表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腐食姫  作者: 野中 すず
13/49

2−3 伝説の勇者


 十年以上前に、シャルがラストラに喰われるために歩いた洞窟。その後、誰も入っていない洞窟。

 この細い洞窟を今、松明を手に進む一列の集団がいる。

 三十三人の集団。


 集団の先頭は一人の男。後ろ手に縛られ、荒れた路面に何度も転んでいた。男はその度に後ろを歩く屈強な男に蹴られ、引きずり起こされていた。この男は転んで出来た傷以外にも、全身に痣や傷が見える。


 列の最後尾は、若い男女が歩いている。

「ねぇ、ロードン? あいつ、殺した方が良くない? あいつのせいでペースが落ちてるわ」

「サナ、この洞窟にも罠が仕掛けられてるかも知れない。あいつに先頭を歩かせる」

 美しい金髪が、松明に照らされている。

 残酷な会話の内容と、似つかわしくない美しい外見を誇る二人。

 幼き頃より、「剣術の神童」「伝説の勇者の生まれ変わり」と崇められるロードン。

 そのロードンをサポートするサナ。

 同じ孤児院出身で、ずっとコンビを組んでいる。



 元々この集団は三十二人だった。この二人と、この二人から選抜された従者三十人。



 先頭を安全確認のために歩かせられている男は、ロードン達にとって予定外だった。

 男は昨夜、洞窟入口前で仮眠を取っていたロードン達の荷物を盗もうとした。あっけなく見付かり、従者達から酷い暴行を受けた。

 その光景を眺めていたロードンだったが、男の使()()()を思い付き、殺させなかった。




 この世界にはドラゴンを筆頭に、人間を遥かに超えた生物、人間にとって神のような生物が存在している。

 しかし、この世界にはそんな()()と対等に渡り合える能力を持った人間も極稀に現れている。


 ロードンとサナは、そんな村の存続、街の存続、時には国の存続さえ脅かす生物達を討伐し、名誉と大金を手にしていた。


 

 薄暗い洞窟を進みながら、サナはゴードンに訊く。

「『腐食の王』って、ドラゴンの中でも()()みたいな奴よね? 大丈夫なの?」

 ロードンは笑みを浮かべ、答える。

「ああ、『伝説のドラゴン』には『伝説の勇者』のオレの出番だろう?」

 その笑顔にサナは悪い予感がした。サナは知っているから。


 確かにロードンは、凄まじい剣術を持っている。この国で、ロードンに剣で勝てる者などいないだろう。

 しかしロードンの強さは、周囲の者たちの想像を絶する過酷な鍛錬の賜物なのだ。言い換えれば、「剣術の神童」「伝説の勇者の生まれ変わり」などではなく、「努力で身に付けた」と言える。

 ロードンはドラゴンを殺した実績はあるが、まだまだ幼体レベルのものばかり。今回の「腐食の王」も同じように考えるのは危険ではないだろうか?


 サナの顔色が曇り、その事に気付いたロードンの顔色も曇る。

「なんだ? また不安になってるのか? 見ろよ。連中が運んでいる物を。今までの若いドラゴン討伐の、ざっと十倍は準備した。何よりそれを作ったのはサナじゃないか」

 サナは従者たちに目を()る。全員が大きな荷物を背負い、進んでいる。

 サナは小さく頷いた。


 ――そうだ。ロードンが自分自身を信じているように、私も私自身を信じよう。私の知識と技術を。




 ―――――



 長時間歩き続けていた集団の先頭、傷だらけの男が歩を止めた。前方から幽かな光が届いている。従者たちも気付き、最後尾のロードンに伝えられた。

「一旦、ここで休息する。各自、体力の回復に(つと)めろ。今回の我々の獲物は……」

 ロードンは静かに言った。



「間違いなく過去最強だぞ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