1−4 生贄になる事を望んだ娘
シャルが住んでいた村、リカーサ村は平和な小さな村だった。ただ、「百年に一度のしきたり」が近付くと、村の若い娘とその家族たちに昏い影が落ちた。
誰を生贄に差し出すのか?
過去を振り返ると村長と娘を持つ父親たちの話し合い、ときには籤引きにさえ頼って決めていた。
百年に一度なので経験者が一人もおらず、毎回この話し合いは荒れに荒れた。
しかし今回、誰も予想していなかった事が起きた。
ルーミー家の一人娘、シャルカラット・ルーミーが手を挙げたのである。
当然、シャルの両親は猛反対した。
何故、自ら生命を捨てようとするのか?
そんな名誉などいらない。
生贄に選ばれない可能性に賭けるべきだ。
シャルは頑なに自分の意志を曲げなかった。ずっと大人しく、人の言いなりだったシャルが何故これほど拘泥するのか、両親は理解に苦しんだ。
シャル自身の強い希望。
他の娘の親達を主とした「それなら……」という論調。
シャルの両親の反対など簡単に掻き消されてしまった。
かくして、シャルは生贄に選ばれた。
シャルは後悔など微塵も感じていなかった。
このまま生きている方が後悔し、ルーミー家の名誉も地に堕ちると信じていたから。