8.ロズウェル的な何か。③
いつの間にか、一同の頭上に山頂を覆うほどの大きな何かが飛来していたのだ。
前に胡散臭いテレビ番組で由美が見た通りの灰皿を引っくり返したようなアダムスキー型円盤で、基底部が淡く光っていた。
月明かりが遮られなければ、頭上に存在することさえ気付かないような静けさだ。動力源は未知のテクノロジーなのか、羽根もなければ音もない。
円盤の基底部が音もなく開いた。
壊れて捨てられたおもちゃのような宇宙船――もはや否定できない――の残骸が音もなく宙へと浮き上がるのを、由美はぼんやりと見上げるばかりだ。
もはやどんなことが起こっても、なんら不思議ではないような気がしてきた。
それと同時に傷付いた三人の宇宙人達の身体も浮き上がり、円盤の基底部にぽっかり開いた入り口に吸い寄せられ――。
「――って、なんで健太まで浮いてんのっ⁉」
「俺も乗っていいって、頭ン中に『声』が聞こえたんだよっ!」
気付いた時には、すでに健太は円盤と山頂の間で宙吊り状態になっていた。
遠足前の晩のような楽しげな様子に、由美は頭を抱える。腰を抜かして遠巻きにしていた由美には何も聞こえなかったのに――。
「ちょっと待ってよっ、学校どうすんのよっ? おばさんに何て言えば」
「しばらく休むって、言っといてくれー。ってか、お前も乗りたいのかーっ?」
絶対に攫われる。家まで送ってくれるだろうという考えは、由美にはこれっぽっちも浮かばなかった。きっと後先考えない健太の頭の中には、未知の飛行物体に乗れるという好奇心しかないに違いない。同じ人間ですら行きずりの女子小学生を平気で攫おうとするのに、ましてや宇宙人など信用できるわけが――。
「そんな胡散臭いの、乗るわけ無いでしょっ!!!」
由美が力いっぱい叫ぶと、返事の代わりとばかりににランドセルが降ってきた。
少し離れた場所なのは、何らかの力場を振り切るためにわざと遠くに放り投げたのだろうか。慌てて由美は丸太を乗り越えランドセルを拾いに行った。
ようやく辿り着いて持ち上げた時にはもう、謎の飛行物体に収容されてしまったのか健太は影も形もなかった。
「もうっ、アンタ頭おかしいわよっ!」
くたびれた黒のランドセルを胸に抱え、
「……健太の、ぶ わ ぁぁあ か ぁ ああああっ !!!」(※健太の馬鹿)
空飛ぶ円盤はあっという間に夜の闇に吸い込まれ、星と見分けが付かなくなった。
翌朝になって、黒と赤のランドセルを前と後ろに背負った由美が泣きながら里山の中腹をひとりで下りてくる姿が、行方不明の子供らを捜索していた駐在さんと村の青年団員――青年じゃない――に発見された。
もちろん、明るくならないと危なくて山を降りてこられなかったからである。




