8話:最後の三歩目
「嫌われているのだろうか?好かれているのだろうか?」(草十郎談)
明るく暖かかった空気が凍った、そんな気がした。
宿に入ってきた男は、見た目だけならもてるであろう顔をしているが、頬に傷があるせいかどこか悪に見えなくも無い。
服装のほうはたいそう豪華なマントと肩から掛けてある札以外は普通である。
(場違いな奴が来た。)
誰もがそう思うであろう。いや、護子の者以外のやつらはそう思った。
奴は皆が自分を見ているのを確認すると口を開いた。
否、開こうとした。
約2名の人物により口を一旦閉じることになったのだ・・。
ッカン!ッキン!
宿にあってはならない音が響いた。
椿と壕がそれぞれお互いの武器を取り奴に斬りかかったのだ。
武器といっても、一座で使う道具(剣や扇など)だが。
しかし、奴は軽々とその攻撃を受け流した。しかも、表情はどこか楽しそうだ。
「きっさまぁー!!よくもノコノコと現れやがったな!?」
「その命貰い受ける!!」
「ふん。やれるものならやってみるがいい。それにノコノコではない、スキップしながら来たんだ。」
「え、ちょっと・・・。」
「ていやぁー!!くらえ殺人切り★スキップとは気色悪いんじゃぁ!!」
「ふはっはは。最後に★をつけるとは可愛らしい技だ。気色悪い言うでない!」
「ならばこれでどうだい?魅了する乙女の舞!!」
「オバはんに魅了されても嬉しくないわ!乙女ですらなかろうが!!」
「いや、あのぉ~・・・。」
「っく、なかなかやるな!」
「ほんと!腕だけは良いんだからねい!それに、わっちはまだ、若いわ!!」
「っふ。弱いな。」
「・・・草十郎殿。何か用があっていらしたんでしょう?」
椿と壕の攻撃が一時止んだので、ここぞとばかりにコノハは尋ねた。
奴こと草十郎は刀を鞘に収めながら、コノハの方を向いた。
「ああ、そうだ。お前にお使いを頼もうと思って来たのだ。」
「お使いですか?」
「ふん。どうせろくでもない内容さ。頼まれること無い。」
「そーさそーさ。お祝い事をしている最中に・・」
「『よぉ、楽しんでいるか?』なんて言って入ってくるんだもんねい!」
「ちょっ・・梅姫姉まで・・・。」
「っはははは!相変わらず嫌われているようだな、俺は。いや、むしろ好かれているのか?」
「嫌っているに決まっているさー!!いっつもコノハを無理やり連れて行くんだもんろ!」
葉月の言葉にみんなが頷いた。
これに対してコノハは何も言えなくなってしまった。
みんなが自分を思ってくれているのはわかるが、相手が上忍護師の中でも5本の指に入るほどの大物相手に斬りかかったり罵倒したりしているのだ。
普通なら、罰せられてもおかしくないはずである。
それなのに、草十郎は罰したりはしない。いつも面白そうに笑っている。
「小葉の家族は、恐ろしい奴らよのぉ。どんなやつでも、お前のこととなると斬りかかってくる。」
「も、申し訳ありませぬ。」
「っふん。謝ることなかよ!」
「そうさぁー!家族を守るのがわっちらの役目!コノハについてはあたぼーよ!」
「いや、でも団長、壕にぃ。僕のほうが草十郎殿に迷惑を掛けているから、斬りかかるのではなく・・・。」
「お礼を言えってか?それは無理ねい!どーしてもそいつだけは気に食わないさかい!」
「ふむ、お前達にお礼を言われても嬉しくもなんともないがな。」
「なにおぅ!!」
売り言葉に買い言葉。椿たちのほうが売っているように見えて、実は買っている。
つまり、草十郎に遊ばれているのだ。
コノハはそれをわかっているからこそ、草十郎に言いたくなる。
『遊ばないであげてください。』っと。
「やめんかい。このままじゃぁ草十郎殿が用事を言えぬまま帰られてしまうだろうに。」
白海の言葉により、椿も壕も他のみんなもぶすくれながら口を閉じた。
白海と草十郎は歳が近いうえに飲み友達でもあるため、白海が草十郎を嫌うことはない。
そもそも、誰もが心底草十郎を嫌っているわけではないのだ。
「おお!さすが我が友よ。獣どもを抑えるとは!!」
「草十郎殿も、遊んでやるのはほどほどにしてください。」
「はっはっは。すまぬ、ついつい面白くてな。して、小葉。」
「は、はい!」
「お使いの用件とはな、コレを『とりばぁー』に届けてほしいのだ。」
