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SF作家のアキバ事件簿205 新司令官、着任

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第205話「新司令官、着任」。さて、今回は、被弾し生死の境を彷徨う敏腕警部を尻目に南秋葉原条約機構に新しい司令官が着任します。


折りから発生した秋葉原セレブの猟奇的な殺人事件をめぐって、新司令官と万世橋警察は意見が対立、合同捜査の絆に亀裂が生じますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 はじまりの終わり


死なないで…


遠くで誰かの声。だが、意識は闇に落ちる…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「死なないで、ラギィ警部!しっかりして!」


"外神田ER"に乗り付けた救急車がストレッチャーを下ろす。直ちに救急隊員が馬乗りになって心臓マッサージw


「頑張ってくれ!警部、目を開けて!」

「心肺停止?」

「どけ!ソコをどいてくれ!」


警報が鳴り非常灯が回転。ERスタッフが救急隊員と交代スル。ストレッチャーはオペ室へと滑り込む。


「後は私達に任せて!」

万世橋(アキバポリス)にとって大事な人なんだ、頼む!」

「34才。女性。搬送中に心肺停止」


ビニ手をしながら当直医が現れる。


「圧迫中断。もういいぞ」

「心拍が戻りました」

「…ラギィじゃないか」


変わり果てた姿に立ちすくむシュリ。


「呼吸がナイ。オペ台に載せるぞ。1, 2, 3!…コバク先生を呼んでくれ。大至急!」

「お知り合いですか?」

「恋人だ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「犯人がいない?バカ言わないで!」

「検問の準備を…いいえ、今すぐ始めて」

「だから、人が消えるワケがないでしょ!」


返り血を浴びた、世にも恐ろしいメイド服を着てるエアリ&マリレが、万世橋(アキバポリス)に次々と指示を飛ばす。


「現場周辺の防犯カメラは、全てチェックして。今直ぐやって!」

「ダメょ。全員でやって。今すぐょ!」

「…ラギィの容体は?オペは始まったの?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「胸腔チューブ!血圧は?」

「86の60。左胸が溢血してます。心拍出力が低下」

「待てないな。挿管の準備だ。チューブは?」

「後ろです…知人のオペは、別の医師が担当スルのが規則ですが」

「一刻を争う。ラギィ、今、助けてやるからな…しかし、葬式に参列してたンじゃナイのか?なぜ撃たれなくちゃいけないんだ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ヲタッキーズ、狙撃犯(スナイパー)は?」

「テリィたん、ソレが…消えちゃったのょ!」

「そんなバカな」


軍隊上がりのマリレが解説。


「現場には、凶器のスナイパー音波ライフルだけが残されてた。特殊部隊で使われる音波狙撃銃マーク11を改造してる」

「テリィ様」

「テリィたん!」


僕の推しミユリさんと御屋敷(メイドバー)の常連のスピアだ。


「何てコト?」

「大丈夫。心配するな」

「テリィたん…」


スピアは泣き出す。


「ラギィは?娘は何処だ?」


次に現れたのは…ラギィのパパ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「血圧80-60から78-56へ」

「くそ。どこから出血してるんだ?肺静脈か。クランプ」

「はい」


手渡される。


「よし。やっと見つけたぞ。ココだ」

「血圧、さらに低下」

「シュリ。待たせたな」


担当の執刀医が入って来る。


「34才。女性。胸部に銃槍。胸腔に大量の出血あり。チェストチューブで対処中。左下肺静脈をクランプしたトコロです」

「OK。シュリ、後は俺がやる。交代しろ」

「縫合だけさせてくれ」

「お前の気持ちはわかるが、お前はやるべきコトをやるんだ。縫合糸!」

「くそっ!」


手術着を脱ぎ捨てるシュリ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


廊下を鬼の形相で歩いて来たシュリは、僕の前に立つ。僕は、驚き彼を見上げる。何を怒ってルンだ?


「おい。ラギィは、なぜ撃たれた?」

「犯人は、南秋葉原条約機構(SATO)のレイカ司令官の死と関係がアルと思われます」

「良いんだ、エアリ。僕が答えるょ。僕は、ラギィを守ろうとしたが…」


いきなり突き飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。スピアが悲鳴を上げる。


「貴方、何てコトをスルの?!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「血圧、さらに低下。67の48」

「別の箇所から出血してる。何処ナンだ?」

「コチラからは見えません」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「お前が彼女の母親の事件を蒸し返したせいだ。おい、SATOの司令官が死んだのも、お前のせいじゃないのか」

「なんてコトを言うの!テリィたんに謝って!」

「いい加減にしてくれ。娘が生と死の"分水嶺"を彷徨ってる。くだらない喧嘩はヤメてくれ」


スピアがシュリに食ってかかり、ラギィのパパが怒鳴る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「バイタル低下。65の45。危険な状態です。心膜が膨張してる」

「胸腔に血液が溜まって、心臓を圧迫してルンだ。弾丸が心室を傷つけてる」

「心室細動!」

「除細動!10にチャージ…離れて!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「シュリの言う通りだ。全部、僕が悪い」

「テリィ様、自分を責めないで。テリィ様が撃ったワケではありません」

「しかし、僕が彼女を危険に晒した」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"charging 10J"の文字が明滅。


「チャージ完了。離れて」

「除細動!…ダメか。収まらない。20にチャージ。もう一度ヤルぞ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「彼女に気持ちを伝えるべきだった。愛してると」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「離れて」

