公爵令息ルートの悪役令嬢タリアside②
ベテアル様からのお返事はすぐに届いた。
流麗な筆跡で綴られた文字には、城下町へ行くことを快諾する旨が記されており、その最後には控えめな「楽しみにしています」という一文が添えられていた。
この短い言葉に、わたくしの胸はときめいた。
純粋に交流を深めようという気持ちだけでなく、わたくしとの時間を心待ちにしているのだと感じられて——まるで、乙女のように心が浮き立つ。
迎えの日。わたくしは薔薇の香水を軽くまとい、淡いピンクのドレスを選んだ。
華美になりすぎず、それでいて可憐さを忘れない装い。
ベテアル様の瞳に、わたくしがどう映るのか……少しだけ意識してしまう。
馬車が止まり、扉が開かれる。わたくしが降り立つと、そこにはベテアル様がいた。
「お迎えにあがりました、タリア」
わたくしの手を取る彼の掌は、どこか緊張しているように感じた。ふふ、可愛らしい方ですわね。
「ありがとうございます、ベテアル様。今日はよろしくお願いいたしますわ」
微笑みかけると、彼は少し頬を染めながら小さく頷いた。
ああ、なんて初々しいのでしょう。わたくしの方が心を奪われそうです。
馬車に揺られ、城下町へ向かう。
窓の外を眺めるベテアル様は、時折、町の様子をわたくしに説明してくださる。
その横顔はどこまでも優しく、民を思う誠実な公爵令息の姿があった。
「僕は、貴族としての義務は果たすつもりだけど……それ以上に、この国に生きる人々の暮らしを良くしたいと思っているんだ」
真摯な言葉に、わたくしはうっとりと見つめてしまう。
お慕い申し上げるお相手が、これほどまでに高潔なお方であることが誇らしくてならない。
「わたくしも、そのお考えに共感いたしますわ。どうか、この先もお傍でお力添えをさせてくださいませ」
自然と紡がれた言葉。
しかし、それを聞いたベテアル様は少し戸惑ったように目を瞬かせ、やがて——そっと、わたくしの手を握った。
「……タリアがそう言ってくれるのなら、心強いよ」
彼の手は温かくて、けれどわずかに震えている。
その初々しい仕草が愛おしく、思わず指を絡めるように握り返した。
すると、ベテアル様は驚いたようにわたくしを見つめ、すぐに目をそらしてしまう。
顔がみるみる赤く染まり、微かに唇を震わせた。
「タ、タリア……っ、こういうことに慣れているのかい……?」
「ふふ、どうでしょう?」
少し意地悪に微笑むと、彼はさらに顔を赤くして俯いてしまった。
うぶなベテアル様が可愛くて、わたくしはそっと囁く。
「……手を繋ぐくらい、婚約者同士なのですもの。自然なことではありませんか?」
「そ、そうかもしれないけど……」
彼の動揺する姿が、胸の奥をくすぐる。これから先も、わたくしが彼を翻弄する日々が続くのでしょうか?
……いいえ、それもまた甘美な時間ですわね。
初心令息×恋愛教育令嬢




