小説家になりたい友人と、応援したくなった俺の話
「ユウジ、へこむな」
大学のパソコン前で落ち込むユウジ。顔が真っ青だ。コイツとは同じ学科で、初めて声をかけて友人になった。高校2年の頃から『小説家になる夢』を持ったらしい。
────しかしまぁ、なんというか。ちょいとこの夢追い人は扱いが難しい。
「うあー、へこむよぉー! もう12回目だぁ~! 3年も続けて芽が出ないなんて。ボクには才能がないんだ……そうなんだ……やめてしまった方が……うう、才能がないから諦めようかな。そうした方が……」
「なんでだよ、続けりゃいいじゃん」
今まで顔面蒼白だったユウジの顔がパァと明るくなる。
「だ、だよねー! よぉし、がんばるぞ!」
……切り替えが早いな。
(まぁ、いいけどさ)
面倒くさい。
友人だし悪いやつでもないから、「どうでもいい」とは言えずに居る。正直に言うと、コイツには文才がないと俺は思っているからだ。
だってさ。
テーマも、ずっと『異世界』やら『剣と魔法』やら『ドラゴン』やら擦れまくったネタを書き続けてるんだぞ?
周囲の作品との大差がなくて、その上、表現力が低く、言いたいことが伝わってない箇所が多々ある。
加えてペンネームも【朝木ゆめみ士】と、とても気取っている。
こんな作品のどこから、コイツの面白さが伝わるってんだ。
こんななら、食券のうずらトッピングを5枚も買って、50個のうずらを食べ切ったユウジのほうが100万倍おもしろい。
ペンネームも【おっちょこタロウ】に変えればいいのに……と、思うのだが、本人は至って真面目なようで。
「どうしても小説家じゃなきゃダメなのか?」
と訊けば、
「そりゃそうだよぉ。だって、高校の友達と約束したもん!」
と返ってくる。
たぶん、高校の頃の友人なんてもう他人だろうに……コイツ地元から離れた私学に通ってたんだからさ。
(言えねぇよなぁ……)
目の前で目を輝かせている友人には、澄んだ瞳のまま日常を過ごしてもらわないと、俺が困る。
「ま。気にすんな。また次に応募してみろよ。友達に自慢できるようにならなきゃな」
「うおー! がんばるよぉ!」
そんな適当な声がけをして、一緒に学食のラーメンを食って帰った。
◇
帰宅後。
俺はSNSにラーメンの画像をあげた。それなりにいいねがついて、それをおかずにカップラーメンとメロンパンを食べる。
大作家志望の【朝木ゆめみ士】……基、ユウジのアカウントとは言うと……、
《ファンタジーにはロマンがある。それは、現代社会の現実からの単なる逃避ではなく、新たな答の追求だ────》
理由のわからない御託を並べていた。当然いいねも何も付くはずがなく。フォローしてるのは俺と数人だけだった。
その数人は、ROMっててよくわかんねぇ奴らだし。
(何が楽しくてこんな事をしてんだよ……)
そう思いながら、いいねを押す。いつもならこれで終わりだったが、今日は違った。
ユウジが、高校の頃の思い出を語ったのだ。
《受験期に、私が一人で小説を書いていたら、「いいぞ! もっと書け!」と励ましてくれた友達が居るのだ。私はその方々のために日々執筆を励んでいる……》
(へぇ)
いい友達なんだな、と思った。
まぁ俺なら受験を優先させるが。ユウジの過去を知れて少し嬉しかった。今までROMっていたアカウントが蠢くまでは。
《おまえの話、昔からつまんないよな》
《朝木ゆめみ士www》
《励ましw推薦枠から弾いただけだしwww》
ROMっていたアカウントは、どうやらユウジの高校時代の『友達』らしい。確かにユウジは大学でも、レポートや宿題は欠かさず提出している。出席も毎日欠かさずみたいだし。
高校でもそんな姿勢だったなら、学校から推薦枠を貰いやすいだろう。
(なるほど、エグいな……)
胸が詰まって、何か言い返してやろうと思ったが、俺が何かを返したところで、ユウジの心の傷は癒せないだろう。
俺はユウジから何らかの連絡が来ないかと、待っていた。
(まぁ、俺がアイツにとって一番の友人ではないだろうけどな……)
しばらくSNSの画面を更新していると、ユウジはこれだけを投稿して鍵垢になった。
「はぁい、出直しまーす(´;ω;`)びええ!」
◇
次の日。俺はユウジは休むと思っていた。
「おはよぉ〜!」
という声を聴くまでは。
相変わらず間の抜けた声だ。
(だからバカにされるんだぞ)
そんな顔をしていたのを見抜かれたのか、ユウジは昨日のことをこう語る。
「ボク、人の言葉の裏とか読むの下手くそでぇ。でも、今回の事がきっかけで、小説を書く際の勉強になったよぉ!」
「まだ……続けるのか?」
「へへ、だって、君が応援してくれるからさ!」
ユウジの態度に、少しイラッとした。同時に、コイツの夢を嗤った友達とやらの気持ちも、少しだけ分かってしまった。それがなんとなく嫌で、これは言わなければと、ユウジの肩を鷲掴みにして言った。
「オマエの夢だぞ。悔しくねぇのか。もし俺が『やめろ』って言ったらやめるのか。違うよな」
「……」
ユウジが黙り込んでしまった。叱られた犬みたいだ。叱ったつもりはないが。
「う……うう」
ユウジの目が目薬を嫌がる3歳児の様にくしゃくしゃになった。俺が何かを言う前にユウジの口が大きく開く。
「うわぁ〜!!!!! 悔しいよぉおおおおお〜!!!!!」
ユウジの声が響いた。
周囲はドン引きで俺が悪いみたいになっていた。誤解を解くために、若干説明口調で一番言いたかったことを言う。
「酷い言葉で夢を罵られたんなら、オマエはオマエの真っ直ぐな言葉で夢を貫け!」
言った瞬間、ユウジは、
「その言葉ぁ、絶対に小説で使うねぇえええ!!!!!」
泣きに泣いて、疲れた先に俺と一緒に学食のラーメンを食って講義を受けて、フラフラと帰って行った。
(がんばれよ、へっぽこタロウ)
◇
帰宅後。
俺はユウジの心の変化をSNSで知る。
《現実で酷い言葉を向けられることは多々あろう。今のボクには向き合うための言葉がある。それを伝えたい。ファンタジーの土壌で。絶対に》
この言葉をみた瞬間、急に俺はユウジを応援したくなった。コイツは、人の言葉をどんどん吸収していくブラックホールだ!
俺はこうリプした。
《楽しみにしてるぞ!》
このひとことがきっかけで、数多くのへっぽこ小説を読まされることになるのだが。コイツの夢が本当に叶ったのは、また別の話にしておこう。
おしまい




