入学式 アステリア視点
今日は、学園の入学式——
いよいよ、この日が来た。
窓から差し込む朝の光が、今日という特別な一日を告げている。
けれど、胸の奥には小さな不安が渦巻いていた。
ヒロインは、まだいない。
この数年間、私はイーサンと確かな関係を築いてきた。
できる限りのことをして、彼との絆を深めたつもり。
でも……
怖いのは、ゲームの強制力。
この世界が本当にゲームのシナリオ通りに動くのなら、イーサンもまた、いずれヒロインと恋に落ちてしまうのだろうか?
今はまだ私と親しくしてくれていても、もし彼が「運命の相手」に出会ってしまったら——?
「……ううん、イーサンはイーサンだもの。」
この数年間、彼と過ごしてきた時間は何物にも代えがたい。
私は、彼を信じたい。
そう思いながら気合を入れて支度をしていると、執事が部屋を訪れた。
「お嬢様、イーサン様がお迎えにいらしています。」
イーサンが?
少し驚きながらも、すぐに身支度を整え、彼のもとへ向かう。
玄関に降りると、そこには変わらぬ輝く笑顔のイーサンがいた。
「おはよう、リア!」
彼は自然な仕草でそっと腕を差し出す。
「おはよう、イーサン!」
その手に応じて、私は彼の腕を取り、エスコートされながら馬車へと向かった。
彼との関係は、この数年でさらに親しいものになった。
——だからこそ、余計に不安になる。
馬車に乗り込むと、イーサンは少し真剣な表情をしていた。
「リア、目を閉じてくれる?」
「え……?」
「いいから。」
戸惑いながらも、言われた通りにそっと瞼を閉じる。
すると、首元にひんやりとした感触が触れた。
「……!」
驚いて目を開けると、イーサンの手が私の首元に触れている。
その指先が、小さな留め具を器用に留めるのが見えた。
「……イーサン?」
「うん、つけたかったんだ。僕の手で。」
彼が私の首につけたのは、美しく透き通る青い宝石が輝くネックレス。
その色は——イーサンの瞳と同じ色。
「これ……?」
「僕の目の色の宝石で作らせた。ずっと、君に贈りたくてね。」
彼は少し照れくさそうに笑った。
「君が心配していたこと、僕だって気づいてたよ。だから……これを見て、いつでも僕の気持ちを思い出してほしい。」
彼の指が、そっとネックレスのペンダントをなぞる。
「僕の想いは、君だけに向いている。誰が現れようと、それは変わらない。」
「イーサン……。」
胸の奥が、温かくなる。
不安でいっぱいだった心が、すっと軽くなっていくようだった。
私は私。
イーサンはイーサン。
この先、何が起こっても、私は私の道を進めばいい。
やがて、馬車が学園の正門の前に到着した。
私たちは静かに降り立つ。
新しい世界の扉が、目の前に広がっている。
私は、凛と背を伸ばし、前を見据えた。
——私は大丈夫。
あくまでもこれは現実のことなんだって思っていても、心には、ゲームの強制力という不安がつきまとっています。 ゲームがどんなものか知らずとも、アステリアが常に不安を抱えていることに気づいていた
イーサンは、ネックレスをプレゼントします。
これが少しでも彼女に元気を出してもらえるように、と。