「心停止!」

「ココまでか?」


呆然と立ち尽くす医師。瞳を開けないラギィ。


第2章 ラギィの目覚めと鋼の女


オペ室前の廊下。長い陰気な時間が流れ、突然、手術中の赤ランプが消え、痩せた執刀医が顔を出す。


「ご家族は?」

「はい。父親です。無事ですか?」

「今、オペが終りました。今は、自己心拍が再開しています。だが、オペの最中に彼女は心停止の状態に陥りました。危険な状態で予断を許しません」


詰め寄る父親。


「いつ会えますか?」

「落ち着いたらすぐお呼びします。なので、他の皆さんは家に帰って休んでください」

「狙撃犯をとっ捕まえるまでは、家には帰らない」


息巻くヲタッキーズ。その血染めのメイド服だけは着替えろ…と言う間も無く現場へ飛び出して逝く。


「大丈夫。テリィ様も行って」


スピアを抱きながらミユリさんは僕に声をかける。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


秋葉原の朝焼けはオレンジ色だ。夕陽のような色の太陽が秋葉原ヒルズのタワーの谷間を登って逝く。


「犯人が狙撃に使った音波ライフルょ。指紋は拭き取られてる。DNAは結果待ち」

「銃の登録者はわかってないのか」

「製造番号によれば、マテン・ホルス。特殊部隊にいた男で、7年前に半島で戦死。遺体は回収されたけど、彼の銃は戻らなかった」


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。証拠品の音波ライフルが持ち込まれる。ヲタッキーズと情報共有。


万世橋(アキバポリス)の警察犬はどう?」

「墓地の西側で匂いが消えたって」

「なぜ誰も気づかなかったんだ」


溜め息をつくヲタッキーズのエアリ。


「変装ね。墓地の清掃員が木の影に隠れたのを大勢が目撃してる。でも、墓地はそこに清掃員は配置してないって」

「混乱に紛れて、服を脱ぎ捨てて逃走したのか」

「半島の殺し屋だとすれば、今頃、ピヨヤンの偵察総局に御帰宅ね」

「どこまでも追っかけてやる!」


ヲタ友が撃たれ、みんな怒りたっている。


「でも、どうしてこうなった?なぜ終わらない?全ては終わるハズだった。レイカが自分を犠牲にして、ハロル・クウドと差し違えたのは、ソレで全てを終わらせるためだった。なぜ、奴等は未だにラギィを狙うんだ?」


天を仰ぐエアリ。


「神の味噌汁…のみぞ知る」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


秋葉原ヒルズ、というより、摩天楼と呼びたいスチームパンクぽい高層タワー。1Fにアル古い私書箱。鍵を開け、書簡を取り出して、暫し凝視スル老婆。


注意深く周囲を見回し、鍵を閉め足早に立ち去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕は、捜査本部のデスクにうつ伏せになって寝ていたようだ。フト目を覚ますと血染めのメイド服を着たヲタッキーズが歩いている。スマホが鳴動スル。


「テリィだ。え。マジ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


"外神田ER"の狭い廊下に、屈強だが何処か鈍重な感じもスル警官が2人も立っている。

僕は、小さな花瓶付きの花束(花瓶に差し替える必要のナイ優れモノw)片手に髪を直すw


「そのネームバンド、よく似合うよ。ブレスレットみたいだ」


やや?ベッドで半身を起こしているラギィに…寄り添うシュリ。何て間抜けな口説き文句だょw


「あら、テリィたん」

「…じゃ僕は回診してくるよ」

「いってらっしゃい」


微笑むラギィのオデコにキスするシュリ。僕を険しい視線でチラ見してから歩き去る。


「見つめないで、テリィたん。そんなに私、ひどい顔してるかしら?」

「違うよ。また会えるとは思わなくて…どうやらフラワーショップを開くようだね。僕にも出資させてくれ」

「まぁ大口出資者ね」


病室は、大小様々な花束で埋もれてる。


「目が醒めたら、お花に囲まれてた。ほとんどが秋葉原のみんなからよ。大きな借りを作っちゃったわ」

「そのようだね」

「私を守ろうとしてくれたって聞いたわ」

「そうさ…」


え。


「聞いたって…あの時のコトを覚えてないのか?」

「YES。ほとんど何も。追悼スピーチをしてたのは覚えてる。でも、言葉の途中で突然、暗闇に包まれて」

「そっか。覚えてないのか。その…あの、撃たれた瞬間とかは?」

「覚えてないわ。でも、忘れた方が良いコトもあるってよく言うし」

「そうだね」


内心(実は)ホッとする僕。


「目を閉じると、真夜中のヘリポートに横たわったレイカの顔が目に浮かぶの。ホントは彼女を助けたかった。でも、テリィたんが止めたから」

「逝けば、君も殺されてた。ソレをレイカは、決して望まない」

「ソレはわからないわ…テリィたん。私、今ものすごく疲れてるの」

「だよな。また明日話そう」


立ち上がる僕。


「…もう来ないで欲しいの」


え。振り返る僕。


「…ちょっと時間が欲しいの」

「モチロンさ。どれだけ待てば良い?」

「私から電話するわ」

「わかった」


あれ?典型的なフラれパターンだ。高校以来?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その分厚いレタパからは、様々な書類を出て来る。ラギィの母親の死亡写真。ハルロ・クウドの写真。関係書類。ラギィの新聞切り抜き。女性が刺殺。葬儀中に狙撃。detective gets shot…


拳で書類を叩く。


男は、古いガラケーに手を伸ばすが、手を引っ込めて、引き出しからスマホを出して電話する。


D.A.(特別区)議会議事堂です」

「議員会館を」

「かしこまりました」


男は"ラギィ撃たれる"の新聞記事を取り上げる。その下から現れた顔写真に写っているのは…僕だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


