表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐食姫  作者: 野中 すず
5/49

1−5 シャルの告白

 


 シャルの胎内には生命(いのち)が宿っている。

 父親は森で出会った男。

 名も知らぬ男。

 蛇の様な眼をした男。

 肩に蠍の刺青(いれずみ)がある男。


 シャルを辱めた男。



 シャルは、あの日の詳細を思い出せない。本能が拒絶している。

 

 ――山菜なんか採りに行かなければ。私は。


 ()()でシャルの回顧は止まってしまう。終わってしまう。


 

 シャルの望みはただ一つ、「穢れた我が身と穢れた我が子の消滅」。

 そんなシャルにとって「生贄」は渡りに舟だった。


 ――――


「では……シャルよ。それは()()()()()の望みなのか?」




 ラストラはシャルが身籠っている事を見抜いた。


 この女からは、()()()の血の匂いがする。


 その問いにシャルは青ざめ、草原の上に座り込んだ。何かが壊れてしまったかのように泣き出した。

「……申し訳ありません。私は穢れた身です。そもそも生贄になる事さえ許されない身です」


 ラストラは無言でそんなシャルを眺めている。人間の哀れさに呆れている。


 コイツらは何なんだろうか。オレにとっては、欠伸(あくび)している程度の短い一生で奪い合い、殺し合い、憎み合い……。誇りだ、尊厳だと泣き叫ぶ。


()()()()だけが望み、()()()()が望まないならオレは喰わぬ。そして、そいつの意思をお前には知る(すべ)が無いな?」

「……では、私は自害するしかないのですか?」

 ラストラはシャルを再び睨む。


「知らぬ。勝手にするがいい。死ぬのも、腹の子と生きるのも……、お前が決めろ」



「そっ……、それはどういう……」


 ラストラは面倒臭そうに溜め息を()いた。乾き始めたシャルの髪と白いローブが舞い上がる。


「お前の子も望んだら、二人まとめて喰ってやるわ」


 ――――


 思いもかけないラストラの提案に、シャルの心が軋む。


 シャルは頬の涙を拭った。


 しかし、すぐに新たな涙が伝った。


 シャルには、己の涙の理由が分からなかった。


 苦しみから解放される道を閉ざされた絶望か。

 捨て切れぬ生存本能からの安堵か。




 ――――否が応でも日々高まってしまう子供への愛か。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