4‐9 決断
――シャラが天井から降り注ぐ赤い粉を浴びた直後、
シャラは全身に麻痺が始まっていた。
シャラは全身が真っ赤に染まっていた。
そんな身体でシャラは、サナの気配の変化に意識を向けていた。
何かを取り出し、投げつけようとしている。
非常に危険な何かを。
私を殺すために準備した何かを。
躱すのは、この身体では無理だろう。
手で払い落すしかない。
麻痺していく身体、当然両腕も動きは鈍い。
しかし、やらなければならない。やらなければ私は死ぬだろう。
サナが何かを投げたのを感じた。頭に向けて。
事前に知っていた事と、完全に麻痺が全身に回っていない事が幸いし、シャラは頭に直撃する前に手で払えた。
「払えた」と思っただけだった。
――パリンッ
払おうとした物は簡単に割れ、中身が右手の甲に染み込んだ。赤い液体。
微かに煙が上がる。
次の瞬間、強烈な熱と痺れを伴う激痛が手の甲から駆け上がってきた。
麻痺した身体でもはっきりと分かる激痛。
「あっ⁉ あああああああっ!」
なんだこれは⁉ なんなんだ⁉
あまりの痛みにシャラは床に座り込んだ。思わず左手で、右手の甲を掴みたくなる。
シャラはゾッとした。慄いた。
左手にこの液体が付いたら、左手も……?
慌てて左手を戻す。しかし、もう一つシャラにとって恐ろしい事実がある。
痛みの元が上ってきているのだ。右手の甲から手首、今は肘まで来ている。
こんなのが全身に回ったら……。
こんなのが心臓に届いたら……。
こんなのが脳に届いたら……。
私は死んでしまう。
シャラは、解決策を毒と痛みで麻痺した頭で探す。
やがて、一つの解決策を見付けた。
大きな危険を伴う解決策。
大きな損失を伴う解決策。
しかし、迷いはもう許されない。
痛みの元は、既に二の腕まで来たのだから。
シャラは決断した。