2ヶ月後。


ラギィは、大部屋の端に置かれた自分のデスクを見つめる。どこからともなく起こる拍手は次第に大きくなり、やがて署員全員が総立ちで拍手で迎える。


「ラギィ。復帰は来週じゃなかったの?」

「2カ月間、パパの山小屋にこもってたらウンザリしちゃって」

「わかってる。言い訳しないで。私達に会いたかったんでしょ?」

「うるさい」


笑顔が弾けるヲタッキーズ。


「それで、捜査はどうなってるの?進展は?」

「…ソレがナシょ」

「え。でも、墓地のニセの清掃員は?」

「防犯カメラや車のナンバーを全部調べたけど、何も出なかった。凶器の音波ライフルから採取したDNAも、データベースにヒットがなくて…でも、何で?テリィたんから聞いてないの?」

「いいえ、何も聞いてないわ」

「何で言わないの?妙ね」

「言うも何も、最近テリィたんとは会ってなかったから」

「はい?最近ってどれくらいょ?」

「"外神田ER"以来ずっと」


顔を見合わせるヲタッキーズ。


「何かあったの?」

「別に何も。ただ時間が必要だったの」

「にしてもテリィたん、冷たいね」

「私が彼に連絡するからって言ったの」

「じゃ何でしなかったのょ」


ギャレーに移動。ゾロゾロとラギィについて回るヲタッキーズ。パーコレーターからコーヒーを注ぐラギィ。


「テリィたん、ずっと捜査を手伝ってたのょ?」


顔を上げるラギィ。


「でも、新しい司令官に追い出されちゃった」

「新しい司令官?誰?」

「パツア・ゲイツ。警察ゴッコで刑事の真似事をするSF作家は私のSATOには必要ありません、だって。ルール違反は一切許さない。SATOでは、内務調査部でキャリアを積んだ鋼女子(ハガネじょし)

「あらあら。どーやら人気者ではなさそうね」

「仲間を疑うのが仕事なのょ。レイカとはエラい違いだわ」


マリレがエアリに持ちかける。


「ねぇラギィに銀行の話もした方が良いんじゃない?ラギィは未だ知らないンでしょ?」

「銀行って?」

「犯人の手がかりが絶えた時に、テリィたんの提案でレイカ達"3人のゴスロリ"の近辺を探ってみたの。だって、スーパーヒロインから身代金を取り、そのお金で黒幕に賄賂を渡し、ソレがラギィのお母さんの事件に使われたカモしれないのでしょ?」

「で、その時に使われた銀行を見つけたワケ」

「重要な手がかりじゃナイの!」


小鼻を膨らますラギィ。


「でも、その銀行は破綻して、今は口座の記録は行方不明なのょ」

「しかも、私達の動きを嗅ぎつけたパツア司令官が捜査を打ち切れと言ってきた」

「SATO司令官が捜査の打ち切りを指示スルの?コレは万世橋(アキバポリス)南秋葉原条約機構(SATO)の合同捜査でしょ?」


溜め息をつくヲタッキーズ。


「今じゃ捜査の主導権は、完全にパツア新司令官が握ってる。ソレに事件の手がかりはナイし、かといって、レイカが撃たれた真相も話せなかったでしょ?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部に"任意出頭"するラギィ。新司令官のオフィスのドアをノックして入室。


