4‐10 腐食するシャラ
サナは、床に座り込み激痛に悶え苦しむ少女を離れた位置から見ていた。
少女は、大量の血を被ったかのように真っ赤に染まっている。
今ならサナでも少女の首を刎ねる事は出来そうだが、「有効範囲」に入るつもりはない。
そもそもこんな化け物、首を刎ねたら死ぬとは言い切れない。
焦ってはいけない。放っておけば毒が回り、こいつは死ぬ。確かに私が作った毒は効いている。私を油断させるための演技には見えない。
そんな考えの基、サナは何も新たな行動に移らなかった。
しかし、サナには信じられない事が起きた。
少女が立ち上がった。真っ直ぐサナを赤い瞳で見ながら。
何故だ⁉ 何故そんな力が残っている⁉ あのドラゴンに使用した毒の遥か上の猛毒なのに⁉
少女は瞬き一つしない。その表情から、今も激痛に耐えているのはサナにも伝わってきた。
サナも、少女から視線を外せない。
「睨みあっている」とも「見つめあっている」とも言えない状況で、サナは気付く。
少女の右肩から、ローブを通して湯気が上がっている。
ローブを染める赤い毒の粉末が、泡立ちはじめている。
「ふっ……」
少女が小さく笑った。
「ふっ……、ふふふっ、あははははっ!」
狂ったように笑い続ける。
なに? 痛みのせいでおかしくなったの!? それとも死の恐怖で!?
「あああっ! ああああああっ!」
笑いは絶叫に変わった。
――――ドスッ
サナは見た。
少女の右腕が床に落ちたのを。
右肩から先が丸ごと落ちた。
床上で右腕は変色し、泡立ち、骨が覗きはじめた。
サナは少女の意図を理解し、壁に背を付けたままズルズルとへたり込んだ。
事前に考えていた「失敗したら窓から逃げる」など意識から完全に消し飛んでいる。
この化け物、毒が全身に回る前に右腕ごと捨てた……。
少女が少しずつ、サナに歩を進める。全身を真っ赤に染める毒により、速度は非常に落ちている。毒の効果は、間違いなく表れている。
「有効範囲」を確認するためにサナが小屋中に置いた花達。その殆どは、サナが作った毒の粉末を被り、枯れていた。生き残っていた花も、少女が進む度に腐り果てていく。
今度はサナが小さく笑った。
もはや確認しても意味がないものだったから。
多分、もう少しで私も「有効範囲」に入る。
――――私は死ぬわね。




