2−8 腐食の王の変化
ロードンとサナは木陰から、ドラゴンの変化を見ていた。
全身が真っ赤に染まっているのは、月明かりがなくても確認出来た。少しずつ動作が緩慢になっている。
「効いてるみたいだな」
「ええ、私の計算通りなら完全に染み込むころだわ」
落ち着いた表情で返事をしたサナだったが、内心穏やかではなかった。
あれだけの量を浴びて、まだ動けるの!? 「もしかしたら、ロードンが剣を抜く前に殺せるかも知れない」と少しだけ期待していたのに……。
実のところ、サナの期待は思い上がりも甚だしかった。
ラストラがもし、「能力」をシャラに渡していなければサナが作った毒などこれほど強く効かなかった。
そもそもラストラが男に対する怒りで我を忘れなければ、毒入りの甕を当てる事さえ叶わなかった。
「そろそろ出番か……」
ロードンの声にサナは我に返る。気持ちを切り替える。
サナは、ドラゴンの身体に付着した毒の状態を見た。
「もう充分染み込み、固まり始めているわ」
私が作った毒は確実に効いている。
後は完全に動けなくなったところをロードンが斬るだけ。いつもと同じ。そう、いつもと同じよ。
ロードンは剣を抜き、木々の間をドラゴンに向かい歩き出す。
ドラゴンは気付き、赤い眼だけを動かしロードンを見た。
――――
「あんたが『腐食の王』かい?」
ロードンはわざと軽口を叩いた。
ドラゴンは何も言わない。ただロードンを見ていた。
「喋る事も無理か?」
挑発的な言葉を聞き、ドラゴンは口を開く。
「お前も『自称伝説の勇者』か?」
ロードンは「お前も」と「自称」に腹を立てた。
ロードンが、ずっと目を背け続けてきた事実を見透かされ、突き付けられた気がしたから。
――ああ、そうだ。オレが強いのは「努力の結果」だ。神に与えられた能力ではない。そんな事はオレが一番分かっている。
ロードンはドラゴンに会話の主導権を奪われないためにも、強気な態度を崩さない。
「今まで、お前程度の奴は相手にならなかった……、とでも言いたげだな?」
「ああ、退屈でたまらなかった」
「なら、喜べよ」
ゴードンは剣を頭上に構えた。それだけで周囲の空気が変わる。
「その退屈、オレが終わらせてやる」