「Ms.ゲイツ」

「Ms.ゲイツは私のママよ。私のコトは司令官と呼びなさい」

「秋葉原P.D.のラギィです。本日より復帰させていただきました」

「貴女がラギィ警部?評判は聞いてるわ。東京湾岸で初めて女性最年少の警部になった。私の記録を抜いて」

「いちいち記録をつけてるんですか?」

「つけてるわ。だって、みんな記録を気にしてる。あら。心理評価は合格ね?お帰りなさい」


徐に用件を切り出す。


「どうも。パツア司令官、警察バッチと音波銃を返してください」

「え。再テストは未だでしょ?」


顔をしかめるラギィ。


「何です?」

「貴女は3ヶ月も休んだのよ。規則通り再テストをしないと音波銃は渡せない」

「私の事件の打ち切りも規則通りですか?」


ラギィ、戦闘開始。


「優秀な警察が必死に捜査しても手掛かりはナシ。一方、殺人は絶え間なく起きてる。貴女達のような警官が、いつまでも無駄骨を折る余裕は何処にもナイわ」

「失礼ですが、ヲタッキーズは私じゃない」

「どーゆーコト?」

「私に捜査させてください。何かわかるかもしれません」

「良い?レイカがどうだったかは知らないけど、私は狙撃された者に事件の捜査を任せるようなコトはしません。ここは復讐の場ではないんですょ?ソレは理解してますね?」


ルールは変わる。新司令官は、かなりワンマンだw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


司令官室のドアを締めて出て来るラギィ。


「どうして音波銃を返してくんないの」

「再テスト受ければ良いでしょ?そしたら、また戻って来るわ。屈辱だけど」

「銀行の資料はどこにあるの?」

「"潜り酒場(メイドバー)"」


絶句するラギィ。


「仕方ナイでしょ?ココに置いといたらパツア司令官に見つかるし」

「彼女に見られたら、レイカの罪が暴かれるわ。だから、資料が見たいんだったらテリィたんに言って。くれぐれも新司令官にはバレないようにね」

「見つかったら何?SATO司令官が私を交通課に飛ばせるの?」

「甘いわ。レイカとは違うの。彼女に逆らえば、全員抹殺されちゃう」


ココでマリレのスマホが鳴動。


「どうしたの?」


歩きスマホで歩き去るマリレ。


「マリレはビビリ過ぎょね」

「それじゃバレないようにヤルから…」

「スーパーヒロイン殺しょ!またも東秋葉原」


マリレが戻って来てメモをヒラヒラさせる。


「ラギィ、来ないの?」

「うん。今回はパスするわ」

「マジ?」


メモを手にキョトンとするマリレ。


第3章 お騒がせセレブの御帰宅


スーパーヒロイン殺しの現場は、秋葉原ヒルズのタワマン高層階だ。いわゆる"金持ちフロア"。


「新司令官に隠れて捜査を続ければ、私達はクビになるわ」

「自分自身が撃たれて犯人は野放し。捜査したいと思うのも当然ょ。ラギィの気持ちも考えてあげないと」

「うーん」


マリレは納得しないママ、非常線をくぐり、ベッドルームへ。サイドのガラステーブルの上に白い粉。


「ドラッグパーティー?」

「被害者はソニャ・ギルバ27才。"blood type BLUE"。第2.5級テレパス」

「あら?この人は…」


真っ白のベッドを鮮血で染め、仰向けに倒れている女。胸が真っ赤だ。婦警がメモを片手に報告スル。


「ソニャ・ギルバって…あのお騒がせセレブの?」

「いつもパパラッチに狙われてる?」

「犯人は、枕で音を消して胸を数発撃ってる」


婦警のタブレットから超天才ルイナの声。車椅子の彼女は、ラボから"リモート鑑識"で手伝ってくれる。


「胸を?じゃラギィは来なくて正解ね」

「え。ラギィが戻ったの?」

「YES。ルイナには連絡来てない?」

「何週間もね」


婦警が報告を続ける。


「遺体は、被害者の妹が1時間前に発見してます。防犯システムは、被害者が恋人と帰宅した昨夜の22時から作動。解除されたのは今朝9時で、その直後、恋人はアパートを出ています」

「指紋は?」

「めぼしい指紋はナシ。死亡時刻は午前3時から4時の間ね」


よどみなく答える超天才ルイナ。


「恋人の名前は?」

「デイル・テイル」

「半年前から噂されてたガールズバンドのドラマーね…あ、私はゴシップは大好き女子だから」

「だっけ?じゃソイツは指名手配」

「わかりました」


婦警は走り去る。


「セレブ女子が死んで容疑者はガールズバンドのドラマー。絶対テリィたんが好きそうな展開ょ。彼、新司令官を説得すれば現場に戻れるかしら」

「もう3ヶ月も連絡ナシだもの。戻る気がナイんじゃナイの?」


第3章 心の壁とコンビの復活


"宇宙女刑事ギャバ子"の新刊本のサイン会場。


「君は最高のファンだ」

「マジ?うれしー」

「僕もウレしい。どうもありがとう」


僕の新刊を胸に抱き、翠色の髪の女が帰って逝く。今、ヨドハシAkiba7Fの書店でサイン会の最中だ。


「テリィたんに会えるなんて、もうマジ信じられない。だって国民的SF作家で大好きナンだモノ」

「来てくれて嬉しいよ」

「マジ?」


僕は"マジ"と逝う言葉が嫌いだ。つまらなそうにサインする。彼女はウフフと愛想笑いで流し目w


「名前、描くょ」

「お名前は?」

「そう。君の名前だ」

「当然だょありがとう」


長い行列の果てに、ソレは突然やって来る。


「ラギィょ」


僕は、顔を上げる。


「"ラギィに"って描いて」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「世話になったね。ありがとう」


書店のスタッフや編集と握手をして別れる。ラギィが書店脇の壁を背に立っている。僕は、その前を黙って通り過ぎようとスル。


「テリィたん、待って」

「待った。3ヶ月待ったよ」

「貴方が怒る気持ちはワカルわ」


言葉がほとばしる。


「ソレは怒るに決まってるさ!救急車で君に付き添った。死んでいく君を間近に見ていたんだぞ。君を失うかもしれないと言う恐怖が、どんなだかわかるか?」

「時間が欲しかったの」

「数日といった」

「もっと必要だったわ」


クルリと踵を返すキャッスル。


「ならそう逝えょ」

「テリィたん、電話出来なかったのよ。現実に目を向ける覚悟が出来なくて、もう、あらゆるものから距離を置くしかなかった。私には整理する時間が必要だったのよ」

「シュリと一緒にか?」

「別れたわ」


歩き去るラギィ。僕は唇を噛む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


裏アキバの小さな児童公園。僕達は、それぞれブランコに乗って揺れている。キッズ不在で独占中。


「テリィたん。素敵な献辞をありがとう」

「ぴったりだろ」

「結末書くのは辛かった?」


え。もう読んでるのかw


「まぁ状況が状況だったからね…なんでシュリと別れたんだ?」

「マジで彼が大好きだった。でも、ソレだけじゃ足りなかったの」


隣のブランコから僕をジッと見る。


「母が殺されてから、私の中で何かが変わった。心の中に壁が出来た。2度とあの時みたいに傷つきたくなかった。なりたい自分になるには変わらなきゃって、思ってはいたけど」

「心の壁?」

「YES。私だって心の壁を壊したい。そのためにも事件を解決したいの。事件を解決しなきゃ私の心の壁は永遠に壊れないわ」


下から見上げるような視線。僕の弱点をつくw


「…仕方がないな。だったら、一緒に犯人を捕まえるとスルか」


ニコリと微笑むラギィ。


「でも、決してラギィを許したワケじゃないぞ」

「色々調べてくれたそうね。身代金が誰に流れて、どうやって賄賂に使われたとか」

「手がかりになれば、と思った。だが、奴等が使った銀行は既に潰れ、全ての口座情報は、神田リバー沿いの倉庫に移されてた。ところが、その何年か後に倉庫は火事で全焼。書類も全て焼失した。また行き止まりの路地裏だ」


