2話:高校生迷子になるの巻
見渡す限りの森林。
なんて、自然豊かで温暖化が心配されない場所なんでしょう。人すら見当たらない。
私は、認めたくなかった。
決して意地を張りたかったわけではない。信じたくなかったのだ。
この状況を・・・。
「迷子の迷子のなんと~か。あなたの、お宅はどこそこでぇ~♪」
(・・・。歌詞なんか、違わないか?気のせいかな?気のせいさぁ)
私の思考回路は本気でショウト寸前だった。迷子だからではない。断じて違う。
今の状況に頭がついていけていないのだ。
普通の人なら私の状況が分かってくれるはずだ。だって・・・。
たかが、帰宅していただけだ。夜のせいで暗かったわけではない。昼間だったし。
変なやつらに追われていたわけではない。むしろその方が良かったかもしれない。
よって、森の中に入ることはまずありえないからぁ。
(もし、ここに由衣がいたら、『いーちゃん、言葉の使い方間違ってるぅ~。』なんて言ってるなぁ~ああ見えて、由衣頭良いからなぁ~。あと、性格さえ良ければ・・・。って待てよ、もしかしたら私は今夢を見ているのかもしれない。)
「きっと、そうだ。あまりの暑さに貧血で倒れたのかもしれない。」
(って、ありえないからぁ~。暑さって春だぜ?それに、貧血ってなったことすらねぇ~よ。)
ザクザクと草を踏みつけとにかく民家のあるほうへと足を傾けた。
っといってもどこになにがあるのかすら分からないため、適当である。
適当に歩く私。そういえば、高校の進路も適当だった。自分の頭で入れるところを探し、適当にパンフレットに紹介されていたところを見学もせずに決めたのだ。
それに対して亜樹は怒っていたなぁ~なんて思い出す。
(私が何かを適当に決めるとすぐに怒る亜樹。優しい子、心配性な子、でも変な子。)
「亜樹と初めて会ったのは・・・たしか9年前じゃなかったか?長いようで短かったなぁ。」
ちょっくら、回想に浸ろうとしていると見えてきました。一軒の家が・・・?
(よっしゃぁ~!とか思ったけどちょいと待て。あれ・・・)
「家じゃなくね?小屋?いやいやいや、もし家だったら失礼ですよ私。」
「確かに、失礼だな。お前さん。」
「!!!!」
「どうしたかね?変な格好したお前さん。」
(気絶してもよろしいでしょうか?すごくビックリしたのは私だけですか?私しかいないかぁ。)
一人で一生懸命に考えていたところに、しかも行き成り誰だか分からないやつに独り言に参加されたら、会話になっちゃうじゃないか!
なんて、そんなことはどうでもいいのだ。
問題は目の前にいる、おっさん。しかもなんか、変な格好って言われたのですが。
「わ、私から見たらアンタの方がよっぽど変な格好をしているように見えるよ。なんか江戸時代風だもん。」
「お前さんから見りゃぁわっちの格好が変とな?わっちからお前さ~見たら格好が変と。ついでに江戸時代のぉようだと。」
「そうそう。お互いに変ってことなんだけど、江戸時代ってわかるよな?」
「ふ~む。江戸時代?江戸ならあるがぁ~江戸時代はぁ知らねぇ~よ。」
「?江戸と江戸時代は違うの?あぁもう!わかんなくなってきたぁ!」
「そかそか、わかんねぇ~か。じゃぁ、とりばぁーに聞くべ。ついてきんしゃい。」
「はぁ~。付いて行きます。」
(うん?なんか丸め込まれた?)
気づいたら、変なおっさんに付いて行くことになっていた。おかしい、いつこうなったんだろう?
しかも、江戸と江戸時代って違うの?一緒かとも思っていたんだけど。
そもそも、ここ日本だよね?言葉通じるし・・・。通じてたよね?ね?
なんか微妙に訛ってるというか、方言というかなんというか取り合えず付いていって『とりばぁー』に会えばいいのか?
(にしても、通る道は平道じゃなくて森の中かよ。)
「ここんさ通れば、上忍護師らに見つからんべ。」
「へぇ~。ってなんだよそれ??」
「詳しくは、とりばぁーに聞くべ。」
また出たよ『とりばぁー』ってか、このおっさん私の心の中読んだ?
