1−2 腐食の王
女の視界には「森」が映っている。木々が生い茂り、見上げると鳥の群れが飛んでいる。その鳥の群れの背後には真っ白に輝く月が見える。
火山の火口を下から覗いた様な、巨大な穴が開いている。そこから月が――、空が見えている事に女は驚く。
この空間がどれほどの広さなのかは分からない。ただ背後に切り立った岩肌が前方に見えない事から、相当な広さであるとは推測出来る。
その時、女に空気が吹き出すような音が届いた。前方の森の木々の隙間から聞こえている様に感じる。
女は走り出す。自分にまだこんな力が残っていた事が信じられなかった。
森に入ると月光が遮られ、視界が薄暗くなったが、それでも洞窟内よりは明るい。進行を拒むように倒れている木や伸びている蔦を跳び越え、音の出処を目指す。
森の中を横切る小さな川が現れ、迷わず入る。深さは腰までしかなかった。泳ぐ必要はない。
気持ちは少しでも先に進みたいのだが、水の誘惑に負けた。腰を曲げ、がぶ飲みする。顔を洗う。
息をつき、少し落ち着いた女は自分が酷く滑稽に思えた。
死ぬためにここへ来たのに、何故こんなに急いでいるのか。
自分の名誉のため?
自分の村のため?
――――嘘だ。
私は苦しみから解放されたいだけだ。
女は川を渡り、再び森へ入った。
空気が吹き出すような音を目指して。
何も根拠などないが、「腐食の王ラストラ」はそこにいる。