終日になった。
そんな夜のこと、みんなで<T-Bone>でくつろいでいると、カナタがスマホを見せてくる。
「ユウ、このハーモニカの人知ってるか?」
そこにあったのはベテランロックバンドGeesの新譜の記事で、曲中のハーモニカをAztecが吹いたというものだった。
「日本でブルース・ハーモニカを広めたオノって人の弟子だね。おじいちゃんと仲悪かった印象。」
インタビュー記事にはこの様にあった。
『俺はブルースの人間だから、タング・ブロックってテクニックとパッカーってテクニックどっちも使うんだよ。まあ、タングの方がメインだけど。』
「これってもう聞けるの?」
「ミュージックビデオあるらしいぜ。」
「じゃあせっかくだし私たちで見てみようよ。」
そうして動画を見てみると、バンドメンバーとAztecがおしゃれなバーでセッションしているというコンセプトのものだった。
これまでAztecのハーモニカは殆ど聞いたこともなかったが、改めて聴くとテクニカルだが、どこかパワーがないというか、やはりパッカーの浅い音が目立った。パッカーは本来、とてつもない速さの曲、特にブルース以外、で使われる技法なので、ブルースを匂わせる曲調にはあっていなかった。インタビュー記事にはこんなことまで書かれていた。
『オノさんは凄い人だったけど、あの人の吹き方には限界があったから。イースト・スリムの吹き方を意識したんだ。赤いモージョーハンドとくたびれたキャスケット帽がトレードマークでね、俺はあの人の音も好きだったよ。あの人のスタイルがタング・ブロックを混ぜるやり方なんだ。』
嘘だ、イースト・スリムは絶対にパッカーで吹かない。それは先人からの教えで、先人への敬意だからだ。私は悔しさと怒りで、紙ナプキンを握りしめる。
「やっぱりこれはイースト・スリムの吹き方じゃない?」
「うん。この人は小手先のテクニックでしかタング・ブロックを使ってない。」
「まあ、日本のブルースなんてそんなもん。これから私たちが見返して、征服していこう。」
そのモニカの言葉で、私の心に火が付く様な感覚を覚えた。
「でもこれじゃあ、名誉挽回はまだまだ先だね。」
「そうだね、残念だけど。」
「こんなの世界のてっぺんから言いたい放題じゃん!」
「それなら安心してくれていいよ。」
そう切り出したのはマスターだった。
「私はメジャーに幾らかカネがあってね。近い内、君たちはAztecのバンドと対バンすることになると思う。しかも、大勢の観客の前でね。」
「それってどういうこと?」
「近々大きなイベントがあるだろう?」
「え、もしかして学園祭?」
「その通り!」
「しかも南高校の学園祭は大きな注目を集める。特に軽音部はね。」
南高校の軽音部は過去に何組か、メジャーデビューしたバンドがいるくらいの名門校だ。三年生の人たちは軽音甲子園で何度も優勝している。だからこそ、インディーズの音楽が流行っている今、若者からお年寄りまで、音楽業界の人までもが、多くの人たちが見に来るのだ。
「楽しみになってきたね、学園祭。」
「うん。」
私はいつのまにか笑っていた。
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