しんぱい魔族
さて、奇跡の再会のその夜。
僕はタートルさんとお父様に、いままでのことを簡易に説明した。
家族のことは、意外にもお父様がブチ切れて剣を持って外に出ようとしたけれど、タートルさんがなんとか止めてた。
タートルさんは、僕に会えたのがとても嬉しいので、今はそのクソ野郎が生きているのを許してやるのだそうだ。
「よくがんばって生きてきたな。偉いぞ、シルス。それにしても、どうして冒険者に?」
「冒険者なら街で暴れてもそんなに不思議じゃないでしょ? それに、子どもでもちゃんと実力があれば報酬をくれるかなって」
「うーん、街で暴れるのはまずいが、確かに武器の携帯が許されているし、ある種の抑止力でもある。うん、一理あるな」
「タートルさんたちこそ、どうして冒険者に? お父様だったら魔族の要職にだってつけそうだけれど」
「それがだなぁ……。シルス、ここの魔族の歴史にはどれくらい詳しい?」
「えーと、魔王がいることと、血統がすべてなことくらい?」
「んじゃ、細かいところはあとでタートルとお勉強だな。詳細は省くが、今、魔王は入れ替えの時期なんだ。お前が言ったとおり血統がすべてだが、1枠だけ推薦枠ってのがあって、ここは血統が基準を満たしていなくても候補になれる。候補は、実力ある者でもいいし、血統候補たちにはない視点を持った者でもいい」
タートルさんが渋い顔をしている。
タートルさんの種族は、お世辞にも強いとは言えないから、この候補に選ばれることはほぼないだろう。
けれど、お父様はいまも一流の剣士のようだ。
血統第一主義者だったら絶対に連れて歩かないような、弱い魔族のタートルさんを連れて人間に混ざって暮らすようなお父様は、相当な変わり者に違いない。
「それでお父様が候補になっちゃったってこと?」
「いや、それはバッサリ断ったぞ。向こうからしたら血統もないのに候補に入れてやってるって扱いになるらしくて、断ったら二度と声をかけてこなくなった。とてもせいせいしたな!」
「俺たちが心配していたのはおまえだ。シルスと再会すること、シルスが魔王候補になる前に確保することを目指して、魔族でも人間と共に暮らし、世界中を歩ける資格のある冒険者になったんだ」
なんと。
タートルさんとお父様が心配していたのは僕だったらしい。
確かに、あのまま父の元にいたらと考える。
僕はタートルさんやお父様を探すよい機会だと思って、候補狙いの誘いに乗ったかもしれない。
けれど、それは僕の都合だ。
魔族が僕を欲しがる理由なんかあるんだろうか。
なんでかこの街の魔族も僕と目を合わせてくれなかったし。
「僕? 子どもが魔王になったら傀儡にできるかもしれないけれど、僕そんなに珍しいかな」
「魔族と人のハーフだってだけで候補に立てられた例があるんだ。おまえが前と同じく、父親が吸血鬼であるならなおさらだ。片親が吸血鬼ならハーフであっても血統を満たすからな」
「そんなに吸血鬼は血統がいいんだ?」
「吸血鬼自体が血統主義者だからだ。繁殖の際の第一条件に血統が入るくらいだぞ」
「おまえの父か母が相当な変わり者でも、そこまでに紡いだ血の強さが血統になる。私たちはおまえにそんなものを二度と、背負わせたくなかったんだ」
ああ、それが探していた理由なのだと、本当の理由なんだって分かった。
僕もあの別れをずっと寂しく思っていたけれど、それは二人も同じだったみたい。
話の流れとは別にニマニマするのを止められない。
「僕ね、魔王にも魔王候補にもならないよ。タートルさんとお父様と、ずっと一緒に暮らすのがいいな」
「かわいいことを言ってくれる。これは安心だな。これで街をうろつく魔族を締め上げないで済む」
「そうだな。目下の悩みは親の魔族くらいか。誘拐云々言う前に黙らせておくか?」
もしかして僕が街の魔族に恨めしそうに睨まれたのって、お父様のせいだったりする?
家から出ていこうとするタートルさんを、今度はお父様が止めてる。
ああなんて、幸せなんだろう。
夢じゃないといいな。




