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腐食姫  作者: 野中 すず
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4−12 残された腕 残された耳


 泣きながらサナは訴え続けた。

 もうそれ以外、何も出来ないから。


「お願い」「お願いします」

 何度言ったかも分からないほど言ったとき――



「ママ」

 アイノに呼ばれた。サナは驚く。

 混乱したまま、涙と鼻水まみれの顔を上げた。


 いない? いなくなった?

 何故……?

 どういう事なの……?


 状況の変化に、全く頭が追いつかない。


 アイノは「言いつけ」を守っているのか、作業台の手前から動いていない。サナは慌てて立ち上がる。娘に駆け寄る。


 サナは、娘を抱き締めようとした。

 しかし、(すんで)のところで留めた。サナの服にも赤い粉末の毒が多少付着している。

 とにかく、一刻も早く逃げなければならない。


「アイノ、付いてきなさい」

 アイノの前を歩き、扉を目指す。

 何があるか分からない。

 絶対に油断出来ない。

 床、壁、天井を確認しつつ、一歩ずつ進む。


 母娘(おやこ)はジリジリと歩き、扉の手前まで来た。


 ――――何?


 扉の前に、何か小さな物が落ちている。

 サナは警戒する。

「そこで待ってなさい」

 アイノに告げて、落ちている物に近付く。

「なっ!?」

 サナは小さな悲鳴を上げた。

 耳だ。耳が落ちている。

 グズグズに腐っている。


 こっ、これって…………。


 サナは全てを理解した。


 あの化け物の末路を理解した。


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