28話:まわれぇ右!!
敵将と会いまみえる・・・たかったのですが、無理でした。
今まさにサノは、回れ右をして帰りたかった。
どこに?と問われると困るのだが、とりあえず回れ右をして今見ている光景を見なかったことにしたかった。
(どーした私!さっき、もう逃げないとかほざいていなかったか!なのに何逃げようとしている!!踏ん張るんだ!!)
サノと赤朔がいるのはとある小屋の裏で、そこに身を隠していた。
小屋の前には、背を向けた陰の集団が蠢いている。
大小様々な大きさをしており、形もてんでバラバラ・・・ちなみに、サノが苦手とするとある形の陰もいた。
(うわわあああ!くねくね動いているよぉ~!)
内心涙目なサノに気付いたのか、それとも腰が引き気味なのを見たためか赤朔はサノの方にポンと手を置いた。
「サノさん。腹決めてください。いくら、虫がきら・・ぐほぉ!」
赤朔に最後まで言わせまいとサノは腹にいっぱつ肘鉄をくらわせていた。
とても自然に・・・流れる動作で。
「あ、わりぃ赤朔。なんかさ、聞こえちゃいけない死語が聞こえちゃってさぁ~」
頬を掻いてテヘ★と笑ってごまかすサノに赤朔は引きつった顔した。
「そこまで嫌いですか。...それに死語って、意味変わってますよね。」
痛む腹を押さえながらボソッと呟く赤朔を軽く無視することにしたサノは、なるべくソレを視界にいれないようにして現状把握をし始めた。
陰は今、自分たちに背を向けている。何か始まるのを待っているようにも見えたりする。
「どうする?俺的には背後から不意打ちっていう手が得策だと思うんだが。」
得策といっても、サノにはその戦略方法しか思い浮かばない。それに対して赤朔は首と振りつつ言った。
「それが一番いいんスけど。大将見つけてからじゃないと...。」
(大将・・・・あ、あれか!戦国時代でいう将軍で、それを倒せば一件落着というわけか!まさしく戦国無○だな!)
「将軍のことか!!よし、それらしい奴を探すぞ!」
サノの言葉に目を丸くした赤朔は、待ってくださいと止めた。
「将軍は敵ではありません!逆です!仲間ですよ!!」
サノは必死に訂正する赤朔に若干引き気味になりながらも、そうかと訂正を認めた。
きっと赤朔にとっては将軍は神のような人なのだろう。目がまさにそれを語っている。
ちなみに、サノにとっては歴史上の人物は名前を覚えるのが精いっぱいで戦国無○も、名前を覚えるために買ってやっているようなもの。
日本史は苦手オーラがでていたのか、それに対して赤朔は、長々と説教をしようかとしていたため慌てて話題を変えることにした。
「赤朔見ろ!あの白い奴が敵将じゃないのか!」
焦りながらいつの間にかノイズが止まり陰の前に現れた白いヒトを指して言う。
白いヒト...それは陰のように黒くなく陰と対照的な白さを肌、髪、着物さえも一色に染まっていた。
(髪の長さからして女かな?瞳の色はさすがにここからじゃ見えないか。)
「!!!アイツは!」
サノの指さした人物をみて赤朔の表情が強張った。
「知り合いか?」
知り合いかと問うサノに赤朔はブンブンと首を振った。
「そんないいものじゃないッスよ。アイツはヒトじゃない。アイツは神に近い存在なんです。」
「神・・・。神!?居たのか!」
「え・・・そこ突っ込むんスか。あぁそうか。サノさん記憶喪失でしたもんね。」
サノの恐ろしい発言に驚愕しながら、ふと思い出し方のように頷きながら赤朔は自己解釈した。
「にしても、重度の記憶障害ですねっとぉ!」
「記憶喪失だっつてんだろぉ!」
サノは今ほどヒールを履いていればよかったと後悔したことはない。
ヒールだったら、肘鉄と同じ程度の痛みを与えられたのに・・・とサノが思ったとき赤朔は身震いをした。
自分の身が危険だと察知したのだろう。
そんなこんなで静かに騒いでいると、凛とした声が響いた。
『ここに集いたる我僕たちよ。』
両腕を広げるようにして白いヒト...神は陰に呼びかけた。
『今日こそ我愛しき者を救いだし我のもとへと連れてまいれ。』
白き神の言葉にサノと赤朔は顔を見合わせた。
神にとっての愛しき者がこの村にいるというのだろうか。
この血塗られてしまった村に。
『我最愛の人...邪魔するものがいるならば消すことを許そう。さぁ!!再び世に混乱を生み出そうではないか!!』
白き神の言葉に陰たちはノイズで喝采した。
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「赤朔・・・一つ聞いていいか。」
白き神を見つつサノは赤朔に問うた。
「アレは神か?アレが神か?」
サノの声は震えており、それは怒りからであることが見て分かる。
「アレでも神なんです。唯一下界に降り立った神。見たものを残虐に消し去るとも言われ恐れられているッス。」
「その恐ろしい神が今回の敵将かぁ~。初戦がそんな相手とはぁーなんて喜ばしいことやら。」
ふふふふふと笑うサノに赤朔は目を見開いた。
「恐ろしくないんスか?神なんスよ!」
「恐ろしい?アホらしい。勘がな...生かしておくなと言っておる。」
(女の勘だけどね。なんんんか、ムカつくんだよ!!!)
不敵に笑うサノをみて赤朔は一歩後ずさった。
「言葉遣い変わってるッスよ?...あ、無視スか。てか、もう眼中にはアイツしか見えてませんね。」
肩を落とす赤朔に今度はサノが肩に手を置いてニヤリと笑う。
「さて行こうか。戦とやらを防ぎにな。」
(あぁ___あの歪な形の陰よりも、今は白き女を滅することを思うと楽しみで仕方ない。)
そんなことを考えているサノに気配で分かったのか、赤朔は何故か陰に憐れみを持ってしまった。
(サノさん...こえぇ。一体何があったっていうんだ!アイツよりもサノさんの方がこえぇよ!!)
などと、赤朔が思ったのは言うまでもないだろう。
白き女=ライバルと確定してもいいのやら。
そもそも、今回は敵将と合戦するはずだったのに・・・。
次回は亜樹たちのほうへと戻ります。(そろそろコメディほしくないですか?)
その次に合戦します。
女(男装)と女(神)の戦いです。