10話:役所での出来事
江戸に戻ります。
場は、江戸の役所。
長テーブルに集まった、人、人、人、人、ひと?
それぞれ、肩から提げられた番号のついた札をつけていた。
そして、それぞれの番号順に並んでおり、ただひたすら立ち続けていた。
否、ただ立っているわけではなかった。待っているのだ、始まるのを。
一人の男が役所の戸を開けた。
その男を、皆が見、そして頭を下げた。
「清水殿。今日も何事にもお変わりないようで。」
「うむ。そちも、先刻で陰の一群を抹殺したと報告を受けたぞよ。」
役所に入ってきた男は、清水といいこの江戸に役所を構えた者だった。
清水は貴族の中でも、優秀な者であの『大蛇の滅亡』にも参戦し成績を残したと者として有名でもあった。
清水は、周りを見渡した。そして、ふとあるところで目を止めた。
「奴は、どうした?まだ来ておらんのか?」
清水のその言葉に、他の者は目を伏せた。答えたくないのだ。
「?どうした?呉羽よ、おぬし奴と仲が良かったろう?何か知っておるか?」
呉羽と呼ばれた、四番の札をつけている者が、苦苦しく答えた。
「あやつは、ただの遅刻ですのでお気になさらないでください。」
「なんと、また遅刻とな?」
「申し訳ありません。」
呉羽に伴い、他の者までもが頭を深々と下げた。
しかし、それとは別に清水はどこか面白そうな表情をしていた。
「よいよい。そなた等が、そんなにも奴のことを気にかけておるようだしな。」
「は?いえ、違います。」
「違うとな?」
「はい。全く違います。ただ、もう清水殿に申し訳なく・・。」
「我に、申し訳がないとな?」
「はい。奴を、隊に入れてほしいと願望したのは我々ですので。」
「おお。そうだったな。気にしてないぞ。そんなことは・・・。」
「?では、どのようなことを・・・。」
清水に尋ねようと呉羽が、言葉を紡ぐ前に戸が開いた。
そこには、なんとも爽やかな顔をした、草十郎がいた。
「おお、来よったか。」
「申し訳ありません。陰どもを蹴散らしておりましたら、時があっという間に過ぎておりまして。」
「そうであったか。して、今日は・・。」
「はい。なんと、あの名産物で有名な『勺』で作られた、饅頭を持ってきました!!!」
さぁ、お褒めください。と言わんばかりの態度に、呉羽ら護師は、手元にあった勾玉を投げた。
清水のほうは、なんとも嬉しそうに、草十郎からの手土産を受け取っていた。
「いけませぬ。清水殿!!それを受け取りれば、遅刻したのを見逃すということになりますぞ!!」
参番の札を付けたまだ、若い男が言う。それに続けとばかりに、そうだそうだと他の者までもが言う。
「な、お前らぁーーー!!命の次に大事な勾玉を投げていう台詞か!?」
「お前に、勾玉を投げたのは、陰のような悪を取ってやろうとした我らの優しさが分からんか!!」
「分かる分けなかろう!!だいたい、勾玉は身に着けることで陰が簡単に近づいてこないようにするためのものだろうが!!それを投げるとは・・。」
「っふ。やはり、わからんようだな。お前に投げることで、清水殿が穢れるのを防いだということを!!」
「そっちが、本音だったのか!!くっそ~。あの優しかった呉羽までもが・・・穢れてしまって。」
「いや、待て。いったいいつ、私が穢れたというのだ!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出した、護師を他所に清水はただ美味しそうに土産の饅頭を食べていた。
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そして、一刻が過ぎたころ、護師のほとんどが息切れを起こしていた。
清水はそれを見て、なんとも平和なのだろうかと微笑んだ。
「して、草十郎。そなたどこの陰を滅した?赤か?蒼か?」
「いえ、土でございます。」
「何!!土だと?あそこにも陰が生息し始めたのか。」
赤・蒼・黄の三箇所がいままで、陰が生息していたところであった。
それに加え、生息するであろうといわれていた『土』までもが加わったため、護師達は呻いた。