しかも、『じょうにんごし』ってなんだよ。どんな字だよ。わかんねぇ~
「べつに、心さ読んでなかよ。お前さん顔に出てるべ心の声が。」
「??悪い。全然わかんねぇー。」
「よかよ。時期わかるさぁ~。」
「そっか、ならいいんだけど。」
(ついでに帰れるんならいいんだけど。)
どんどん森の獣道を通っていく。通りにくいったらありゃしない。
けれど、おっさんのおかけで進みやすくはなっていた。
このおっさんわざわざ鉈で邪魔な草を切り倒していたのだ。
(そういやぁ~名前聞いていなかったな。
変なおっさんだけど、悪い人じゃなさそうだし聞くのは別に悪いことじゃないし・・・。)
「なぁ、アンタの名前なんていうんだ?・・・っあ、先に名乗れって言うのなら名乗るけど。」
「わっちの名は天羽。主なるお方が付けてくださった名じゃ。」
「あもう?っそっか、あるじってぇと誰かに仕えているってことだな。んじゃぁ私が名乗る番か。私の名は、樹。本城 樹っていうんだ。誰にも仕えてなんかないからな。」
「いつきかぁ~。大樹の樹のほうかのぅ?」
「あ、あぁ。それでいつきだ。あもうは、どんな漢字なんだ?」
「天羽は、天からの贈り物。それは羽であったという意味じゃ。」
「え、ええっと、天と羽であもうっていうのか?」
「そうじゃ。」
「良い名だな。」
「そじゃろうて。樹は誰にも仕えておらぬと申したが、神すらにも仕えぬのか?」
「神は仕えるのもじゃなくて、拝むものだろう?
それに、神様は人を助けるためにいるんじゃないと思うんだ。」
「ほう。」
天羽は、私が続きを話すのを促した。
変なやつと思われているかもしれない。昔も変なことばかり言って馬鹿にされていたような・・。
でも・・・・。
(天羽なら聞いてくれるかもしれない。)
「神様は、私の父親を助けてはくれなかったよ。もしかしたら、父は悪いことをしていたのかもしれないとも思った。でも、助けてほしかったんだ。お祈りだって毎日した。祈りだけじゃ足らないのかもしれないって思った。だけど、私にできることは限られていた。なんせ、今以上に幼く子供だったからね。」
「だから、神は人を助けるためにいるのではないと?」
「うん。祈り倒して助かったやつがいたかもしれない。でも、それはそいつの努力の方が大きい。だから、神様は人を助けたりはしない。ただ傍観しているだけ。まるで・・・。」
「・・昔、人がそう望んだようにと?」
「うん。私はそう考えている。」
それ以降私たちは黙ってしまった。私が変なことを言ったせいかもしれない。
でも、最後まで聞いてくれた人は天羽の他に誰もいなかった。
(違う。いなかったんじゃない。私が話さなかったんだ。)
互いに無言になっても足は動いている。進むべき道を知っているかのように。
私はちらりと、天羽を見た。天羽は何やら考え事をしているらしい。
(・・・。変なやつって思われちゃったかな?)
そう考えるのが妥当かもしれない。
でも、天羽は違うことを考えていたのだと後で分かった。しかも、大変くだらないことを・・。
「もうすぐ森を出る。気をつけなされ、決して驚くことなかれ。」
いきなり天羽が口を開いた。驚いたけど、それ以上に驚いたのは森から出た後の風景だった。
(はい?)
「いや、まてまて。ここはどこ?」
「ここは、唐津じゃ。江戸よりは遥かに遠く、
また名も知られていない地方のひとつじゃ。どうじゃぁ?田舎だろう。」
何故か田舎であることを自慢している天羽を見て、私の思考は完璧に止まった。
(見慣れぬ風景。見慣れぬ服装。聞き慣れない言葉遣いは関係ないか。)
「信じたくはなかったけど、やっぱり・・・。」
「ほう!田舎と聞いてそこまで落ち込みなさんなや。とりばぁーに聞きゃすべて分かるに。」
(いやいやいや。田舎に落ち込んでたわけではないぞ。)
私の考えは他所に天羽はどんどんと目的地に進んでいた。私もその後に付いていった。
でないと、道がわからないからだ。
(またもや、迷子になるなってことは避けよう。方向音痴だと自分を疑ってしまう。)
道行く人は皆が皆、私をモノ珍しそうに見ていた。
(当たり前なんだろうけど、なんだか違った意味で見られてそう。なんでだ?)
天羽は高台にある一軒の家の前で止まった。
最初は家なのだろうかと疑ったけど、家だと認識することにした。
現代の日本にはまずありえそうにない家。
(そもそも木造建築って・・・。)
「ほれほれ、入らんか。とりばぁーは樹のことを待っているべ。」
「あ、うん。って・・・」
(『とりばぁー』は何者?私がここに来ること感知していた??)
私はその家に入る前に天羽にお礼を言おうと思った。だから振り返った。
振り返ったらまずかったのかもしれない。
天羽がいたところには、一羽は小さな白い鳥がいたからだ。
(はて?はてはてさてはて。!!!!まさか天羽??!!)
「そんな馬鹿な!!」
「はよ、入らんしゃい。」
一人驚いているところに声がかかった。それは、家の中からで・・・。
(取り合えず入ろう。とにかく入ろう。そして聞こう。天羽のこととか・・。)
私の頭の中には天羽のことしかなかった。だってそうだろう?人が鳥でした。なんて誰が信じる?
目の前で起きた現象にすら、さっきからついていけてない私がいるというのに。
そして私は、思い切って戸を開いた____。
長かった。森の中がすっごく長かった。
やっと、とりばぁーのところまで行った。これからです。
説明やら何やら知ることができるのは・・・。