2−10 ロードンの迷い
ロードンは、頭上に剣を構えたまま動けない。
眼の前のドラゴンに、斬りかかる事が出来ない。
――何故だ!? サナが作った毒を大量に浴び、碌に動けないはずだ。
毒が足りなかったのか?
そもそも毒など効かないのか?
ドラゴンが嗤う。
「怖いのか? 自称勇者よ。オレが、『腐食の王』が」
「ナメるなっ!」
その挑発に、反射的にロードンは駆け出していた。
ドラゴンが右腕を挙げる。五本の鋭い爪を立て、ロードンへ振り降ろす。
常人には、とても見切れる速度ではない。
しかし、ロードンは簡単に躱した。地面に巨大な穴が出来た。
ドラゴンは間髪入れず身を捻り、長い尾を鞭のようにロードンへ叩き込もうとする。
それもロードンは跳んで躱す。
着地したロードンとドラゴンは睨み合った。
ロードンの胸中には、疑問と不安と苛立ちが渦巻いている。
――「腐食の王」がこの程度なのか?
確かに力も速度も凄まじいが。
「伝説」を感じさせる程ではない。
本気じゃないのか?
まだオレを挑発しているのか?
「普段の戦い」だったら、ロードンはドラゴンの尾を躱した時点でそのまま反撃に入っていた。迷う事もなく。
「馬鹿にしているのか!? 『腐食の王』!」
ドラゴンはまた嗤う。
「お前が本気で来ないからだ」
「なっ!?」
ロードンは驚く。それと同時に理解する。生温い迷いなど断ち切らなければならない。
「では本気でいかせてもらう」
剣を構え直す。
「ほう、少しはまともな面構えになったな」
「どこまで馬鹿にすれば、気が済むのか!?」
ロードンは走り出す。
オレの全てを一撃に込める。
オレが血反吐を吐いて、身に付けた全て。
半端な迷いなど捨てなければ、オレが死ぬ事になる。
走りくるロードンを見て、ドラゴンは小さく嗤った。
ロードンは気付かない。




