4−3 サカラの山
乞食が発見した異常な光景の話は、スラムだけではなく街全体に広がっていった。
そのとき既に、シャラはサカラの山の麓で身を潜めていた。豊かな森の中で、今後の計画を考えている。
入山前に――、腐乱死体の話がスラムの外まで広まる前に、街で「マヤ」の住処を確認してきた。
薬屋の場所は昨夜聞いていた。
――――
酒場からシャラを連れ出した四人の男達は、シャラと廃墟へ入った。
一人が扉に鍵を掛け、それを見た三人は笑い始めた。
「とんだ世間知らずだな? 馬鹿か、お前?」
「オレらを怨むなよ。お前が悪りいんだからな」
シャラは静かに応える。
「ならば……、お前らも私を怨まないという事だな?」
シャラは、「能力」を五年前のあれ以来使っていない。
本番前に、使い方を再確認しておく必要があるとずっと考えていた。
リカーサ村でも考えていた事だが出来なかった。
「予行練習」で敵でもない生き物を無駄に殺したくなかったから。
人でも動物でも植物でも。
それをやってしまうと裏切る事になる気がする。
母を。
ラストラを。
何故か自分に優しいルーミー夫妻を。
今、自分を囲んでいる四人は分かりやすく悪意を向けている。
ちょうどいい。
シャラの瞳が赤く染まっていく。
手始めに扉に施錠した男を睨み、念じてみる。「能力」が動き出す。
「えっ……、あっ? あっ! あああっ!」
一瞬で男は、着ている服などと一緒に腐り果てた。腐肉が床に広がり、粘り気が強い泡を立て続けている。
「うわあああっ!」
残る三人が同時に悲鳴を上げた。しかし、その後の三人の行動は全員違った。
一人は、建物の奥へ逃げようとした。
一人は、腰を抜かしたのか床に尻もちをついた。
一人は、ナイフを取り出しシャラへ向かった。
シャラはまず、向かってきた男をナイフごと腐らせた。
次に逃げ出した男を追いかけ、腐らせた。
新たな悲鳴が響き渡る。
新たな腐肉が床に積もった埃と混ざっていく。
シャラは、床にへたり込んだ男の前に立つ。
「能力の有効範囲」に入れないように注意する。
「たっ、助けてくれ! マヤって女の場所は知ってる! 嘘じゃない! あの女、この街じゃ救世主扱いで有名人なんだ!」
「……何処なの? 他に誰かと住んでいるの?」
男は震える声で、マヤが住む薬屋の場所、夫と子供が一人いる事を説明した。
「他に知っている事は?」
「……マヤってのは偽名だ! あいつはサナっていう英雄気取りのただの毒使いの賞金稼ぎだ。オレらの業界じゃ皆知ってる! あいつはとっくに有名人だったんだ! これ以上は何も知らない! 頼む、助けてくれ!」
「ありがとう」
シャラは男へ向け、一歩足を進めた。シャラの推測通り、男の身体が「一歩分」腐り始める。
男の悲鳴を聞きながら、更に一歩進む。男は全身が「有効範囲」に飲み込まれた。
悲鳴が止んだ。
シャラの再確認は終わった。終わってみると、全て自分の記憶と推測通りで再確認は不要だった。眼を回すと辺りは「四人の人間だった物」が床で混ざり合い続けている。
特に後悔もしなかったが。
――――
シャラは森の中で考える。
離れた場所から見ただけだが間違いない。五年前に見た女だ。顔も同じなら、感じた気配も同じ。
殺してやる。髪の毛一本、残すものか。
「シャラ……、お前の母親は逞しく、優しく、何よりもお前を大切にしていたぞ」
ラストラがいつも言っていた言葉が、何故か聞こえた。




