4−7 腐食の姫と猛毒の姫
この女はこの女で、この日が来るのを想定していたか……。
シャラは警戒した。扉を開ける前の「ぼんやり女」の印象のままだったら、壁に背中を押し付けるサナに飛び掛かっていた。
しかし、今は違う。
――何らかの罠が仕掛けられている。
周囲に意識を配りながら、少しずつサナに近付いていく。
自分の移動に合わせ、鉢植えの花が腐っていく。異常な数の鉢植えの意味を理解する。
小屋のほぼ中央まで進んだ。大きな作業台が左右に二台あり、間を歩かなくてはサナに近付けない。
シャラが一歩踏み入れたとき、サナが口を開いた。
「……ひさしぶりね」
やはり、間延びした声が聞こえた。しかし、シャラはそれが意図的に作られた声だと見抜いている。
先程のように苛立ちを感じたりはしない。
シャラは応える。間延びした声で。
「ええ、ひさしぶりね。五年ぶり」
「あんたはなんなの?」
「私、話をするために来てないわ」
シャラはこれ以上の会話を拒絶した。しかし、サナは続ける。
「あんたはあのドラゴンのなんなの? なんであのとき、あそこにいたの? なんでそんな力持ってんの?」
「関係ないわ。挑発してるつもり? それとも私の『時間切れ』でも待ってるの?」
シャラは数歩、前に進んだ。作業台の花がまた腐り果てる。
サラサラサラ……。
シャラの眼の前を、一抹の赤い粉末が落ちていった。思わず、眼で追いかけてしまった。
シャラは「この赤」に見覚えがあったから。
死んだラストラの身体を染め上げていた「赤」だったから。
最悪の記憶と直結する「赤」だから。
サナが右手を動かすのが、シャラの視界の端に映った。




