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【閑話/侍女たちの井戸端会議】

「うちは、ホワイトな職場を目指します!」by.ラリーサ

 昼を過ぎ、僅かに太陽が傾き始めたうららかな午後。ちょうど休憩に入る者が多い時間帯であるため、後宮にある侍女用休憩室に置かれているテーブルと椅子は、半分ほどが埋まっている。その中で、ラリーサ付きの侍女たちも数名が集まり、のんびりとお茶と茶菓子を楽しんでいた。

「休憩に毎回お茶と御菓子がつくなんて、ラリーサ様は本当にお優しいわよね」

「本当。ラリーサ様付きの侍女になれて、よかったと心底思う」

 温かな紅茶に口をつけ、トリーフォンの侍女たちがほぅっと柔らかな息を漏らす。

「イリダールの侍女は、皆こんな待遇なの?」

 侍女の一人が、向かいに座るキーラへ尋ねる。

「そうねぇ。お菓子については、王族の皆様の私費で賄われていたから〝専属〟にならない限りつかないけれど、休憩の際のお茶は確か公費として予算がつけられていたはずよ。侍女だけじゃなくて、下女たちも休憩中にはお茶を飲んでいるわね」

 キーラの答えに、侍女たちが〝え?!下女にもお茶がつくの?!水じゃないの?!〟と目を丸くする。

「安いお茶だけれどね」

「それでも、出ると出ないとじゃ、仕事に対する気持ちも違うと思う」

「安いといっても、平民がおいそれと手を出せるようなものじゃなかったんじゃない?」

 侍女の指摘に、キーラが〝まぁね~〟と笑う。

「いいわね~。イリダール」

「でも、王宮勤めの侍女そのものの人数が少ないから、忙しかったわよ。仕事量としては、今が最適っ」

 〝こんな風に、しっかり一時間休憩取れないこともあったし〟と、キーラが肩を竦める。

「そういえば、ラリーサ様は辞任した侍女の補充は考えていらっしゃらないのかしら?」

「皇后にしては、侍女の人数少ないわよね」

 本日の茶菓子であるクッキーを口の中へ放り込み、侍女が何気なく口にする。

「今の侍女の人数に不満がある?何か困っていることがあれば、私から母さんに……筆頭侍女殿に伝えておくけど」

 〝このクッキー美味しい~〟と舌つづみを打ちながら告げたキーラに、他の侍女たちは互いに顔を見合わせ首を傾げた後、〝そう言われれば、特にないかも〟とケラケラと笑った。

「なら、ちょうどいい人数なんだね」

 〝不満なしと、筆頭侍女殿に伝えておきます〟とキーラも笑う。

「ラリーサ様は、変な無茶ぶりしてこないからお仕えしやすいわよね」

「わかる~。ここ最近でおっしゃられた〝お願いごと〟何があった?」

 ある侍女が上げた話題に、一人が〝はい!〟と手を挙げる。

「〝図書室に行って、この本の続きがあるか聞いて来てくれる?あったら、借りてきてほしいのだけれど〟です」

 ラリーサの声真似をしながら告げた侍女に、キーラが〝すごい!似てるっ〟とケラケラ笑う。

「私は、イサーク殿下のところへお手紙を届けに行ったくらいかなぁ」

「ラリーサ様、ご自身で動いた方が早い時は、厭うことなくご自身で動かれるじゃない?」

「人を動かすことでご自身の地位を誇示するような性質じゃないからね~」

 〝私の自慢の主様よ〟と得意げに片目を瞑ったキーラに、侍女たちが〝わかる~っ〟と同調の声を上げる。そんなラリーサ付き侍女たちへ、他の侍女たちが様々な視線を向ける。ある者は羨望を、ある者は嫉妬を、ある者は後悔を――もちろん、後悔の色を浮かべている侍女たちは自らラリーサの元を去った者たちだ。自ら辞任を申し出た手前、戻りたいとは言えないだろう。もちろん、戻りたいと申し出たとしても、筆頭侍女であるマルファとその補佐であるカルロッタが首を縦に振るようなことはないだろうけれど。

「ラリーサ様は、無理なく働けているのならば必要以上に人を増やすことはないというお考え方をお持ちだから。今のところ、減ることはあっても増えることはないでしょうね」

「減るなんてことある?お給金もいいし、ラリーサ様は優しいし」

「マルファ様やカルロッタ様が目を光らせているから、真っ当な叱責はあっても、意地の悪い苛めはない」

「苛めが判明した時点で切り捨てると、マルファ様が明言したし」

「実際に何人かは切られたものね」

 〝本当に、働きやすい~〟と声を揃え、ラリーサ付きの侍女たちが残りのお茶をぐいっと一気に煽って立ち上がる。

「さて。残りの時間もお仕事頑張りましょっ」

「お~っ!」

 空になったティーカップとクッキーが数枚残る皿を、傍らで侍女たちと同じお茶を飲みながら静かに話を聞いていたラリーサ付きの下女たちへ渡して、侍女たちは〝残りのクッキーは仲良く分けて食べて〟と言って休憩室を出ていく。上司である侍女たちへ椅子に腰かけたまま軽く頭を下げて見送った下女たちが、皿に残ったクッキーへ嬉しそうに手を伸ばす。

「ちゃんと、私たちの人数分残してくださってる」

「皇后陛下付きの侍女の皆様もお優しいわよね」

「気遣われると、頑張らなきゃって思うよね」

「うんうん」

 〝うぅ~おいしい~〟と、丁寧に割ったクッキーの半分を口にした下女が、頬に手を添える。

「半分は、うちに持って帰って妹にあげることにする」

「お姉ちゃん、やさし~」

「私は、弟妹が多いから、一枚のクッキーを分けるのは厳しい……なので、独り占めしますっ」

 パクリとクッキーを口にした下女に、〝お姉ちゃん、ずるい~〟と他の侍女たちがケラケラ笑う。ラリーサ付きの侍女や下女は、皆が日々明るい顔で仕事に励んでいる。もちろん、失敗し叱られることはあるけれど、それをフォローしてくれる上司や仲間がいるというのは心強いものだ。

「今日もあともう少し、お仕事がんばろうねっ」

 先ほどの侍女たちと同じようなことを言い合って、下女たちは空いたカップと皿を手に立ち上がる。そして、洗い場へ移動し、手早くそれらの汚れを洗い流して定位置へと戻すと、自らに与えられた仕事へと戻っていった。

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