4‐5 苛立つシャラ
夜になり、シャラは山から街へ向かった。こんなところで何日も過ごすつもりはない。
引き止められる気がして、何も言わずルーミー夫妻の家から出てきた。今頃、心配しているだろう。
闇の中、街に入る。マヤ――、サナの薬屋を目指す。
薬屋から少し離れた位置で立ち止まり、眺める。
薬屋の二階に気配が二つ、サナではない。夫と子供だろう。動かないのは眠っているからか。
薬屋の横の小屋に気配が一つ。
……サナだ。サナがそこに一人でいる。
シャラは小屋の前まで行き、扉をノックした。
無駄な話をしない。見苦しい言い訳も命乞いも聞きたくない。
扉を開けた瞬間、私の前に立った瞬間に殺してやる。
シャラの瞳が赤く染まる。
「はーい」
中から間延びした返事が聞こえた。その声にシャラは苛立ちを感じる。
ラストラを殺した事など忘れてしまったのか?
私の存在など気にも留めていなかったのか?
「ギルテ? ちょっと待ってね。鍵を開けるから」
誰かが走りよる音に続き、カチャカチャとドアノブをいじる音が扉の向こうから届く。
「どうぞー」
やはり間延びした声が聞こえ、シャラの苛立ちは更に高まる。
この女、絶対に許さないわ……。
シャラはゆっくりとドアノブを掴み、扉を開いた。
当然、眼の前にサナが立っていると思い込んでいた。
しかし、扉の前には誰もいない。
シャラは微かに動揺しつつ見た。
小屋の扉がある壁の対面の壁に、サナが背中を押し付けるようにして立っていた。
サナの足元には壁沿いに鉢植えの花が並んでいる。大量に。
顔はサナに向けたまま、シャラは眼だけを動かし小屋の内部を確認した。
小屋の中央に並べられた作業台から壁際、小さなテーブルの上まで大量の花が置かれている。確かにルーミー家もエリサが花を飾っていたが、一部屋に一輪程度だった。この小屋のように置いては邪魔で仕方がないだろう。
次にシャラはサナとの距離を目測した。昨夜男達で再確認した「能力」の有効範囲には入っていない。三倍は離れている。もっと近付かないと殺す事は出来ない。
シャラは考えを改めた。
この女はこの女で、この日が来るのを想定していたか……。




