外伝:草十郎とコノハの日常
番外編?みたいな。
あれは、いつのころだっただろうか・・・・。
夏の暑さにも負けぬ、蝉どもの羽を震わす音。
巨大な松の木と桜の木がそれぞれ、ぶつからぬように立ち並ぶ、江戸の大部分を閉めるといわれる役所の地。
その庭には最近、護師と護子が追いかけっこをしている姿が見受けられるという。
遠くから見れば、父親が子を遊んでいるようにも見える風景であった。
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5年前、コノハは将軍と呼ばれる方に役所に入るように命じられた。
それは、決してお願いや勧誘ではなかった。
一座の人々は、反対した。9歳の子供が役所に入るなんて無理である。と反論した。
コノハも役所に入るつもりなんてさらさらなかった。でも・・・お上からの命令である。逆らったらどうなるかは、誰もが知っている。
だから、コノハは嫌々ながら役所へと名を置くことになった。
役所に『名を置く』というのは、大変名誉なことであり誰も彼もが入れるものではない。
コノハが、役所に名を置いた当初は、多くの者が噂を聞きつけて、若く名を置いた子供の顔を見に来た。
見に来たといっても、ただ顔を見て帰るというわけではなく、ある者は手合わせを願い、ある者は自分の娘の夫にならないかと幼いコノハを誘ったりとしていた。
そんな場合は、コノハの師となった、日下部 草十郎が薙ぎ払った。文字通り木刀で薙ぎ払ったのだ。
そのおかげか、気安く役所に来る者は徐々に減っていった。
そんなあるとき、コノハは自分の師に尋ねた。
「ししょう。なぜ、人は僕を見に来ていたのですか?僕は、いたって普通だと思われるのですが。」
そんな質問に草十郎は、頬をかいた。
「お前が、普通だったら、世の人は皆が皆、超人になるぞ。」
草十郎の返答に、コノハは真ん丸い目を、それ以上に丸くし見開いた。
「皆がちょうじんになるのですか。それは、すごいです。」
「そうだろ。すごいだろう。でだ、なんでお前を人が見に来ていたのかを知りたいんだな?」
「はい。知りとうございます。もしかして、めのせいなのですか?」
「うん?まぁ~それもあるだろうけどなぁ。お前さぁ~、あの時・・・あの~弱そうな奴が手合わせを願いたいと言ってきたときあっただろう?覚えているか?」
「はい。覚えています。ですが、よわそうではありませんでしたよ?」
「いや、だからな。お前あいつを吹っ飛ばしただろう?」
「きっと、手加減をしてくださっていたのです。受身体制をとっておりませんでしたし。」
「・・・普通は、子供相手に受身体制なんてとらねぇーんだよ。」
「!!そうなんですか?ごう兄ぃは、いつもとっていましたよ?吹っ飛んじゃうからって・・。」
「そうか。あの、巨人を吹っ飛ばしたのか。」
「きょじんでは、ありません。背が大きいだけです。」
「だが、自分より身長の高い相手を、ふっ飛ばしたんだろう?」
「あのときも、あの方と同じように受身体制をとっておりませんでした。」
「・・・・・・そうか。」
「そうなのです。」
「でもな、9歳の子供がっつうか、子供が大人を木刀で薙ぎ払っただけで、吹っ飛ばしたりはしねぇーんだよ。」
「!!!そうなのですか?では、僕は人より力が強いのでしょうか?」
「ちぃっと違うな。力が強いのではなくてな、刀の使い方が上手いんだよ。」
「かたな?力ではないのですか・・・。残念です。」
「いやな。そこで残念がられてもどうしようもないのだがな。」
「だって、僕は一座の者だったのですよ?一座の者は戦いや争いを拒むのです。なのに、刀の使い方が上手いのは褒められたことではないのです。」
「そうだろうけどなぁ~・・・。」
草十郎は、また頬をかいた。
そんな、草十郎を紅の瞳でコノハは、じぃっと見つめていた。
「瞳の色にとって、力が宿ることを知っているか?」
急に、草十郎が話を変えたのに、コノハは始めキョトンとしていた。
が、コクリと頷いた。そのことに関して昔、母親が言っていたのだ。『瞳に色があるものは力を持つ』と。
「そうか。ではな、ここには・・・この役所にはお前の他にあと4人ほど瞳に色があり、それぞれ力を持つものがいるのだ。」
「そうなのですか?気がつきませんでした。」
