17話:待ってる人
樹の義弟・・・亜樹のお話です。
~始業式編~
始業式かねての対面式。
そんな面倒なことやらなくていいと僕は思った。
しかも、あの人のためにレベルを下げて入ったというのに当人のあの人は見当たらない。
あの人こと本城 樹。
僕の義姉に当たる人。
僕は義姉なんて認めたことはなかったけど、樹は「姉を敬いなさい!」とか言って姉であることを強調する。
でも、僕は認めるわけにはいかないんだ。
まぁ、自分勝手な理由だけど・・・・。
「はぁー。めんどくさい。」
「おいおい。入学試験トップで入ったやつが言う言葉か?それ以前に目立っていうるというのにな。」
僕がため息をついてボソっといった言葉に反応したのは隣に座る幼馴染九条 雅人小学校から高校まで一緒という、いわゆる腐れ縁である。
確かに僕は入学試験でトップをとった。
でもそれは樹に褒めてほしくて・・・・というより樹と会話ができるんじゃないかという希望を抱いたからだ。
「入試は・・・・一応頑張ったから。でもそれ以前に目立つ理由がわからない。あ、もしかして樹の義弟だからとか?」
「理由って・・・・・まぁ義弟もそうだろうけど、容貌がなぁ~容貌が問題なんだよ。」
「何?醜いってこと?」
「み、醜い?んなこと大声で言ってみろ!!俺が周りに引っ張りたたかれる。」
「それは~見てみたいかも。」
「このドSがぁ!!そんなんだから・・・・・おっとっと。」
「そんなんだからなんだよ?」
「いやいやいや。ほらちゃんと儀式に参加しようぜ?」
「話を誤魔化すな。だいたいその儀式をサボろうとしたのは誰だっけ?」
「さぁ~なぁ~。」
「ったく。」
樹と話がしたかった。
会話がしたかった。
声が聞きたかった。
中学のあの喧嘩から一度も口を聞かなくなった。
それはとても苦しいことで・・・・・。
だから高校を同じことろに入ればきっとまた声が聞けるっと思ったんだ。
まぁ甘い考えだったみたいだけど。
「これで始業式を終わります。生徒は速やかに教室にもどりなさい。」
化粧が濃い先生がマイクに向かって言う。
その言葉に従うように生徒たちは各々立ち上がり出口へと向かった。
その際に僕はちらちらといろんなことろから視線を受けながら気まずいというかもどかしい思いが募っていく。
別に視線のせいではないことは承知である。理由ははっきりしている。
それは・・・・。
「やっほ~?あきちゃん♪樹がいなくて寂しいでしょう?」
そう樹がいないからって・・・・。
「・・・・ゆ、由衣先輩!!変なこと言わないで下さいよ。」
「事実だも~ん。」
多くの生徒が体育館から消える中、僕と由衣先輩と由衣先輩の友達らしき人と何故か雅人が残っていた。
だから良かったものの、他の人が聞いていたらまた樹とのコミュニケーションが取れなくなる。
というより、完璧に無視されそうで怖かった。
「事実って・・・・。」
「事実だろう?」
「事実よね?」
「この子があの、男女さんの弟。」
うん?なんか聞こえた。
男女?誰のこと?まさか樹のことじゃないよね?