直ぐにピンと来るラギィ。


「火災の原因は?」

「配線が火を噴いた」

「確かなの?」


好きだょその性格。


神田消防(アキバファイア)が調査済みだ」

「火災調査官の報告書は見た?」

「いや、でもさ。数点の口座記録を消すために倉庫に放火とかスルかな」

「奴等ならやりかねないわ。火災報告書を見なきゃ!でも、問題がアル…テリィたんに」

「何だょ?」

「新しいSATOの司令官に出禁にされちゃったんでしょ?まさか、また新司令官が元カノだとか?」

「初対面だ。たださ、ソレはSATOにいる必要がナイから追い出されてやったまでだ。いつでも撤回させられるよ」


またまたニコリと微笑むラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


スマホからヒステリックな女の怒声が聞こえる。何と、そのスマホに向かってペコペコしているのは…


「YES!大統領閣下。よくわかりました。そのようにいたします。私が…」


ガチャリと切れる。目の前の僕を睨むパツア。


「汚い手を使うのね。裏で手を回し、ソレで私に勝ったつもり?言っときますけどね。秋葉原D.A.の大統領がテリィたんの元カノかどうかなんて関係ナイの。もしも、テリィたんが捜査中にヘマをしたら、あらゆる法的手段に訴えます。OK?」

「YES。Ms.…」

「私にはsirをつけて呼びなさい。さぁ早く出て行って頂戴!」


長居は無用だ。クルリと踵を返して出て行く僕。紫のブラウスのラギィは、楽しそうに笑っている。


「ラギィ警部!」

「YES sir!」

「私が着任した以上、スーパーヒロイン関係の事件捜査は、全てSATOのイニシアティブで行います。よって、警部、あるいは、テリィたんが再び私に恥をかかせるようなコトがあれば、秋葉原から永遠に葬り去ってあげるわ。OK?」

「わかりました!ところで…私の音波銃を返してくれません?」


ターゲットの束をバサリと置く。パツアがメガネをかけて見ると真ん中に全弾命中だ。驚くゲイツ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の捜査本部。


「大統領に説教させるなんて信じらんない。あんなコトして平気なの?」

「でも、パツアのひきつった顔、見物(みもの)だったろ?」

「同じ元カノでも、私はあーまではヤラないから」


ホワイトボードの前で止まる2人。


「ソニャ・ギルバ?」

「YES。恋のもつれで撃たれた」

「恋人はどこ?」

「家に帰ってもいないし、目撃情報もナシ。ガールズバンドのメンバーも居場所は知らないって」


ヲタッキーズのマリレは肩をスボめる。


「動機はなんだ?」

「別れ話。ドラマーは愛していたが、セレブは遊びだった。男と女なら、よくある話」

「ラギィ」


エアリが戸口の影から封筒をチラ見せ。


「倉庫の火災報告書ゲット。日付を見て」

「倉庫が萌えたのは母の事件の3週間後だわ」

「偶然とは思えないわね」


見張り役を買って出たマリレ。


「お母さんの事件の黒幕を隠すための方策ね」

「でも、神田消防(アキバファイア)の火災調査官は報告書で事故だと断定している」

「確かに放火を示す記載は無いわ」

「ソレも改竄じゃナイの?」

「報告書を書いた本人に聞いてみよう。ロッド・ハスド」

「未だ生きてるの?」

「現役ょ。有力な情報を掴めば再捜査に持っていくコトが出来るカモ」


その時!


「エアリ!マリレ!ヲタッキーズは?」


本部のモニターいっぱいにパツア新司令官の顔。


「司令官!今、ちょっと水を飲もうと思って」

「捜査本部の水飲み機が故障で」

「ソニャ・ギルバの恋人が、ガールズバンドのリハーサルに出掛けたわ。神田リバー沿いの廃倉庫ょ。貴女(ラギィ)も一緒に行って頂戴」

「YES sir…テリィたん。コレ、隠しといて」


ラギィは僕に封筒を押し付ける。慌ててTシャツの下に封筒を隠す…が、お腹からハミ出てしまうw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


廃倉庫に到着。音波銃を抜くラギィ。


「ラギィ。大丈夫なの?」

「あら。冗談はヤメて」

「…とにかく、先頭は私達が行くわ」

「ROG」


音波銃を目線で構え、廃倉庫に入って逝く。防弾チョッキ。奥で誰かが話し合う声がスル…突入!


万世橋警察(アキバP.D.)万世橋警察(アキバP.D.)!」

「全員手を挙げて!」

「ヤバい…」


音波銃を構え、バンドスタンドに突進スル。驚いて手を挙げるバンドメンバー。

後頭部に手をつけたメンバーをフロアに押し倒すエアリ。ドラマーが逃げ出すw


「止まれ!待て!」


走るドラマー。だが、金属扉は施錠されている。鍵をガチャガチャするドラマー。振り向きザマに音波銃を向ける。瞬間、凍りつくベケット。荒い息。


音波銃のラッパ型の銃口がプルプル震える。


「銃を置かないと射殺します!」

「早くしろ!早く!」

「わ、わかったわ」


音波銃を置くドラマー。たちまちフロアに叩きつけられる。


「凶器と同じ口径だわ」

「私の銃じゃない!マジで違うの。私のじゃない」

「はいはい…アンタには弁護士を呼ぶ権利が…」


プルプルと震える手で、何とか音波銃をホルスターにしまうラギィ。肩で大きく息をしている。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室。両手を上げたママ、着席するドラマー。


