3.幼馴染、仲良く(?)田舎道を行く。
初回のみ1日3話投稿です。こちら3話目になります。
先に1・2話目をお読みになることをおすすめ致します。(-人-)
五月の日の入りは六時過ぎ、日は傾いてもいまだ明るい三時半の帰り道である。
植えたばかりの苗がそよぐ田んぼから、小島のように突き出して見える里山群が、午後の淡いオレンジ色の日差しにぼんやり霞んで見えた。
「――おい由美。おせぇぞ」
ずんずん歩く、田んぼのあぜ道――。
道なき道を歩くのは、数歩先行く健太の専売特許だった。
この間、うっかりあぜ道から足を滑らせた由美は、水を張ったばかりの田んぼに片足が嵌ってしまった。その時の、靴がめり込む泥の粘り具合と、足を抜いてからの靴下の冷たくてぐしゅぐしゅした感触を思い出し、眉間の二本皺が深くなる。
「……動物じゃないんだから、ちゃんとした道ってのを歩いてくれない?」
「この方が近道なんだよ」
「大体、なんであたしがアンタなんかと一緒に帰らないといけないわけ?」
「別にいいじゃねーか。近所だし」
「お隣さんっていっても、ひと山向こうじゃない」
そんなの近所って言わないと言い募る由美を尻目に、健太はこの過酷な行軍をやめるつもりはないとばかりに鼻歌交じりで突き進むのみである。
健太のくたびれた黒のランドセルの背中を見るだけで、歯抜けの馬鹿面に浮かんだ笑い顔が容易に想像出来てしまい、由美はますます不愉快になった。
「……アンタと一緒に帰るのだって、親が勝手に決めたことだし。あたしはひとりだって全然平気。余計なお世話だわ」
由美がランドセルの柄をぎゅっと握り締めて呟くが、健太は何も言わなかった。
健太の家は由美の家よりさらに二キロ程遠くにあるのだが、紛れもなく一番近いお隣さんではあった。
昔から家族ぐるみの付き合いで、小さな頃から健太の両親に可愛がって貰った。だが、健太は何を考えているのか分からないところがあって、正直、苦手だった。
一部の物好きな女子には人気があるようだが――足が速くてある程度顔が整っているだけでモテる――由美から見るとおサルさんのように耳ばかり大きくて色の浅黒い痩せっぽちでデリカシーのないただの幼馴染にしか過ぎない。
おまけに、上背だってまだ由美の方が高いのだ。ほんの少しだけ、だったが。
――大体、アレは何年も前の話だし。
由美は胸のうちでひっそりと呟く。
人口密度の低いこの村では、農閑期になると人に出くわす機会がぐっと減る。
由美は生まれも育ちもここだが、以前、下校途中に見知らぬ車の運転手に道を聞かれて案内しようとしたところを無理矢理連れ込まれそうになって以来、シルバーの乗用車も見知らぬ人も、すっかり恐くなってしまった。
両親がそのことを、いまだに気遣っているのは由美にも分かっている。
「だからって、何で」
毎日毎日、健太なんかと一緒に登下校しなければならないのだろうか。
眉間の二本皺を揶揄われるし、五キロの道はけもの道を爆速だ。
挙げ句、田んぼに落ちないよう気を付けないといけない。
なんでなんでなんで――――。
なんでという文字が手を繋いで、由美の頭の上をグルグル回っているみたいだ。
クラスは小学校を卒業するまで同じ、地区にひとつしかない中学校もやはり学年でひとクラスしかないので一緒だ。こうなってくると腐れ縁で、ほかの地区にある高校までいっても、ずっと同じクラスかもしれない。
由美は田畑と空と山以外何もない風景を眺め、一面の浅緑に溜め息を付いた。
「まったくもって、遺憾の意だわ」
(↓続きます)
読了、お疲れさまでした。(-人-) 以降は一日一話投稿となります(完結保証付)
もはやどこのジャンルに、どなた宛てにオススメすればいいのか分からなくなってしまった拙作ですが、もしまだ続きを気にして下さるようなら、ブクマ・評価等頂ければ幸いです。(-人-)




