2.男子が真面目に掃除をしない件について。
初回のみ1日3話投稿です。こちら2話目になります。
先に1話目をお読みになることをおすすめ致します。(-人-)
――遡ること十数年(歳月は無情です!)
当時はまだ合併前で村だったこの地区に、築七十年を越える木造の古びた校舎を持つたったひとつの小学校があった。ちなみに現在では廃校となっている。
その、ひとクラスだけの五年生の教室から、少年らの騒がしい声が響いてきた。
空のゴミ箱を抱えて教室へ戻って来た由美の、細い柳眉がピンと跳ね上がる。
「ちょっとー、男子達っ!!!」
二本のお下げを愛らしく肩に垂らした由美は腰に手を当て、眉間にトレードマークの縦皺を刻んで怒鳴り付けた。
教室の後方に寄せられた机と椅子に飛び乗っていた男子らが、ビクリと動きを止める。ほうきとちりとりを手に手に叩き合っていたのは明白で、掃除は由美が教室を出た時からまったく進んでないように見えた。先月の四月から高学年の仲間入りをしたというのに、あまりに餓鬼過ぎると由美は脱力する。
「真面目に掃除しなさいよっ! いつまで経っても帰れないじゃないっ!」
「「「そうよそうよー!」」」
由美が戻って来るまで、イライラしながら男子らの有様を見守っていたのだろう。ボブだったりショートだったりするほかの女子らも、机を拭きながら黒板消しを叩きながら由美に迎合した。
女子らの総意を得た由美は、なおも言葉を続ける。
「あたし、家まで五キロあるのよ。真っ暗になったら誰か送ってくれるの⁉」
しみじみ頷く女子一同。由美の自宅はクラスの中でも一、二を争う遠さだった。
バスはとっくの昔に廃線、自転車通学も認められていない為、毎日片道一時間半掛けて徒歩で登下校しているのだ。中学生になれば自転車通学が可能になるが、それまでの辛抱だと由美は毎日自分に言い聞かせている。
男子達はバツの悪そうな顔を見合わせた。ほかの女子ならいざしらず、当時の由美はパッチリ二重で色白の器量良し、ワンピースから伸びる脚もすんなり伸びた可憐な少女だったからだ。さすがのお子ちゃま男子一同も、明らかに間違った悪口――ブスとかデブとか――を言うのに抵抗を感じる程度の分別はあった。
そんな由美に、甚だ不本意な悪態を付いてくる男子は、ただひとり。
「――つまんねーことでガタガタ抜かすなよ、由美」
「健太、アンタどこに行ってたのよっ!」
「便所だ便所。小便すんのに、いちいちお前の許可が必要なのかよ」
サルみたいに大きな耳をした少年――リアルな猿ではなくデフォルメされた絵本的なお猿さん――坂上健太が、半ズボンのチャックの噛み合わせが悪いのか、しきりと引っ張りながら教室に入って来た。そして、
「そんなにこえー顔してると、ばーちゃんみたいに皺が消えなくなっちまうぜ」
ニヤニヤしながら健太が自身の日に焼けた眉間の辺りを人差し指で小突くと、硬直していた男子らもたがが外れたように一斉に笑い出す。
「……ゆ、由美ちゃん」
お下げが逆立ちそうな勢いで顔を真っ赤にした由美を、女子らが気遣う。由美は由美で、どう言い返してやろうかと煮えくり返った頭で必死に考えていると、
「ちゃっちゃっとやって、早く帰ろーぜ」
健太は男子らを促し、ガタガタと机を運び始めたではないか。
教室の掃除はスイスイ進み、やがてクラス担任が教室に入ってきたことで、由美は反撃するチャンスを完全に失ってしまった。愛用の国語辞典があればその場で殴り付けてやるところだが、生憎とランドセルの中に収まっている。
不完全燃焼の由美はゴミ箱を叩き付けるように、教室の後ろ、所定の場所にがコンと置くしかなかった。
しかも、本当に頭にくるのは、これからなのだ――。