「サッサと座ってょ!」

「ヲタッキーズに音波銃を向けた理由を言って」

「おまわりさん、だから…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


マジックミラーを隔てた取調室の隣室。


「よかったら話す?」

「何を?」

「とぼけるな。音波銃を見て固まってたろ?」

「なんでもないわ」

「手が震えてたぞ」

「復帰して2日目だからよ。大したコトないわ。気にしないで」

「でも、また同じコトが起きたら?」

「だ・か・ら!起きないって!」


立ち上がるラギィ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


取調室。


「だから、貴女が殺したんでしょ?理由を言えば減刑になるよう検事に口添えしてあげるけど」

「あのね。貴女は、その手で凶器をシッカリと持っていたのょ?」

「だから…私の音波銃じゃナイのょ!」


ガールズバンドのドラマー女子デイル・テイルは、ほとんど泣き顔で絶叫スル。


「じゃ何で持ってたの?」

「被害者の部屋に入るのを見た人もいるのょ」

「確かに部屋には行った。でも、マジでわかんないの。起きたらベッドが血だらけで、私は音波銃を握ってたわ」


そりゃもう自供だw


「で、何が言いたいの?寝てる間に寝惚けて撃ち殺しちゃったとか?」

「とても論理的な供述だわ。そう記録してOK?」

「違うの!とにかく私は殺してない!」


呆れるヲタッキーズ。


「つまり、彼女が殺される間、ずっと隣で寝てたと言い張るのね?」

「6発も撃たれてるの。気づかないワケがナイでしょ?」

「だって…お願い、信じて!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


デイル・テイルの取調べを終え、SATO司令部のパツア司令官にビデオ回線で報告するヲタッキーズ。


「動機、機会、凶器の保持。第一級殺人で間違いないわね」

「バンド仲間のヤンシに秋葉原を出る金を無心していたとの情報もあります」

「OK。じゃ地方検事に連絡して送検、起訴よ。遺族にも連絡して」


新司令官の鼻息は荒い。


「今後、覚醒したスーパーヒロインが絡む事件の捜査指揮権は、全て私に…ところで、テリィたんとラギィは?」

「えっと…2人で別の手がかりを追ってます」

「手がかり?今、犯人が捕まったのに?」


トボけるヲタッキーズ。


「えっと…証言の再確認です」

「注目されてる事件なので、間違いがないようにしたいと言っていました」

「それは大事ね。確かに、再び彼女が過ちを犯したら大変だもの」


顔見合わせるヲタッキーズ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田消防(アキバファイア)。消防車と消防車の間を歩きながら、当時の様子を思い出しながら語るハルス・テッド。


「神田リバーの廃倉庫か。覚えているよ」

「報告書では事故ってコトになってたけど」

「そうだ」


間髪入れずに突っ込むラギィ。


「ソレは確か?」

「確かさ」

「報告書が改竄された可能性は?絶対にない?」

「ない」


なぜかドヤ顔のハルス消防士。


「ねぇ大事なコトなの。貴方、事実を伏せたりはしてない?」

「何?どういうコトだ?」

「報告書に書かなかったコト、ありませんか?現場で何か不審な点とか。何でもいいんです?」

「おい。不審な点があれば全部報告書に書いているさ。電力サージによるジャンクションボックスからの出火だ。不運な事故だった」


書類を突き返す。受け取る僕。食らいつくラギィ。


「そう?誰かに情報を隠すよう圧力をかけられて、重要な情報を載せなかったってコトはないんですね?」

「くどい!おい、自分で何を言ってるのかわかってるのか?」

「モチロンわかってる。報告書にデタラメな情報を書いたのは、何かを隠蔽しようとしたからでしょ?」

「ラギィ。そこまでにしとけ」


今やハルス・テッドを守るように囲み、多くの消防士が腕組みして僕達を睨んでいる。ヤジが飛ぶ。


「とっとと出て行け!」

「万世橋の犬野郎」

「俺達の仲間を疑うのか?」


全くヒルまないラギィ。


「ねぇ誰に命令されたの?誰よ?誰なの?」

「出て行け。今なら全てなかったコトにしてやる」

「ふん!絶対に見つけてやる。必ず見つけ出すと奴等に伝えるが良いわ!」


何とかラギィを連れ出すw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ラギィ。何のつもりだよ」

「あの人、ウソをついてるわ!」

「そんなコト、わかってるさ」


スマホを抜くラギィ。


「ヲタッキーズ!ハルス・テッドを調べて。徹底的に調べ上げて、私の自宅に資料を送って。新司令官とやらに見つからないようにね!」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。取調室とマジックミラーで仕切られた隣室。エアリがスマホを切る。


「ラギィからだった」

「ハルス・テッドはどうだったの?」

「空振ったみたい。徹底的に調べろって。コッチはどう?ドラマーのデイルは?」

「吐かないわ。でも、変だと思わない?」


合点の逝かないエアリ。


「何が?」

「殺害時刻は午前3時頃でしょ?犯人は、なんで6時間も家でブラブラしてたの?」

「きっと添い寝でもしてたんでしょ。恋人を殺す人の行動なんてワカラナイわ。なんで?」

「え。だって、裁判でもきっと同じ質問してくると思うし」


マジックミラーの向こうでは、何ゴトかを必死に弁解しているデイル・テイル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ラギィのアパートに戻る。僕のために、パーコレーターでコーヒーを淹れてくれる。新婚みたいだ←


「ハルス・テッドは大勢の命を救い、何度も表彰されてる。汚職とは無関係カモなー」

「誰にでも裏の顔がアルでしょ」

「そうだな。レイカとゴスロリ達との接点は?」


バツの悪そうな顔をするラギィ。


「資料では特に見当たらないけど…知り合いだった可能性はある」

「でも、彼女の名前は今まで1度も上がってない。なら関係ないだろう」

「ねぇねぇ。たとえ関係なくても、金目当てで協力した可能性は残るわ」

「でも、金に困ってた形跡はないし、記録では彼女は…」

「彼女は何?」


案の定、ラギィは言葉に詰まる。


「とにかく!もしかしたら彼女は無関係で、マジで火事は事故なのカモしれない」

「事故なんて絶対にあり得ないわ」

「でも、証拠が無いだろう」


すると、キッとなったラギィは僕に詰め寄る。


「もし、火事が事故なら手がかりがゼロになるわ。そして、全てが闇に消えて行くの。そーしたら、私はどうしたら良い?私を撃った犯人は消えた。レイカもゴスロリ達も、女ゴルゴと恐れられたハルロ・クウドも、みんな死んだ。そして、私の母も…みんないなくなってしまったのょ!」


