2−13 ロードンと「腐食の王」
ロードンの腕に鳥肌が立った。
――なっ、なんだ!?
従者達の歓声と賞賛の中、ロードンは背後の森からただならぬ気配を感じている。
何かが来る。何か恐ろしいものが。
草原の中央、ドラゴンの亡骸近くまで素早く移動する。その様子を見た従者達も沈黙し、周囲を見回す。彼らも生命の危機を肌で感じ始めた。
気配が迫る方向をロードンは睨み続ける。やがて二本の木に異常が発生した。幹の表面が朽ち始めた。その朽ちる面は広がり、幹は細くなっていく。
葉の色が緑から紫へ変わり、グズグズになって散っていく。
地に落ちた幹の欠片も葉も液状になり、同じく液状になった地面の草と混ざり始めた。
――――びちゃり
何者かの足音が腐り果てた木々の奥から聞こえた。少しずつ近付いて来る。
「皆! 退けっ!」
ロードンは叫んだ。
剣を構える。身体の正面に、身体の中心に、二本の腕で真っ直ぐ。
なにかとんでもないヤツが来る。こいつらは役に立たない。
オレがやらねば――――
恐怖で動けなくなっていた従者達だったが、一斉に走り出した。足音が聞こえる方と、反対方向の森へ逃げ込む。
ロードン一人、ドラゴンの亡骸の前で、剣を構えて待つ。
お前が本物なんだろう?
びちゃり――、びちゃり――
腐った植物を踏む音が続く。
木々の隙間から現れた者の姿を、ロードンは信じられなかった。
少女だ。赤黒いローブを身に纏っている。少女の身長に対してローブは大きく、袖は少女の腕を完全に隠し、裾は地に着いてしまっている。
俯いているため、少女の表情は見えない。
少女が歩を進める度に、少女の前方の草が腐り果てる。
少女がロードンに迫る。
「腐食」がロードンに迫る。
不意に少女が顔を上げた。
ロードンはその眼を見て、絶望に身体を震わせてしまった。
真っ赤な瞳が怒り狂っていた。




