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厳選短編集(いくとさんのSS本棚)

小説家になりたい友人と、応援したくなった俺の話

作者: 白夜いくと
掲載日:2025/09/11




「ユウジ、へこむな」


 大学のパソコン前で落ち込むユウジ。顔が真っ青だ。コイツとは同じ学科で、初めて声をかけて友人になった。高校2年の頃から『小説家になる夢』を持ったらしい。


 ────しかしまぁ、なんというか。ちょいとこの夢追い人は扱いが難しい。


「うあー、へこむよぉー! もう12回目だぁ~! 3年も続けて芽が出ないなんて。ボクには才能がないんだ……そうなんだ……やめてしまった方が……うう、才能がないから諦めようかな。そうした方が……」

「なんでだよ、続けりゃいいじゃん」


 今まで顔面蒼白だったユウジの顔がパァと明るくなる。


「だ、だよねー! よぉし、がんばるぞ!」


 ……切り替えが早いな。


(まぁ、いいけどさ)


 面倒くさい。

 友人だし悪いやつでもないから、「どうでもいい」とは言えずに居る。正直に言うと、コイツには文才がないと俺は思っているからだ。


 だってさ。

 テーマも、ずっと『異世界』やら『剣と魔法』やら『ドラゴン』やら擦れまくったネタを書き続けてるんだぞ?

 周囲の作品との大差がなくて、その上、表現力が低く、言いたいことが伝わってない箇所が多々ある。


 加えてペンネームも【朝木あさきゆめみ士】と、とても気取っている。


 こんな作品のどこから、コイツの面白さが伝わるってんだ。


 こんななら、食券のうずらトッピングを5枚も買って、50個のうずらを食べ切ったユウジのほうが100万倍おもしろい。


 ペンネームも【おっちょこタロウ】に変えればいいのに……と、思うのだが、本人は至って真面目なようで。


「どうしても小説家じゃなきゃダメなのか?」


 と訊けば、


「そりゃそうだよぉ。だって、高校の友達と約束したもん!」


 と返ってくる。

 たぶん、高校の頃の友人なんてもう他人だろうに……コイツ地元から離れた私学に通ってたんだからさ。


(言えねぇよなぁ……)


 目の前で目を輝かせている友人には、澄んだ瞳のまま日常を過ごしてもらわないと、俺が困る。


「ま。気にすんな。また次に応募してみろよ。友達に自慢できるようにならなきゃな」

「うおー! がんばるよぉ!」


 そんな適当な声がけをして、一緒に学食のラーメンを食って帰った。



 帰宅後。

 俺はSNSにラーメンの画像をあげた。それなりにいいねがついて、それをおかずにカップラーメンとメロンパンを食べる。


 大作家志望の【朝木ゆめみ士】……基、ユウジのアカウントとは言うと……、


《ファンタジーにはロマンがある。それは、現代社会の現実リアルからの単なる逃避ではなく、新たなこたえの追求だ────》


 理由のわからない御託を並べていた。当然いいねも何も付くはずがなく。フォローしてるのは俺と数人だけだった。


 その数人は、ROMっててよくわかんねぇ奴らだし。


(何が楽しくてこんな事をしてんだよ……)


 そう思いながら、いいねを押す。いつもならこれで終わりだったが、今日は違った。


 ユウジが、高校の頃の思い出を語ったのだ。


《受験期に、私が一人で小説を書いていたら、「いいぞ! もっと書け!」と励ましてくれた友達が居るのだ。私はその方々のために日々執筆を励んでいる……》


(へぇ)


 いい友達なんだな、と思った。

 まぁ俺なら受験を優先させるが。ユウジの過去を知れて少し嬉しかった。今までROMっていたアカウントがうごめくまでは。




《おまえの話、昔からつまんないよな》

《朝木ゆめみ士www》

《励ましw推薦枠から弾いただけだしwww》

 


 ROMっていたアカウントは、どうやらユウジの高校時代の『友達』らしい。確かにユウジは大学でも、レポートや宿題は欠かさず提出している。出席も毎日欠かさずみたいだし。


 高校でもそんな姿勢だったなら、学校から推薦枠を貰いやすいだろう。


(なるほど、エグいな……)


 胸が詰まって、何か言い返してやろうと思ったが、俺が何かを返したところで、ユウジの心の傷は癒せないだろう。

 俺はユウジから何らかの連絡が来ないかと、待っていた。


(まぁ、俺がアイツにとって一番の友人ではないだろうけどな……)


 しばらくSNSの画面を更新していると、ユウジはこれだけを投稿して鍵垢になった。



「はぁい、出直しまーす(´;ω;`)びええ!」





 次の日。俺はユウジは休むと思っていた。


「おはよぉ〜!」


 という声を聴くまでは。

 相変わらず間の抜けた声だ。


(だからバカにされるんだぞ)


 そんな顔をしていたのを見抜かれたのか、ユウジは昨日のことをこう語る。


「ボク、人の言葉の裏とか読むの下手くそでぇ。でも、今回の事がきっかけで、小説を書く際の勉強になったよぉ!」

「まだ……続けるのか?」

「へへ、だって、君が応援してくれるからさ!」


 ユウジの態度に、少しイラッとした。同時に、コイツの夢をわらった友達とやらの気持ちも、少しだけ分かってしまった。それがなんとなく嫌で、これは言わなければと、ユウジの肩を鷲掴みにして言った。


「オマエの夢だぞ。悔しくねぇのか。もし俺が『やめろ』って言ったらやめるのか。違うよな」

「……」


 ユウジが黙り込んでしまった。叱られた犬みたいだ。叱ったつもりはないが。


「う……うう」


 ユウジの目が目薬を嫌がる3歳児の様にくしゃくしゃになった。俺が何かを言う前にユウジの口が大きく開く。


「うわぁ〜!!!!! 悔しいよぉおおおおお〜!!!!!」


 ユウジの声が響いた。

 周囲はドン引きで俺が悪いみたいになっていた。誤解を解くために、若干説明口調で一番言いたかったことを言う。


「酷い言葉で夢をののしられたんなら、オマエはオマエの真っ直ぐな言葉で夢を貫け!」


 言った瞬間、ユウジは、


「その言葉ぁ、絶対に小説で使うねぇえええ!!!!!」


 泣きに泣いて、疲れた先に俺と一緒に学食のラーメンを食って講義を受けて、フラフラと帰って行った。


(がんばれよ、へっぽこタロウ)



 帰宅後。

 俺はユウジの心の変化をSNSで知る。


《現実で酷い言葉を向けられることは多々あろう。今のボクには向き合うための言葉がある。それを伝えたい。ファンタジーの土壌で。絶対に》


 この言葉をみた瞬間、急に俺はユウジを応援したくなった。コイツは、人の言葉をどんどん吸収していくブラックホールだ!


 俺はこうリプした。


《楽しみにしてるぞ!》


 このひとことがきっかけで、数多くのへっぽこ小説を読まされることになるのだが。コイツの夢が本当に叶ったのは、また別の話にしておこう。




 おしまい

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― 新着の感想 ―
ユウジの純粋さがとても印象的でした! 傷ついても立ち上がる姿に勇気をもらいました。 自分もまた、言葉を信じて書き続けたいと思います。
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