妹は姉が正しかったと確信する
――― お姉さまが処刑された ———
私がその一報を聞いたのは辺境から夜会へと参加し、取り押さえられた後だった。
「ルーナ・ローデンハイト辺境伯令嬢、君は姉であるルミナス・ローデンハイト辺境伯と共に国家転覆をたくらんだ。何か異論はあるか?」
金髪金瞳、白いタキシードを身にまとい、この国の王太子はこともなげにそう言った。
異論ならある。あるに決まっている。
(私の愛しいお姉さまをただ一方的に処刑し、それを不意打ちした後に知らせるなんて!!)
お姉さまが処刑されたのも恐らく不意打ちだったのだろう。
騎士に押さえつけれている手にミシミシと力がこもる。
「ええ、異論はありまくるに決まってます。お姉さまを処刑した? その意味が分かっていますの?」
そう姉は辺境伯であると同時にこの国にとっても重要な役目を負っている。ただの王太子の独断で処刑などできるわけがない。
「もちろん、わかっている。サーシャ前へ」
前に出てきたのは桃色の髪をした女性。白を基調としたドレスは王太子とお揃いだ。
開いた胸元には太陽の加護を表す紋章が刻まれている。
「……聖印?」
「皆に紹介しよう! 太陽の巫女サーシャ・ダルクル侯爵令嬢だ! 今日、この時より我々は邪神の楔から解放され太陽神を信仰する!! 昼のない国と言われた我が国に太陽を取り戻すのだ!!」
私の辺境伯領には神がいる。王都の連中は邪神などと言っているが、魔と夜を司る闇神だ。
この王国はその昔、闇神様を封印し、その力を持って建国されたと言い伝えられている。そのため代々闇神様の封印を守る守り人がおり、その家系が私たちローデンハイト家なのだ。
黒髪赤目は闇の神の加護を受けており、人々からは常闇の巫女と呼ばれている。
お姉さまは今代の常闇の巫女なのだ。
「馬鹿げていますわ。これまで闇神様の加護を受けておきながら、ちょっと太陽神が加護を与えたくらいで裏切るなど……」
「闇の神などただ私たちを縛っている鎖に過ぎない。私たちは太陽を求めて邪神を打ち倒すのだ。そして君たちは邪神の巫女の家系。つまり私たちの敵で国家反逆罪と言うわけだ。そいつを牢に連れていけ!」
(たったそれだけの理由でお姉さまを処刑した……ですって……?)
「ふっ……っざけんじゃ……ないわよ!!!」
騎士が掴んでいる腕がグギギギギ……と古びたドアのように動いている。私はそのまま腕を振るって騎士を吹き飛ばした。
私には本来そんな力はなかったはずが、すぐに確信した闇の加護だ。魔の物に対抗するため自身に魔を宿す闇神様の加護は力と魔力を増幅させる。
「……っぐ、邪神の手先め!! 全員 抜刀と魔法の使用を許可する!! 邪神の巫女を討て!!」
私は足元から円状に闇を伸ばした。闇からはうねうねとした布のようなモノが生えて、警備の騎士たちを牽制しており、彼らは私まで踏み込むことは出来ない。
「そんなに闇神様の加護がお嫌いなのでしたら、奪って差し上げますわ!」
闇の布を天井に向けて放射状に伸ばす。人一人は巻き取れるような太さの布が何百本も夜会の天井を破壊し空に伸びていく。まるで空をかき混ぜるかのように激しく暴れまわったあと、何事もなかったかのように足元の闇へと戻っていった。
会場は事実そうだが怪物が暴れまわったあとのようにテーブルがなぎ倒されて、壁や天井が破壊されて、すっかり外と変わらない状況になっていた。
「お、おい。あれってもしかして空か……?」
外は未だに薄暗かったが、絵本でしか見たことのない煌めく星。そして目に痛いほどの鮮烈な赤色が星々とは反対の方から徐々に迫ってきている。
「おお! おおおお!! あれが太陽の光! まさに太陽神の導き! 邪神の巫女よ。こんな事ができるならさっさと……」
王太子は真っ先に両手を広げ太陽の光を浴び、そして…………灰になった。
(お姉さまは言っていた。太陽は私たちを不幸にするのだと)
王太子が灰になったあと、辺りはパニックだった。多くの者が逃げ出すが、壁も天井も破壊されて隠れる場所は無く、太陽の光に追いつかれた者から灰になっていく。
闇の盾を出しても防げる範囲が狭いため、手や足などは光に晒され灰となり、そのことでバランスを崩して最終的には全てが灰になっている。
(太陽のせいで私はお姉さまを失った。だからあなた達も太陽にすべてを奪われるが良いわ)
これは国を巻き込んだ自殺。こうなることはわかっていなかったけど、太陽が私たちを不幸にするなら王国全ても不幸になる。一度昇り始めた太陽の光が全てを薙ぎ払いながら私の元へとたどり着いた。
私はお姉さまが言ったことは正しかったのだと確信して目を閉じた。