ラギィの両眼は、たちまち涙でいっぱいになる。


第4章 ミユリの出番


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地良くて常連が沈殿。経営を圧迫してるw


そして、今宵はオーナーの僕が沈殿中←


「military connection か。犯人像だけが1人歩きしてるな。we created him…」

「テリィたん。御飯は食べないの?」

「…え。そっか、ごめん。ウッカリしてたょ」


同じく沈殿中の常連のスピア。正面にはメイド長w


「ラギィの事件ですか?もう捜査はヤメたとかおっしゃってましたが」

「うーん。この事件だけは手伝おうかな」

「鮭ハラコ飯、つくったんだけど…冷蔵庫に入れとくから」


プイとお出掛けするスピア。後を追おうとしたら、珍しく僕のスマホが鳴る。


「"テリィたん"さん?」


老婆の声だ。


「私は、レイカの友人だけど、ラギィ警部のコトで電話したの。話がしたいわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


メイド長のミユリさんは懐疑的だ。


「老婆って…正体はわからないのでしょう?」

「確かに、実はイケイケで巨乳な姐さんカモ…昔、レイカに命を救われたとか話してたな。何しろレイカが送った書類を公表すれば、政界の大物達は破滅し、影の政府は瓦解し、人生補完委員会が解散スルほどのインパクトがアルらしい」

「でも、レイカは撃たれました」


ミユリさんの的確な指摘。


「老婆が書類が受け取ったのは、レイカが撃たれた後だ。そして今、ラギィの身は安全らしい。でも、条件があって、ラギィが母親の事件の捜査に首を突っ込めば、彼女の身の安全を担保されない。その場合は…直ちに殺される」

「その老婆、どこまで信じられるのですか?テリィ様は、ラギィには話すおつもり?」

「モチロン話さない。話せば、彼女はなおさら捨て身になって、犯人を突き止めようとする。危険だ」


またまた口を挟むミユリさん。


「どっちにせょ彼女は変わりません。話しても話さなくても、彼女は捜査を続けます」

「ラギィは、僕が話せば話を聞く。僕が止めてみせるさ。もう誰も失いたくないんだ」

「テリィ様は、ラギィのコトを心配してらっしゃいますが、テリィ様も危険にさらされています。あの夜、ヘリポートで撃たれたのはテリィ様だったカモしれません」


長い溜め息をつくミユリさん。


「だからこそやらなくちゃ。安全を守るために」

「テリィ様。大人になってください。テリィ様はスーパーヒロインではありません。もう遊びは終わり。勘違いしてはダメ絶対」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。ラギィにスタボ(スターボックス珈琲)のカップを差し出す。1口飲む。彼女は倉庫の全焼現場の写真を見ている。


「ありがとう」

「僕が初めてお母さんの事件を持ち出した時、ラギィは言ったね。また捜査を始めたら止まらない。自分がダメになるって」

「その時は、多分、私は手詰まりで」

「今だってそうだろう?」

「昨日は、ちょっと感情的になっちゃったけど、ソレだけ。大丈夫」

「ダメだ」


マジ顔で迫る。


「ラギィ、自分でわかってるだろ?復帰して3日なのに、もう感情が不安定になってる。捜査を諦めろとは逝わない。ただ、も少し距離をおけ。落ち着くまで少し待てょ」

「私の命を狙ってる奴がいる。どうやって落ち着けと言うの?」

「今のママじゃ君はボロボロじゃないか。この事件は、いずれ解決スル。必ず黒幕に厳罰が下る。でも、それは今じゃない」


悲しげに目を伏せるラギィ。


「今、事件から手を引けば、私は私で無くなってしまうわ」

「君は被害者に敬意を払える警部だ。家族に安らぎを与えられる人だ。それなのに…」

「テリィたん!」


突然立ち上がるラギィ。地雷を踏んだか?ソコへヲタキーズが戻って来て困惑顔。とりあえずセーフ?


「何かあった?…ねぇ問題発生ょ。楽勝のハズが壁にぶち当たった。地方検事にイヤミを言われちゃったわ」

「マリレ。貴女がほじくり返すからょ」

「何を?」

「お騒がせセレブのソニャと新恋人のデイルの2人が飲んだウォッカのグラスから睡眠薬が検出された。つまり2人とも睡眠薬を飲まされてたの」


睡眠薬?


「もし犯人がデイルなら、ソニャを射殺スル前に、一緒に睡眠薬を飲むのはヘンだな」

「でも、テリィたん。他に説明がつく?他に容疑者はいないのょ?その夜の22時から翌朝9時まで、誰も部屋には出入りしていない。防犯システムに記録はナイ。だから、犯人はデイル以外にあり得ないの」

「待てょ。もしかして…」


ラギィとエアリとマリレが異口同音だ。僕は口を(つぐ)む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「犯人は…部屋を出なかったと思うんだ」