「は?『とりばぁー』という方にですか?」
「ああ。」
「っちょっと待ちねい!『とりばぁー』のことろまで行くのにどれほど時間がかかるとお思いねい!」
「え、遠いんですか?」
「近場ではない。だから、これを無事に届け帰ってこれたならば弐から参に上げようぞ。」
「・・・。そんなにも危ないんですか?草十郎殿。」
「ふむ、行く道がなぁ~。ちぃっと危険なだけじゃ。」
「どこが、ちぃっとかいな!!」
「だいたい、それは本来ならアンタの仕事やろうに!!」
「まぁなぁ~。実はな、期限を過ぎてしまってるから俺が行けば針の筵にされるんだ。」
「されちまえばいいのによぅ。」
「でだな、コノハが行けばそれもなくなる。なんせ、『とりばぁー』は音楽が好きと聞いた。」
「え、ええっと、つまり私が笛の演奏をすればいいんですね?」
「そのとおりだ!!」
わっはっはっはと笑う草十郎は何か別なことを隠しているとコノハは思った。
きっと、コノハが向こうに行って帰ってくる間に何かが起こるのだと・・・。
ちなみに、弐から参というのは称号のことである。上に上がっていくにつれて、上忍護師に近づくというものである。
(コレは勘だけど、草十郎殿は何かを隠したがっている。だから、僕を遠くに行かせようとしているんだ。)
きっと行ったほうがいいのだろう。コノハはそう思った。
5年間も一緒に行動していると、草十郎の性格もだんだんとわかってくるというもので・・・。
草十郎はなるべくコノハを危険な任に就かせようとはしなかった。
一座のこともあるのだろうが、また別のことでもあるようだ。
お使いに関しては断る理由もないわけで、コノハは返事した。
「わかりました。必ずや、届けてまいります。」
「おぉ!!ありがたい。ゆっくり行ってくるといい。」
「草十郎殿も、お気をつけてください。」
コノハがそういうと草十郎は目を細めて笑った。
草十郎は思った。(やはり、何か感づいているな。)と。
草十郎とコノハの会話を聞いていた、一座はどうしようかと話し合いをしていた。
コノハと途中まで一緒に行くべきなのか行くべきではないのかという話し合いを。
「小葉、私たち一座と途中まで一緒に行ったほうがいいと思うんだ?」
「え?」
「あそこは有名だけど有名な場所じゃないんだ。」
「どういうことですか、団長。」
「『とりばぁー』は、とても有名なお人さ。全ての出来事やモノを知っている。だが、その『とりばぁー』がいる場所を見つけるのは難しいんだ。」
「そうそう、誰か人伝いに聞ければいいけど今は知らない奴らのほうが多い。」
「・・・。ありがとう!団長たち、でも僕は一人で行きます!」
「でもねぇ~。」
「大丈夫です!草十郎殿にだいたいの位置を教えていただければあとは何とかなります。」
「おお!教えてやるぞ。」
「・・・はぁー。小葉がそういうのなら、頑張って行きんしゃい。」
「うん!行ってきます母さん!」
「コノハちょっと2階へ行くぞ。場所を教えるのは良いが、他のやつが聞いていたらいけねぇ。」
「は、はい!」
草十郎の言葉でコノハは2階へ行った。
誰にも聞かれてはいけない場所。それなのに、団長たちが知っていることにコノハは驚いていた。
「江戸からもっとも南下したところにある『草梅雨』という場所に『唐津』という名の村がある。そこだ。」
「他の村は近辺にあるのでしょうか?」
「いや、ない。まぁ、行けば自然と足が向かうはずだ。または、気づいたらそこにいる。そんな場所だ。」
「はぁ。」
「まぁ、頑張って行けよ!」
「はい!」
コノハは『草梅雨』や『唐津』という名の地名、村名を聞いたことが無かった。
(ちょっと、不安だけど大丈夫だよね?だってもう、14だし。)
そう、コノハは思い1階へと降りていった。草十郎はすでに降りていて、しかも役所に戻っていったというのを、壕が何故か嬉しそうに話していた。
そうして、コノハと一座そして、他の来客たちは夜中まで騒いだのは言うまでも無いだろう。
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日が昇るころにはもう、コノハは起きていた。
旅の準備をしていたのだ。
荷物は最小限にしてあるのだろう、小さな布でできた鞄に刀を持っただけだった。