「そりゃぁ、そうさ。色を変えているのだからな。」
「色を変える??そんなことができるのですか??」
「まぁ、できる見てーだぞ。」
「どのようにして?」
「そりゃぁ、瞳の力を借りてだろう。」
「瞳の力を借りる??」
「あぁ。まぁ、力の使いとかわかんねぇーとか思っているんだろう?たいていがそうだと、ダチに聞いたことがある。」
「その、ししょうのお友達の方も、色を持つ者なのですか?」
「まぁな。だがな、コノハ・・・お前はもう、力を借りているんだぜ?」
「!!そうなのですか?気がつきませんでした。」
「だろう??本人は気づかずに使っていることが多いっていう話もあるからな。」
「いったいどのように使っているのでしょうか?」
「・・・お前が悩んでいることだよ。」
「悩んでいること?・・・ご飯が美味しくなりますようにとかの願い事ですか?」
「・・・お前そんなこと毎日思っていたのか。違うからな。」
「では、ししょうのいびきがなくなりますように?」
「お前なぁ~、いびきは誰だってかくんだよ!!」
「それは、初耳です。ではぁ~・・・」
「まだあんのかよ?不満が・・・。」
「ししょうは、不満がないのですか??僕には沢山あります。」
「じゃぁ、言えるだけ言ってみるか?」
「お友達というか、仲間が欲しいのです。ここには子供がいません。」
「そりゃぁ、いねぇーだろ。だいたい子供には危なすぎる。あ、お前は例外な。」
「ししょうが、少しも優しくない。」
「俺は、すんげー優しいだろう??この役所のなかで一番な!」
「この役所の中で、ししょう以外の護師の方々は優しいです。」
「何を基準にしているんだかなぁ~」
「全てにおいてです。あと、ししょうは・・・」
「もういいぞぉー。聞き飽きた。」
「聞き飽きるはずがありません。同じことは言ってないはずです。」
「そうだがな。いつまでたっても、力について話せないんだが。」
「それは、ししょうが・・」
「まぁ、聞け。お前が力を借りているところはな。なんて言えばいいか、分からんが、その刀の使い方だよ。」
「刀の使い方?さっきも、おっしゃっておりましたよね?」
「おう。使い方っつうか、刀を振るうことで、敵をバッタバッタ吹っ飛ばし、自身消失させるという・・」
「自身消失はしないと思います。」
「そこは、流しとけって。」
コノハは、このいい加減んな草十郎の説明を一生懸命聞いたが、ほとんどわからなかった。
とにかく、自分は瞳の色の力を借りて、強くなっているんだということがわかった。
「なんだよ。説明不足ってな、顔すんなって。」
「ししょうの、頭が良くなりますように。」
「コォノォハァーーーー!!」
「わぁーーー」
そして、今日もコノハと草十郎の追いかけっこが始まる。
草十郎が、本気で走ったらコノハは、すぐに追いつかれてしまう。
そのためか、草十郎はたいていスキップをして追いかけていた。
コノハは、キャーキャー言いながら、楽しそうに逃げるが、他の者例えば、同士のものが草十郎にスキップで追いかけられたのであれば、顔を真っ青にしながらワーワー言って逃げたであろう。
なんせ、草十郎は、背丈が180とある、この時代では巨人にあたるほどの大男であった。
また、ごつい体をしているが、イケメンであるらしく女どもの噂がなくなることはない。
しかし、イケメン+ごつい体+背丈180+スキップ=怖い であるらしかった。
「お、おい。またやっているぞ。」
「怖くないのかねぇ?紅の子はぁ・・。」
「遊んでくれる奴に怖い奴は、いないのではないのか?」
「そうなのか・・・。だが、俺はあれは無理だ。」
「私だって無理ですよ。」
「呉羽でも、駄目かぁ~」
「こりゃぁ、遊びが終わるまで待つしかないな。」
「もし、声を掛けて、スキップしながらこっちにきたしたら・・・。」
「言うな。そして、考えるな。」
「怖すぎる。」
そんな会話が、廊下でされているとは、庭の近くに部屋を持つ清水以外知りもしなかった。
また、草十郎がことあるごとに、スキップをするようになったのはこのときからでもある。
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コノハが護子になりたてのときの話です。
あと、草十郎がスキップするのは癖になってしまったようで・・。