序:異世界と幼き日と
誤字&感想お待ちしております。
秋の風情のひとつでもある、紅葉が木枯しによって地へと舞い落ちる季節。
この季節になると、さすがに家の外に出るものは少なかった。
出ている者といえば、若く幼い子供らや、何かの用事により片手に平包みを持った女がわらじをずりながら、いそいそと目的地へと歩いている者だけだ。
しかし、人気がないのはそれ以外でもあるようだ。
「明日は、何か祭りでもありましたか?宇津木殿。」
宇津木と呼ばれた、五十を超えた男は、隣にいるまだ若く幼い顔立ちをした少年を見た。
「忘れたか?清水殿が警護を強めよとおしゃっただろう。その理由を忘れたのか?」
「はい。ですが理由は、宇津木殿などの上忍護師しか知りませぬ。」
「はて、そうだったか?」
「そうです。ぼ・・我々のような護子には、詳しいことは伝えられておりませぬ。」
「ふむ。では、それと分かっていてなお理由を聞くのか?」
「いえ。私が知りたいのは、明日祭りのようなものがあり、そのために城下町の者らは準備をしているのかと思っただけです。」
そう言いながら、少年は周りを見渡した。
「・・・・。まぁ、そのようなものだろう。そんなことより、いいのか?聞いた話では、瀬原が来ると皆が騒いでいたが。」
宇津木が、曖昧に答えながら話を変えた。
対する少年はそれに気づかず、しまった!!という顔しながら、失礼しますとその場を去っていった。
「誤魔化せたか?しかし、勘が良いのもなんとやらだな。」
宇津木はそう言って肩にかけてある称号を表す札を正した。
また、宇津木は走り去って行った少年の方向をもう一度見た。
(確か奴の名は、奏石 小葉だったか。)
一座生まれの童のあまりの腕の良さに『武士にならずに何者になる!!』と、剣の舞を見ていた将軍から言われたほどだ。しかし、そのコノハはさらりと『笛吹きです。』と答えたそうだ。
一座の者は、戦を嫌う。そのため、戦にはでることはまずない。けれど、剣の舞を見ただけで将軍ともあろう者が、ただの笛吹きを武士にしたがるだろうか。
(いったい、いつ、どのような形で、奴の腕の良さを認識したのだろうか?)
宇津木は、コノハの実力をまだ知らなかった。けれども、頭は良く勘も良いことだけはこの数日の間でわかっていた。コノハにとって宇津木は、上師に値するものだった。また、宇津木にとってコノハは同士である上忍護師の草十朗の弟子に値する。それは、護子を育てる上忍護師の役割であるがためにそのような関係になっているのだ。
宇津木はコノハとはまったく逆方向の道を歩き出した。
その方向に上忍護師の役所があり、さらにやり残した大量の仕事が残っている場所に意気消沈しながら歩いて行った。
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一人の幼い少女は不思議な体験をした。
お祭りの間に起こった不思議な出来事。
いつもは静かで誰も来ない神社の道は出店が立ち並んでおり、人通りも多く騒がしかった。
少女は、両親と一緒にお祭りに来ていた。
ピンクの金魚の柄の浴衣を来た少女は嬉しそうに両親より前を歩いていた。
ふと、笛の音を聞いた気がした。
周りを見回しても、笛を吹いている人なんていない。
少女は、両親に問うた。
『パパぁ、ふえの音がしたよぉ?』
『笛のかい?』
『うん!!きれいな音がしたの、でも少しさみしそうだったよ?』
『そうか・・・。じゃぁきっと誰かに聞いてほしいんだね。』
『そうなの・・・。じゃぁ、わたしが聴きに行ってあげる!!パパ、ママちょっとまっててね!』
『あ!●●●ちゃん!!』
両親が自分を呼んでいるが、振り返りはしなかった。
だって、笛の音のほうが気になっていたから・・・。
パタパタと下駄で一生懸命に走った。
笛の音に近づいたと思ったら、周りに誰もいなくなっていた。
両親がいないのは当たり前だ。なんせ、置いてきたのだから。
でも、他の人がいなくなるのはいささか怖くなるもので・・・。
それに・・・笛の音も聞こえなくなってしまったのだ。
『ふえぇ~、どこ~?』
大きな声で問いたいが、怖さのほうが勝っていて小声になってしまっていた。
でも、少女は泣かない。強がっているわけではない。ただ、涙が出ないだけ・・。
ッパキ。
少女は、自ら枝を踏んだ音に飛び上がった。
すごく怖いが、涙は出ない。感情が壊れいているせいではない。ただ、涙がでないだけ・・・。
『だれかいるの?』
突然、自分より幼い声が前から聞こえてきた。
声のしたほうに少女は目を大きく見開いた。もとから大きな目は零れ落ちんばかりに開いている。
『ねぇ?だれかいるの??だんちょぉ?』
『ち、ちがうよ!!●●●だもん!』
『だぁれ?一座の人じゃないの?』
『いちざ???ち、ちがうもん!●●●は×××××小学校に通ってる人だもん。』
『しょうがっこう???』
『そうよ!!』
少女は相手が自分と同じぐらいの子供だと知ってその子のほうに駆け寄った。
しかし、相手を見てすごく驚いてしまった。
相手の少年は浴衣のような、着物のようなへんな服装をしていたのだ。
しかも、髪の毛を昔の人のように一本に結い上げていたのだ。
けれど、顔立ちはきれいで子供ながらにこの子かわいいなぁっと思っていたりした。
『あなたはだぁれ?』
『・・・ぼくは、■■■だよ。』
『へんなかっこしてるのね?』
『・・・・変じゃないもん。衣装だもん。』
『いしょう??なにかの芸をしたりする人?』
『そうだよ。ぼくは笛を吹くんだ!!』
『ふえ・・・あなたが笛を吹いていたの??』
『え・・。聴いてたの?!』
『うん!!きれいで、かなしい音。』
『悲しい?』
『うん!!パパがね、その音はだれかに聴いてもらいたがっている音だよっていってたよ?』
『だれかに・・・聴いてもらいたがっている音。』
『そうなの!!だから、わたしが聴いてあげようかと思ってきてあげたの!』
『ぼくのえんそう聴いてくれるの?』
『うん!さっきからそういっているでしょう??』
『う、うん。ありがとう!』
そう、言って少年は嬉しそうに笑った。
そして、少年は演奏を始めた。
少女は自分より幼い少年の笛の音を聴いているつもりだった。
でも、気づいたら神社に戻っていたのだ。
両親はいつの間にか戻ってきた自分達の娘を見て驚いたが安心もした。
父親は問うた。『聴きに行けたかい?』と。
少女は始め何故ここにいるのかと不思議そうな顔をしていたが、父親のこの質問には笑顔で頷いた。
少女はあれは、夢なんかじゃないと思った。
でも、年を重ねていく上で夢だったのではないかと疑問に思い始めた。
そして、少女は思った。
『もう一度、あの子に会えば夢じゃないってわかるんだ。』と。
付け加えてみました。主人公の過去の出来事です。
夢なのか、夢じゃないのかそれはいづれ気づくことになるでしょう。