「よし、行こうかな?みんなが起きる前に・・・。」
コノハはみんなが起きてから行くのでは、何が足りない、コレを持って行けだのと言われるのを恐れていた。
余りにも荷物が多くなると、コノハの力では持っていけなくなるのだ。
本当は、別れ辛くなるというのもあるのだが・・・。
コノハが宿の戸を開けるとそこには待ってましたとばかりに、椿と白海そして母親の姿があった。
「え・・・。」
「ふふん。アンタの考えていることはお見通しだっていただろう?」
「我が子の旅立ちを見らずして母が務まるものか。」
「気をつけて行きなさい。」
「・・・・はい!!行ってきます。」
始めはビックリした。でも、本当はどこか期待していた、母や椿達がいることを・・。
そして、コノハは江戸を出た。
江戸を出てからは大変だった。
単に南下して行くだけならいい。だが、実際にはそうはいかない。
あちこちの村や街に寄らなければ食料を調達だってできないからである。
途中で馬を手に入れたけれど、ここから先は馬は連れて行けない。なんせ、陰が多いのだ。
だから売るために寄る必要もあった。
「思っていたより、遠いよぅ。」
コノハはポツリと愚痴を言った。
ある街の酒場で『唐津』について何人かに尋ねたときに、その距離を知ったためである。
その際に、1人の若者が『俺は唐津から出だよ。』といいコノハに唐津が現在地からどれほど離れているかを教えてくれたのだ。
「ど、どうしてそんなところから貴方は来たのですか?」
「ははは。普通なら不思議に思うだろうね。ただ単に。仕事だよ。」
「仕事・・?」
「あぁ、俺の仕事はちぃっと特殊でね、陰の情報を伝えるということをやっているんだよ。」
「陰の情報ですか?」
「あぁ、陰はただ黒く、人をむやみに襲うだけではないんだよ。」
「え、そうなのですか?」
「そうさ。その情報を都に伝えたりしているため、あちこち周っているってわけで。ちなみに唐津の連中はそういう仕事している奴が多いぞ。」
「なるほど、ありがとうございました!!」
「いんやぁ~、気をつけろよ!坊。」
「・・はい!」
悲劇はここから始まった。いや、とうの昔に始まっていたのかもしれない。
若者と別れて、唐津を目指しているときにそれはもう大量の陰にばったりと遭ってしまった。
陰は本来なら、単独行動が多い。けれど今、目の前でうごめいている陰らは違った。
(え・・ちょっと待って!!なんでこんなにいるのさ!)
コノハは戦わないという安全な方を選択したいのだが、陰のほうは違うらしい。
(うわぁ~なんで、襲う気満々なの??)
1匹がコノハに気づけばもちろん、他も気づく。
ぞろぞろとコノハのほうに近づきつつ、牙をむいていた。
「やるしかないじゃないか!!」
宇津木がこのコノハの動きを見ていたら、なぜ将軍がコノハを一座から引き抜いたのかがわかっただろう。それほど、コノハは舞を舞うかのように刀を扱っていた。
コノハは始めに5匹くらい固まっていた陰を薙ぎ払いそして次々と倒していった。
「つ、疲れたぁ~」
最後の陰を倒したときにはもう、コノハの体力は底をつくかのように思われた。
あぁ~もうだめ。とコノハが地面に倒れこみ唐津があると思われる方向を向くと、なんと・・・。
あったのだ。そこに村が・・・。
(えっとぉ~。今さっきまであったかな?そもそもさっきいた場所とぜんぜん違うところにいるんだけど。)
「とにかく、行かなくちゃ・・・。」
そうして、コノハはボロボロの体を動かして、唐津へと向かったのだ。
が、そうそう上手くいくはずも無く関所もどきの門での審査が始まった。
(審査とはいったいなんだ!!)
村人によると審査とは入村者が悪いものかどうかをここの村長である『とりばぁー』が判定するらしい。
コノハは『とりばぁー』と聞いて、「これを渡してほしいのですが・・。」と楽する方法を取ったが、「自分でお渡しください。」と返され今に至るわけだ。
(いったい、いつになったら判定はだされるのだろう・・。)
そう思いながら、コノハは体を草原へ投げ出しのんびりと待った。
やっと、やっと、2人が会うのです!次回で会えるのです!!
長かった!!まだまだ続くので今後ともよろしくお願いします!




