表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

五月の半ば 僕の声が出なくなった日

今回には、残酷な描写がありますので、閲覧する際にはお気をつけください。


◆◆◆◆


 僕の声は、あの事故から出ない。


 四月の初め、高校二年生に無事進級したことのお祝いに、家族で外国に旅行に行った。知らないもの、見たことない場所、そういうものをいっぱい見て――その旅行の帰り道。空港から帰る車の中で両親とと旅行の思い出を話し合っている瞬間。



 右からトラックが勢いよく飛び出してきた。そして、車に激突一一



 すべてのものが、スローモーションに見えた。トラックが当たり、ひしゃげていく車体。その車体とともに潰れていく母の体。そこから垂れていく赤。驚きから泣き顔に変わり母へ泣き叫んでいる父の声は、僕には聞こえなかった。呆然と目を見開いた僕の姿が反射鏡に映っている。それらを認識した瞬間、車体は左方向へ激しく吹っ飛んだ。体の左側に強い衝撃を感じて、叩きつけられて……。

 

 ここまでしか覚えていない。もっと忘れていていてもよかったのに。全部全部忘れていたかった。


 楽しかった家族旅行の思い出は、思い出したくないものに変わった。

 

 奇跡的に、僕と父は生き残った。トラックにぶつかられたのに、二人とも全身への強い打撲までで、骨は折れていなかった。


 父の話によると、そのあと僕は泣き叫んで、パニック状態になっていたらしい。周囲の人が呼んでくれた救急の人の指示にも従わず、ただただ暴れ狂っていた。病院につき、適切な治療が行われたあと、僕は家の近くの精神病棟に入院させられた。その頃には父はもう退院していたため、家から近い場所のほうが見舞いがしやすいだろうという病院の配慮だった。


 五月の初めまで約一ヶ月間、僕は正気じゃなかった。事故の時と、正気になってからの記憶しかないから、やっぱり全部父から聞いた話なんだけど。

 病院では、ただぼーっとしていた。ただ呼吸をして、生きているだけだった。でも、その瞬間、突然叫びだしたり泣きだしたりすることが頻繁にあったらしい。暴れて傷が開かないように、手足はテープで固定された。

 そんな状態から徐々にパニックを起こす頻度がなくなって、静かに過ごすことが多くなった。その頃ぐらいから僕の記憶は断片的に残っている。


 突然泣き出すことや、叫びだすことがなくなって、幾日か経ったある日。



 僕の声は出なかった。



 声帯がぴっちり閉じたようで、息はできるが口を開いても音が出てこない。音の出し方が、わからない。息を吐くときに、音を載せようとしても、ただの息しか出てこない。


 見舞いに来てくれた父に身ぶり手ぶりで伝え、医者に診てもらうと、心因性失声症と診断された。精神のストレスによって声が出なくなってしまったのでは。と伝えられた。



 五月の半ば、僕は退院した。その日父に連れられて帰るとき、目に映る車全てに、嫌悪感を覚えて、


「…………っ!!!」

「どうした! 大丈夫か!」


 思わず地面にしゃがみこんで吐き気を抑えた。車が、怖い。見ただけで、嫌でもあの事故を思い出す。その場に三分ぐらい留まって呼吸を整えて、下を向きながらなんとか家に帰った。



 それから、僕はなるべく車を見ないようになった。日常生活のなか、目の端に映る車を見ると気分が悪くなるが、何度も見るうちに慣れたのか、吐き気はせども、その場にうずくまるなんてことはなくなった。


1話目から、2話目までは短時間で更新できましたが、これからは不定期となります。

なるべく多く執筆したいと思っていますので、どうかご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