殺人現場に戻る。心配性のミユリさんがスーパーヒロインに変身してついて来てくれる。

現場は保全されていて立哨中の制服警官にドーナツとコーヒーを差し入れし現場に入る。


「2人の帰宅時、既に犯人は部屋にいた。そして2人が部屋を出入りした隙に、彼はウォッカのグラスに睡眠薬を入れ、再び身を隠した」

「彼ですか?彼女の可能性は?」

「とにかく!犯人は2人が寝るのを待つ。あ、寝るではなくて、眠る、ね」

「息を潜めてですね。猟奇的で気味が悪いわ」


ふと思いつき、僕はベッドに近づく。ソニャが寝ていた側には、派手な出血の痕が残っている。


「数時間後、隠れ場所から出て、彼は枕をサイレンサーにしてソニャを撃つ。そして彼は…」

「または、彼女です」

「音波銃の指紋を拭き、銃をデイルに握らせた」

「デイルは目覚めると驚いてパニックになり逃亡、一方、犯人は部屋に残り、その後も身を隠す。遺体が発見され大騒ぎになるのを待ち、混乱に乗じて、彼は現場を後にした」

「または、彼女」

「ムーンライトセレナーダー、手を貸してくれ」


3・2・1…スーパーヒロインに変身したミユリさんとマットレスを持ち上げる。ライトを当てて確認。


「ソニャの血は床に垂れているが、床の真ん中の部分は人の形に血塗られてナイな」

「テリィ様。マットレスの裏側に指紋です」

「誰かがココに隠れてたンだ」


ミユリさんは微笑む。


「ココが犯人の隠れ場所ですね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。指紋照合中。


「殺した相手の真下に隠れ続けるなんて、相当ヤバい奴だわ。キモ」

「しかも、殺人スルと同時に身代わりまで用意してたんだからな」

「さすがテリィ様の名推理…と逝うか、毎度のコトですが私との"妄想ハレーション"ですね」


その時、スロットマシンのように流れていた写真画像がピタリと静止スル。一斉に悲鳴が上がる。


「指紋照合ヒット。デイルのバンド仲間だわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田リバー沿い。再び廃倉庫に踏み込むラギィとヲタッキーズ。だが、今度は誰もいない。


「マリレ、奥!行くわょ!」


廃倉庫の奥に飛び込んで逝くヲタッキーズ。残る僕は、対テレパス用のヘッドギアを被っている。


ムーンライトセレナーダーが声をかける。


「ラギィ。大丈夫?」

「えぇ」

「きっと犯人は…」


僕が話し出した途端にショットガンを構えた女子が現れる。素早く拳銃を抜いて目線で構えるラギィ。


「銃を置けと言ってるでしょ?見逃してくれれば、アタシは何もしないわ」


ガールズバンドのサイドギター担当ミッチ・ヤンシだ。ショットガンの銃口は生身のラギィを狙ってる。僕もムーンライトセレナーダーも手が出せない。


「だめだめだめ。動かないで」


半ば目を瞑って怒鳴るラギィ。一方のミッチ・ヤンシも銃口がビリビリと震えている。


「アタシ、マジで撃つから。ねぇお願いだから、私を見逃して」

「…ラギィ。慌てた方が負けだから。慌てなければ大丈夫。貴女ならヤレるわ」

「ソコのスーパーヒロイン、何言ってんの?とにかく!音波銃を置いて!下がって、おまわりさん!」


ラギィはヒルまない。渋く一言。


「もう諦めて」


音波銃を目線で構えて、にじりよる。


「抵抗すれば、私は撃つ。貴女が銃を捨てるなら、チャンスは今しかナイわ。ショットガンを置きなさい!」


涙目でショットガンを床に落とすヤンシ。頭の後ろで手を組み膝を折る。ヲタッキーズが駆けつける。


「ミッチ・ヤンシ。ソニャ・ギルバ殺害容疑で逮捕します」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


事件が解決し、解散が決まった捜査本部。


「どーやら、ミッチはデイルの目を盗んでソニャと交際してた。で、デイルとソニャが別れるよう仕組んだのに、結局は自分もフラれて、2人への同時報復を企んだってワケ」

「ヤンシは、防犯システムに出入りの記録が残らないように、予め盗んだ鍵で先に部屋に侵入、マットレスの下で息を殺して2人の帰りを待った」

「かなりヤバい女だな。シリアルキラーとか家系にいるンじゃナイか?」


モニターには、つまらなそうに腕を組んで話を聞いているパツア・ゲイツ新SATO司令官。


「OK。デイル・テイルは釈放して。ミッチ・ヤンシが自白したコトは、私からマスコミに伝えます。以上おわり」


画面は消えるw


「やれやれ。プレス発表の美味しいトコロは持ってくワケか。案外わかりやすい司令官だな」

「ラギィ、気分はどう?」

「ありがとう、ムーンライトセレナーダー。未だ足りない。でも、今はコレで良いわ…さっきはホント助かった。さすがは、テリィたんの推しね」


僕の〆。


「自慢の推しさ。あ、ソレからコレからも一緒で頑張ろう。ラギィの心の壁は、いつかなくなるさ」


笑ってうなずくラギィ。歩き去る。キレイな髪だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その夜の"潜り酒場(スピークイージー)"。


「ダメだなー僕は。もっと大人にならないと。ミユリさん、確かに色々と起きたのは僕のせいだ。被弾直後のラギィを抱きながら、自分の幼さを恨んだょ…だから、僕はラギィのそばにいる責任がアルと思うンだ」

「突っ込みドコロ満載のロジックですね?とても長い言い訳にも聞こえますがクスクス。でも、テリィ様。余り大人になり過ぎては…嫌ですょ」

「そ、その心配だけはナイさ」


カウンターの中でメイド長は微笑む。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


精神科医のセラピー。女医だ。


「センセ。私がまた来て驚いた?現場復帰した警部がセラピーに通うなんて。普通は心理評価に合格したら来ないでしょ?」

「人それぞれね。何があったの?」

「何から話せば良いかしら」


ソファの上で靴を脱ぎ、裸足で座っているラギィ。


「じゃ被弾直後の記憶は戻って来たの?」

「私、この前はセンセにウソをついた」

「何か覚えてるのね?」

「実は…全部覚えてる」



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"頭の固いボス"をテーマに、新シーズン第1話的に描いてみました。前から違和感のあった万世橋警察署と南秋葉原条約機構の位置関係を整理し、主人公の位置付けなども再考する機会としています。


さらに、主人公と敏腕警部との恋愛感情などもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、国慶節ですっかりチャイナインバウンドが増えた秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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