六月二十三日 僕が悪魔に起こされた日
翌朝、悪魔の声で目が覚める。
今日は退院してから二回目の登校日だ。ただただひたすらに憂鬱な気分。カーテンのすき間から見える空は僕の心とは裏腹に美しく澄み渡っている。
「起きろー!!」
隣で悪魔が騒いでいる。
昨日とは違って、今日はやけに寝起きのテンションが高い。朝からそのテンションはきついって……。
ちなみに昨夜、悪魔がぶつぶつぼやきながら布団のなかに潜り込んできた。なので、僕は悪魔を優しーく蹴って追い出した。
あのさ、悪魔って一応女の子だよね……?常識どこに置いてきたの?あっ悪魔に人間の常識通じないんだった。そんな皮肉も毒づいてしまう。
「ねぇ! 早く学校行こうよ! 私、学校って行ったことないんだよね〜。人間達が生きるためのすべを勉強する場所ってことは知ってるんだけど、具体的にはなぁんにもわかんないの!」
はぁ、学校……行きたくないなぁ。バスの中でパニックになっちゃったから、気まずいし。絶対みんなに引かれてるよ。
リビングで朝ごはんを食べる。僕の隣に悪魔は突っ立って、しげしげとごはんを眺めている。
今日の朝ごはんは焼き鮭と、白米、みそ汁だ。ほかほかの湯気が美味だと伝えてくる。僕は朝ごはんはしっかり食べる方だ。食べないのとはまるで体調が違う。食べないと集中できないし、お腹の音も結構大きな音で響き渡るタイプだから恥ずかしい。
そういえば、悪魔が食事しているところを見たことがない。やっぱり悪魔だから、普段から周りの魂とか食べているんだろうか。それとも、食べないでも生きていける存在なのだろうか。
お米を指さして、悪魔のほうにその指を向ける。
「んー? お米? 私が食べないのかって? 私たち悪魔は人間界にいる間は周りのエネルギーを体に勝手に取り込んでいくから、食べなくても平気なんだー。あ、でも、嗜好品としてなら食べることできるよー! ちょっとくれたりしない?」
前も思ったけど、悪魔って僕らの世界に適応してるんだなぁ。ごはんをちょっと欲しいというので、鮭を一口サイズにしてお米の上に乗せたものを口の中に放り込んでやる。
「んー!!! すんごい美味しい! 地獄にはこんな美味しいものないよぉ! 塩気がお米に絡んでおいしぃぃ……!ずっと人間界にいたい」
喜んでもらえて良かった。
そうこうしているうちに、そろそろ家を出ないとまずい時刻になってきた。急いで支度をする。
◆◆◆◆
「いってらっしゃいー。頑張れよー」
父からの見送りを受け取る。今日はいつもよりも早めに学校に行くために家を出る。バスの中のことなどの話を先生と少し話さなければならないからだ。
「がっこー! がっこー!たのしみ〜!」
ほんとにこの悪魔元気だな。
――――
先生との話は十分程度で終わった。悪魔はその間つまらなかったのか、部屋の中をうろうろしていた。
そろそろ始業時間だ。教室へ向かう。
「おはよう。あのあと大丈夫だったか?あの時、止めてやれなくてごめん。俺が想像できないくらいしんどかっただろうし辛かったよな。」
智也が気にすることないのに……。と思った矢先に悪魔が騒々しく話しかけてくる。
「ねぇねぇ! この人だれ? 仲いいの?」
智也には悪魔は見えていないから、ここで僕が悪魔に反応しちゃだめだ。虚空に向かって頷いたりジェスチャーするヤバいヤツになってしまう。だから、悪魔は無視して智也に向かってノートに文字を書く。
『気にしないで。あの状況じゃたぶんどうすることも出来なかっただろうし、僕はもう平気だから、大丈夫! 次からもう乗らないようにすればいいし、学校側も配慮してくれるみたい』
「そっか。分かった。でも無理すんなよ。できるかぎりサポートするから、何かあったらいってくれ」
「むむぅ……。読めない……。」
悪魔は文字が読めないから、置いてけぼりを食らっている様子だ。頬を膨らませてすねた表情をしている。今までずっと悪魔のペースだったから、ほーんのちょっとだけ気分が良くなった。