2‐11 ラストラの謝罪
嗤ったラストラは、走り来る男を見ながら考えている。
先程放った二回の攻撃で、身体は殆ど動かなくなってしまった。
今から男が撃つであろう「本気の一撃」を躱す事も、耐える事も出来まい。
これでいい。
「本気の一撃」でオレを殺したなら、こいつらは疑わない。こいつらは満足する。
「自分達は『腐食の王』を倒した」と――。
男が剣を振りかぶり、大きく跳んだ。
その跳躍の速度にも、剣を一文字に薙ぐ速度にも霞み始めたラストラの眼は追いつけない。
ラストラは、自分の喉元を何かが通り抜けた事だけを感じた。
男が着地した瞬間、ラストラの喉元が大きく開き、鱗と同様に真っ黒い血が噴き出した。毒により赤く染まっていた辺り一面を、黒く上塗りしていく。
「能力」を手放し、弱体化しているとはいえ自分の鱗を切り裂いた男の剣技にラストラは感嘆した。
これほどの腕前の人間になら、殺されるのも悪くない。
そんな事を考えたが、ラストラ自身が否定した。
お前はとっくに飽きていただけだ。生きる事に。
心残りはシャラのみ。
あの小さな入れ物に無理矢理押し込まれている「腐食の王の能力」。
シャラを生き永らえさせるのか。
シャラを破滅させるのか。
見届ける義務を感じていたが、それはもう叶わない。
自身と周囲を黒く染めながら、ラストラは大地に崩れ落ちた。
シャル、シャラ……、すまぬ。
理由もよく分からないまま、ラストラは母子に詫びた。
シャラ……、お前の母親は逞しく、優しく、何よりもお前を大切にしていたぞ。
ラストラは最期に、何度もシャラへ伝えた言葉を思い返した。
やはり理由はよく分からなかった。