などと思う僕はじっと由衣先輩を見た。
「うわぁ・・・。鈴乃ちゃん!!それ言っちゃダメ!!」
「あらどうして?」
「由衣先輩、この人怖いもの知らずですね。」
僕の視線を受けて由衣先輩は顔を蒼くしながら鈴乃と呼んだ少女になにやらひそひそと言い始めていた。
ついでに雅人は由衣先輩に憐れんだ眼をして言った。
『鈴乃ちゃん。それこれからは禁句ね?』
『だからどうしてですの?』
『言ったことあるでしょう?あきちゃんのこと。』
『ええ。おとこおん・・・樹さんのことが大好きで止まない弟さんのことよね?』
『そう!!その大好きで止まない弟さんは、樹のことを悪く言われるとおっかなくなるの。わかる?』
『つまり~わざというだけでも、弟さんの逆鱗に触れるというわけですのね?』
『そう!!しかもそれを抑えられるのは樹ちゃんだけなの!!だから・・・。』
『分かりましたわ。今後一切言わないことにいたします。それにしても・・・・。』
「樹さんはどこに行ってしまわれたんでしょう?」
由衣先輩と鈴乃という先輩の会話が終わるのを待って樹の居場所を聞こうと思っていたのに、最後の鈴乃の言葉で僕は思考停止した。
「え?樹学校にいないの??」
「ええ。儀式が始まる前に学校を飛び出して言っていましたから。」
僕の問いに鈴乃さんは丁寧に答えた。
「飛び出した・・・・?どういうこと由衣先輩?捕まえといてっていったじゃん!」
「ごごごごごめんね!!捕まえとくはずだったんだけど、途中で進ちゃん来ちゃって・・・。」
僕のどすの利いた声に由衣先輩は怯えながら答えた。
由衣先輩が怯えているのはどうでもいい。いつものことだから、でも『進ちゃん』って誰だ?
「進ちゃん?」
「そう、私たちの担任なの。それで樹、進ちゃん苦手というより嫌いで・・・そのまま逃げちゃったの。」
「逃げたって・・・・。ケータイは??」
「それがね、始まる前に電話とかメールとかしたんだけど全然でてくれなくて。いつもならすぐにでてくれるんだよ?でも・・・・最終的には『圏外か電波の届かないことろにいる』ってなって。」
どうしよう・・・っと見つめてくる由衣先輩。
たいていの男ならこの可愛さにノックアウトを食らうんだろう。
でも僕はそんなことよりも樹が行方不明になったかもしれないことに焦りを感じていた。
「家に電話かけてみるよ。」
ポツリと呟いた僕の言葉に由衣先輩は頷いた。
鈴乃さんは眉を顰め困った顔をしていた。
雅人は・・・・・話についていけなかったらしくぽかんと口を開けていた。
それから僕らはそれぞれの教室へと戻った。
っといっても、雅人と僕の教室は一緒なのだけど。
「なぁ?樹ちゃん本当に行方不明なわけ?」
雅人は樹のことを樹ちゃんと呼ぶ数少ない人。
なんせ小さい頃僕と混ざって樹に遊んでもらっていたからである。
雅人は樹がいるからこの高校に入ったんじゃないかと僕は疑っていた。
つまり、嫉妬のようなものである。
「まだ行方不明って決まったわけじゃないよ。母さんに聞いてみらないと・・・・。」
「だ、だよな!!よかったぁ~(何のためにこの高校に入ったか意味なくなるしな!!)」
「なんか言った??」
「いや、別に??」
やっぱり雅人は怪しい。
っとそんなことよりも母さんに電話して樹が家に帰ってないか聞いてみらないと!!
僕はそう思いポケットに入れていたケータイを取り出す。
「おいおいおい。せめてHR終わってからにしろよ。センコウ来るぜ?」
「・・・・・そうだね。」
雅人の言っていることはもっともだったのでケータイを再びポケットに直す。
というのも、この高校はケータイ所持禁止と禁止事項に書いてあるくらい規則が厳しく見つかれば没収だ。
それは流石に嫌なのでしぶしぶ直した。
それにしてもなんで樹はこの高校を選んだのだろうか?
