六月二十二日 僕が悪魔に詰め寄った日
おまたせしました。
朝起きると僕の身体はベッドの左端の方にあって今にも落ちそうだった。足なんか、ちょっとはみ出てている。なんだか身体の右側が重く感じるし、布団も引っ張られている。嫌な予感がしつつ見てみると、
「ぐー……。スゥ……」
「っ!!!」
悪魔が隣ですやすや寝ていた。
なんで隣にいるんだよ!
思わずベッドから逃げ出す。シーツが足に絡みついて動きにくかったがそんなの構ってられない。シーツごとベッドから離れて、驚愕の思いで悪魔を見つめていると、バタバタ揺れたからか彼女は目を覚ました。
「もぉ、なによぉ。うるさくしないでよー。ぐっすり寝てたのにさぁ」
寝起きだからか間延びした喋り声だ。紫の瞳は半分しか見えておらず、頭にはぴょこんとした立派な寝癖がついている。が、あの角がない。やっぱり悪魔なんかじゃなかったのかな。いや、それはそれで新たな問題が生まれるんだけど。
頭の上で人さし指を立てて、角はどこいったのかと必死に伝える。
「んー……? 角? あぁ、どこいったのかって? ゴツゴツして寝にくいから、体の中にしまってるよー」
言い終わったかと思うと、ジャキン!!と勢いよく頭から見覚えのある二本の角が生えてきた。悪魔の頭の上に顔近づけたら危ないわ。失明のリスクあるかも。
いやいや、そうじゃなくて。隣では寝ないでくれって伝えないと。もう二度とやめてほしい。ほんとにびっくりするから。
ベッドに座る。
隣の空間を指さす。
手でバツを作る。
「え……? どういう意味……?」
うーん駄目そうだ。悪魔はキョトンとしている。僕の全力は伝わらなかった。やっぱり悪魔には常識を求めちゃ駄目なのかもしれない。また今夜とか寝に入るときにもう一回伝えよう。
ガラッ。
「おはようー、よく眠れた……か……?」
父親が来た。背筋が凍る。顔の血の気がサァっとなくなっていき、冷や汗がどばっと分泌されたのを感じる。いやあの、これは違うんです。いやホントに。ちょっと助けてくれよと悪魔に目線を向けるが当の本人はこっちを見もしないでふわぁとあくびをしている。あくびしてる暇ないんだよ弁明してよ。
「あの……どうしてシーツごと突っ立ってる訳?」
「私の姿はぁ、今んとこ君にしか見えないようにしてるから、心配しないでいいよ…………ねむ」
それならそうと早く言ってくれよ。病室でシーツごと突っ立って顔色悪くしてる変なやつになっちゃったじゃないか。
ベッドを指さして、そのままくるくる地面に落とす。ベッドから落ちただけです。お父さんは悪魔とは違ってすぐに分かってくれたみたいだ。
「ああベッドから落ちたのか。珍しいな、生まれてから寝相はずっと良いのに」
なんとかごまかせた。良かった。
「もうそろそろ退院するから、すぐ出れるように荷物まとめとけよー。お父さんは手続きしてくるから、それまでにな」
一つ頷く。
お父さんが出ていったのを確認したあと悪魔に詰め寄る。僕の怒っている様子でやっと目が覚めたのか、どういうことか説明してくれるようだ。
「ごめんごめん! 先に言っとけば良かったね。私は対象の人間以外になら、誰から見えるかを調整することができるの! 仕事上姿を見られたらやりにくくてね……」
悪魔ってそんなこともできるんだ。他にも言ってないことがあるなら早め早めに言っておいてほしいが、伝えるすべはない。仕事上って言ってたけど、悪魔のなかにも組織とかがあるんだろうか。
しばらくしたあと、お父さんが帰ってきた。手続きは終わったらしい。僕らは病室からそのまま歩いて家に帰った。
◆◆◆◆
「ふーん、ここが君の部屋かぁ」
僕の部屋の真ん中で片足立ちでグルングルン回りながら悪魔が言う。見てるこっちの目が回りそうだ。
「ねぇねぇー。私、君の傍に魂を刈るそのときまで、基本一緒にいるからねぇー」
悪魔の回転が止まり、彼女はその場にうずくまる。
「うっ……目回って気持ち悪いぃ……」
ああ、僕の毎日はどうなるのだろうか。