六月二十四日 僕が悪魔を見た日
「はい、では明日もまた頑張ってくださいねー。解散!」
終礼が終わった。やっと家に帰れる……。
隣の悪魔はお疲れのようだ。朝はあんなに元気だったのに、萎れて隣の机に突っ伏している。角が他の人の体に当たりそうで怖い。
「……学校思ってたのと全然違った。難しい話ばっかでなんにもわかんなかったよ……。すうがく、とか何の話をしてるの? 言語は全部完璧に分かる悪魔の能力でも、言ってる意味理解できないとかどういうわけ……?」
悪魔にはやっぱり難しかったんだろうな。そういう僕もさっぱり分からなかったけど。
あの事故からパニックになっていた間、学校に行けてなかったから、今ついていける教科は、ほぼない。これからの学校生活どうしよう……。
帰る準備をしながら、今日を思い返す。
前回と同じく、僕に話しかけてくれる人はほぼいなかった。多くの人が僕のことを憐れむような目で見ていた。幾数人が、大丈夫かと心配してくれたけど、頷くとみんな離れていった。少し愚痴になるが、大丈夫かと言われたら大丈夫と返すしかないじゃないか。まあ、別にもう大丈夫だからいいけど。
悪魔は今日も相変わらず僕のそばにずっといた。数学の授業では、僕と一緒に頭が痛くなったりしたのにも関わらず、ずっといた。どこかへ行くこともできただろうに、どうしてずっといてくれたんだろう。彼女への謎は深まるばかりだ。
よし、準備終わった。帰ろう。友達同士で談話している彼、彼女らのそばを、そっと通り抜ける。
――――
「これ毎日続ける人間らっておかしいよ……。タフすぎるよ」
部屋の中で悪魔がごろごろしながら今日のことをごねる。
しょうがないよ、学校だもの。人間はこの工程を経て大人に、社会人になっていくんだ。学校の物理とかは、専門職とかに就かないと正直意味ないけど、大人になるためには大切なんだよ。心のなかで悪魔に諭す。が、本人は目を閉じて唸っている。
そういえば、僕にはあの角の収納を見てから気になってることが一つある。それは、悪魔には、他にも表には出してないもっとThe 悪魔って感じのものがあるのじゃないかということだ。コウモリの様な羽や、鋭い牙みたいな悪魔らしさ。
少し。いや、大分気になる。悪魔に、背中から羽根は出ないのか?というアピールをする。注目してください。僕は背中に手を寄せて、パタパタ動かす。のと、口の牙を指で表現する。伝われこの思い。
「んー?……翼? 歯……、あっ、牙か。あるのかって? あーあー。ごほん。……私は悪魔。地獄からの使者。魂を刈り取るもの!」
急になんか口調変わりだしたぞ。声が、ワントーン低くなった。
「私には翼も牙もある。 刮目せよ! これが私の本当の姿だ!」
この悪魔、刮目とか使えたんだ。意外。
そんなことを考えていると、部屋の空気が少しずつ重くなっていくのを感じる。悪魔の黒髪が妖艶に波打つ。
一つ瞬きをした瞬間、そこにいたのは紛れもない「悪魔」だった。
頭上に生える黒曜石のような光沢を持つ角、ツンと尖った耳、縦に開いている鋭い瞳孔。そしてなによりもまず目につくのが、彼女の身の丈と同じぐらいの大きさの一対の翼。僕の想像していたコウモリの翼の山のようなところの上に鋭利な爪が輝いている。また、彼女の腰からは、細くから徐々に太くなっていき、先端はスペードのような形になっている尻尾が遊ぶように伸びている。
「………………!」
僕が、唖然と言葉を失っていると、そのままの状態で悪魔が寄ってくる。正直言うと、結構怖い。
「…………ふぅ。久しぶりに全部解放して、疲れたー! ねえねえ、驚いた? これは、本気の悪魔全開モード! 人間たちをビビらせるときとか、優位に立ちたいときとかにこのモードになるよ! ちなみに地獄ではいっつもこんな感じ〜」
説明を終えると、ひゅんっと角以外がもとに戻った。その瞬間威圧感が消える。いつの間にか体がこわばっていた。
結果。思ってたよりも悪魔は「悪魔」で驚いた。僕はこれからはもうお願いすることはないだろう。いつもの悪魔とは違って、結構かっこよかったけど。
大抵九時から十時までの間に投稿すると思います。その時間よりも早く執筆できたら早く投稿します。