記憶にあるのは数あるパンフを積み重ね真中から取り『よし、ここにしよう!』っと言って決めたことは覚えていた。
あまりの適当さに驚きせめて見学には行くのかと思ったら行きもせずに『入試に向けて頑張るぞ~』といい勉強を始め、何処に行くのかとパンフをみれば一ランク下の高校だった。
それに関しては流石の僕も怒った。
怒った僕を驚いて見ていた樹、でも最終的には『ありがとうね?』といい僕の頭を撫でた。
きっと『優しい弟を持った』とかんか思ったんだろう。
僕は優しくなんかない。決して。
「では、これでHRを終わりにする。明日から創立記念日と学校会議とまぁその他もろもろで1週間は休みになるがな。休みボケは許さんぞ!?ありがたく思え休み明けには大量のテストをするからなー!」
「いや、意味わかんねーよ。普通テストじゃなくて宿題じゃね?」
「はい、そこー!文句があるなら学校長に言いなぁ!?」
「教師がこれで良いのかよ。」
「では、帰れ!残るなよ、チビども!!」
熱烈教師(身長180cm体重??kg)のマッチョが生徒を解散させた。
教師が教室から出たのと同時に僕はケータイを開き、家の番号を履歴から探し掛ける。
「行動が早いな。おい。」
「お前こそ、教師に楯突くな。」
「楯突いてねーだろ?あれはみんなの心の内を代弁してやったんだ。しかも学校長が休み明けにテストをすることを決めたなんてありえなくね?」
「・・・・・・。」
「既に聞いてねーし。はぁ~まさちゃん、寂しい。」
雅人が何かブツブツと言っているのを無視し母さんが電話に出るのを僕は待つ。
待っている間に数人の女子生徒たちが『休み暇?』とか聞いてきたようだけど、すべて雅人に相手をさせた。
こういうときの雅人は役に立つ。
【は~い。もしもし?】
「あ、母さん?」
【あら??珍しい亜樹ちゃんじゃないの??どうしたの?】
「・・・・樹家に帰ってきてる??」
【いっきちゃん?帰ってきてないわよ?あらあらもしかして・・・。】
「も、もしかして何??」
【心配しなくて大丈夫よ!数カ月したら戻ってくるから!ね?】
「っちょ、何で数カ月??しかもなんで知ってるの??」
【ヒ・ミ・ツ♪】
「母さん!!」
【まぁ、亜樹ちゃんは気をつけて帰ってきてねぇ~?それじゃぁお昼ご飯の準備をしますか。】
「あ、待ってってば!!【ツーツーツー】」
母さんは自分で何かを納得し、勝手に切ってきた。
僕には何が何だか分からず、雅人をみる。
対する雅人は今はハーレム状態で顔がにやけていたのだが『別に九条の暇を聞きたいんじゃない!』と一喝され落ち込んだ。
そんな雅人に慰めの声なんか掛けるわけがなく眺めて頭の中を整理する。
「あ、良かったぁ~まだいて!お母さん何て??樹帰ってたって??」
「ううん。帰ってはないけど、数ヵ月後に帰ってくるって。」
「どういうこと??」
「さぁ・・・僕が知りたい。」
由衣先輩が教室に顔を出し、樹の安否を聞いてきた。
でも、僕には安否すら答えることができずただ母さんが言っていた言葉を由衣先輩にそのまま教えた。
すると、由衣先輩は困った顔から何かを思い出したような顔になった。
「もしかして・・・・いやいやいや。あれはないでしょう。だって小父さんは・・・。」
「何?何か知ってるの??」
「あ、ううん。はっきりとしたことじゃないから・・・今度教えるね!そのときは明確にわかるはずだから。」
「よくわかんないけど、樹は無事なの?」
「・・・・・・・たぶんね?」
「たぶんって!?」
「でも樹なら大丈夫よ!」
「・・・・・後でちゃんと教えてよ!?」
「うん!任せて!!そのためにも、小母さんに会わなくちゃだけど。」
由衣先輩は『帰ろう帰ろう!』と言って、僕の家へと何故か雅人まで一緒に帰った。
家に帰った僕は母さんにとんでもない話を聞くことになるのを僕は予測していなかった。
ただ、樹が無事であることを祈り、横にいる雅人に『お前は自分の家に帰れ!』と言うだけだった。
もちろん、雅人は帰らなかったけど・・・・。
ちょっと、異世界からもとの世界へと戻りました。
懐かしい人々に会えます。(たぶん)