1−6 ラストラの絶望
月明かりの下、一匹のドラゴンが身を丸めている。
その横たわる頭の前に、女が身を丸めている。
ラストラは静かにシャルを眺めている。
コイツ、もう眠ったのか……。
――――
「死ぬのも、腹の子と生きるのも……、お前が決めろ」
シャルはラストラの提案を聞いた後、突っ伏して泣き続けた。ラストラが不思議に感じるほど泣き続けた。
しかし、いきなり泣き止んだ。
代わりに腹の虫が鳴いた。
シャルは突っ伏したまま、動かない。羞恥によって動けないらしい。
全く……。面倒なものだ。
ラストラは再び溜め息を吐いた。
「シャルよ……」
人間が食べられる果実が成っている木の場所を教えると、シャルは無言で鼻をグズグズさせながら森へ向かった。
しばらくすると三つの果実を手に、シャルは戻ってきた。もう完全に泣き止んでいた。
「……頂きます」
「別にオレに断りを入れなくてもよい」
その言葉を聞いたシャルは、一気に果実を食べてしまった。余程空腹だったのだろう。
――――
今、ラストラの眼の前でシャルは眠っている。柔らかい草の上で身を丸めて。
ラストラはこの珍客を眺めている。
ラストラは、今の自分に嫌気が差していた。「飽きていた」とも言える。
望んでなどいなかったのに、先代――父親から能力を与えられ、やはり望んでなどいなかった「腐食の王」などという称号を引き継いでしまった。もう、何百年前か、何千年前かさえ分からない。
誰かにこの能力を渡さないと、死ぬことさえ許されないらしい。事実、先代はラストラに引き継ぐと緩やかに老衰し、嬉しそうに死んだ。
ラストラは、この世界の何処かにいる同族を探す気にもならない。
こんな称号、誰も喜ぶものか。
これは呪いだ。有り難みなど全くない。
シャルの身体がビクリと震えた。うなされている。
恐ろしい夢でもみているのか。




