7.ロズウェル的な何か。②
「いっ、生きてる?」
人間であれば頭に当たる部分が、微かに持ち上がる。まるで自分の置かれている状態を把握しようとするかのようだ。
しかし顔面のサンバイザーらしき部分の向こう側は真っ黒で、こちらからは中の様子が窺えない。光をも飲み込む深淵のようだった。
――深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ……だっけ?
ふと思い出した言葉の出典を調べたくてウズウズし始めた由美は、ちょっとだけ冷静になれた。
「ふぅ……これでオシマイっと!」
子猫の首根っこを咥えて引越しを急ぐ親猫のように丁寧に、都合三体の謎の物体を運び出した。よほど重労働だったのか、地面に手を付き肩で息をしている。さすがの由美も、それがなんらかの生き物であることを、認めざるを得なかった。
横たえられた三体のうち、損傷が一番少ないと思われる一体がむくりと上半身を起こした。由美も驚いたが、同じくびくっと跳ね上がる健太の背中を見て、これだけ大胆な行動をしてもやはり内心は怯えているのだろうか……そう思った時。
唐突に、健太ががばっと両膝を付いた。何故か正座をしている。
「遠いところを、よくおいでなさった!」
言いながら、両手を地面に付いて深々と頭を下げたではないか。
「我々地球人はあなた方を歓迎致します。どうぞごゆっくりされてください!」
まるでテレビで見る老舗旅館の美人女将のようで、由美は思わず口が開きっ放しになった。そんな由美の様子など気にすることなく、健太はなおも言葉を続ける。
「あなた方の宇宙船が壊れたことに、イカンの【ン】を表したいと思います!」
「――――はぁ⁉」
由美の裏返った声が薄闇に響く。
怪しい生き物の顔――らしき部分が一斉に向けられた時は生きた心地もしなかったが、それでも声をあげずにはいられなかった。
「だから、イカンの【イ】よりも【カ】よりももっと強い、最上級のお気の毒さまってことだよ。お前に教わったとおりじゃんか」
頭を下げたまま、顔だけこちらに向けて得意げに言い放つ健太に、
「って、それ全然違うじゃーんっ!」
俄然、調子を取り戻した由美はすっくと立ち上がり、激しく抗議し始める。
「遺憾の、ん、って何よ。さっき遺憾の意って教えたばかりじゃない!!!」
「これでいいんだっ!」
「いいわけないでしょっ? アンタ宇宙人の前で間違った日本語使ったりしたら、それが銀河全体に広がってスタンダードになっちゃう――――いいえ、宇宙人なんかいないっ、これは絶対にテレビのバラエティか動画の撮影に決まって」
「お前だって、さっきまで腰が抜けてたじゃねーか。オシッコちびったのかっ?」
「……そっ、そんなことするわけないでしょっ!? アンタこそ、トイレから出てきたら、プラプラさせないでちゃんとハンカチで手を拭きなさいよ!!」
「それとこれとは関係ねぇだろっ! たまたま忘れたんだよっ!」
低次元の言い争いを始めた子供らを前に、三体の怪しい生き物も途方に暮れているかのように顔を見合わせている。だが、その言い争いも長くは続かない。
「「――⁉――」」
(↓続きます)




