4−1 スラムの男達
サナが作った薬によって、街が抱える二つの問題のうち、一つは数週間後には沈黙した。
しかし、残る一つは何も変わらない。
スラムには相変わらず、盗みにも人殺しにも抵抗がないような連中が集まり、生活をしていた。
彼らは、常に街の外で悪事を働く。「街の住人には危害を加えない」が不文律になっていた。
理由は単純で、「住人を敵に回すと厄介な事になる」と知っていたから。この街の住人全員に、一致団結されたら多勢に無勢、皆殺しにされてもおかしくない。
そのスラムの怪しい酒場。提供される酒が盗品か略奪品なら、支払われる金も盗品か略奪品の酒場。
そんな酒場にお似合いの連中が集まっている夜。
テーブルで、カードを使ったギャンブルを興じる男達。
カウンターで悪事の計画を練る男達。
会話もせず、ただ酒を飲み続ける男達。
薄暗い店内には殺伐とした空気が淀んでいる。
入口が開いた。若い女が一人で入ってきた。
真っ黒い髪。
赤黒いローブ。
殆どの男達は店員も含め皆、驚いた。無言になってしまった。
この女、馬鹿か? 死にてえのか?
女は、入口から一番近いテーブル席へ向かう。テーブルには若い男達が四人、酒を飲んでいた。ローブ一枚の女の身体に下衆な視線を向けている。
「この街のマヤという薬師を探しています。知りませんか?」
女の質問にまた、男達は驚いた。しかし、四人は目を合わせるとニヤリと笑った。小さく頷いた。
「ああ、そいつの店ならよく行く。案内してやるから付いてきな」
男達は代金をテーブルに置き、立ち上がった。
四人で女を囲むようにして店を出る。
店内で若い店員がテーブルに金を取りに行きながら、溜め息混じりに呟いた。
「あいつら、うまい事やりやがったな。あの馬鹿女も可哀想に」
それを聞いた白髪頭の客が酒を一口飲み、溜め息混じりに呟いた。
「そうか? オレはあの女を見たとき、何故か小便漏らしそうになったけどな」