「そうか。土までもが、喰われたか。」
「はい。土の性質が、土壌が良く、田畑を育てるのに役立っておりました。」
「確か赤は、鉄がよく取れ、赤岩と呼ばれる高品質の鉄が取れておりました。」
「そして蒼は、清き水が流れ、人々の生活のための水が蓄えられていた場所です。」
「最後に黄は、滅多に取れない特殊な蚕が生息しております地です。」
「では、次に喰われる場所は・・・どこと見る?」
「はい。緑に暗などが、危険かと。」
「そうか。」
陰が、繁殖や生息し始める地はみながみな、人々が暮らしていた地であった。
陰が、その地の性質を喰らうために人々は暮らせなくなり、移住をするはめとなる。
しかし、その移住の地もだんだんと少なくなってきていた。
「ここも、いつか喰われるのであろうな。」
「そんなことはさせません!!『大蛇の滅亡』のようにそう大元である陰を消せばよろしいのです。」
「しかし、その陰らしき陰は聞いたことがない。」
「すこしでも、情報があれば調べられるのだがな。」
「何か、情報はないものか・・。」
護師たちは、意見を言い合いだした。少しでも、自分達が人々を守れる対策をするために。
そんな、言い合いをしている最中、草十郎は一人だけ討論には参加していなかった。
「どうしたのだ?」
清水がそれに気づき尋ねる。
草十郎は、答えずらそうに頬をかいた。
「実は、私の護子にお使いを頼んでおりまして。」
「ああ、あの紅の子。」
「して、そのお使いとは?」
「はい、『とりばぁー』様に・・・。」
「なんと、あのお方の元に行かせたと!!」
「はい。」
「ならば、その帰りを待つしかないであろうな。」
「では、我らはその帰りを待つと同時に、準備をいたしましょう。」
「『祭り』の準備をな。」
そうして、護師たちは解散した。清水殿が馬で帰るのを見送ると同時に。
しかし、呉羽と草十郎は残っていた。
「まさか、あの子をあの方の元へ行かせるとは・・・。」
「仕方がなかったのだ。」
「ま、どうせ、自らが行っていたら散々怒られていただろうがな。」
「・・・そんなことはないぞ。」
「いや、ありうる。なんせ、天下のどあほうだからな。」
「それは、褒めていないだろう!!」
「馬鹿が!!お前を褒める奴がどこにいる?」
「俺の護子は、褒めていたぞ!!」
「あほう!!それは、ずいぶん昔のことだろう!!」
「なにおう!!4年前までのことだ!!」
「だから、昔のことだろう!!」
「いや、昔とは100年前のことをいうのだ。」
「何、自信満々にいってやがる!!100年もお前は生きてなかろが!!しかも、ほとんどのものは生きられぬ!!」
「ふははははははははははは!!俺にかかれば、100年も200年も1年と何も変わらないのさ!!」
「・・・誰がお前にそんなに生きていてほしいと望むのだろうな。」
「何を悲しいことを。それは、俺の目の前にいるじゃないか。」
「ほぉ~。ってこのやろう!!私は、お前には真っ先に死んでほしいわ!!」
「またまたぁ~。」
「つっつくな!ええい!!私は帰る!!お前に付き合ってられんわ!」
「!!俺ら付き合っていたのか!!」
「アホーーーー!!!!意味が違う。」
「そうか、そうだったのか。」
「・・・もうよいわ。」
呉羽はげっそりとした顔で役所を後にした。
草十郎は、そんな呉羽を見て「我が友も、まだまだよのぉ~。」と笑った。
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場は江戸。
一人の護師の格好をした男が、スキップをしながら通りを歩いていると噂が経った。
そのせいだろうか、『祭り』は、とても上手くいったそうだ。
『 暗闇があり 光が生まれ 星ができ 生き物が生まれた
そこに 文化が生まれ 争いが起こり それは大きくなった
仏が 神が 地獄の大魔王が 嘆き悲しんだ
その涙が 影を作り それを消さんと人は武器をとった
影は 陰 と呼ばれ それと対なる 陽 が現れ
人々は 陽 との共存を選んだ
それが果たして正しい選択だったのかは誰にもわかるまい 』
(『とりばぁー』聖・巻き 第1章1番)
草十郎は、大物なのです。