1−7 少しだけ重い羽毛
――三ヶ月。
シャルにとっては長く、重い時間が流れた。
ラストラにとっては短く、軽い時間が流れた。
三ヶ月など、ラストラにとっては羽毛の如く軽い時間である。ただ、ラストラにとっても、これまでの時間に比べると少しだけ長く、重い。
シャルの腹は日に日に大きくなり、ラストラを驚かせた。この女の小さな身体に、更に小さな生命がいるというのが信じられなくもあった。
ラストラを驚かせた事はもう一つ。
シャルの逞しさだった。
果実を採りに行く。
小さな畑を作り、野菜を育てる。
川に罠を張り、魚を捕らえる。
身重でありながら、常に何かしら動いていた。
自分のためではなく、生まれてくる子供のために動いている様にラストラには見えた。
シャルは悪阻に苦しんでいることを隠している。
それもラストラは見抜いている。
逞しい……。
数十年に一度か、数百年に一度か、極稀に「自称伝説の勇者」の男達がラストラを討伐しようと、この地へ来ることがあった。
金と名誉に狂った男達。
何処が伝説の勇者なのか、ラストラの鱗一枚に傷を入れる事も果たせずにラストラに屠られていった男達。
種類は違えど、ラストラは彼らよりもシャルに対して逞しさを感じる。
これが母親の強さというものか。
今、シャルは焚き火の前で何かを編んでいる。
今夜は月明かりさえない。
「シャル……、何を作っている?」
「はい、この子の産着を。時々お腹の中で動くんですよ」
シャルの手元には、青い小さな服が見える。川辺に生える植物を編んでいた。
「そうか……」
シャル自身はここへ来たときと同じ白いローブを纏っていた。所々汚れ、破れている。川の水で洗い、使い続けているらしい。
「お前は新しい服は欲しくないのか?」
「欲しくないと言えば嘘になりますが、この子を優先してあげたいんです」
ラストラは、嘆息を漏らす。
毎夜、シャルがうなされていることを知っている。
だからこそ余計に「何故、これほど強くなれるのか」と思う。