閑話/安眠物質?
短いです。
「え?お眠りになられたのですか?!」
僅かに声をひっくり返したミハイルに、くわっと些かだらしなく欠伸をしたアリスタルフが〝寝た〟と首を縦に振る。
「しかも、朝まで一回も目覚めなかったし、なんなら、二度寝もした」
〝寝すぎるのも怠くなるものなのだな〟と自室の執務机の前に座り、椅子のひじ掛けに肩肘をついて書類に目を通すアリスタルフの前にハーブティーを置き、ミハイルはまだ信じられないという風に瞳を瞬かせる。
「本当ですか?頭痛薬は必要ないということですか?」
〝というか、本日は休日ですよ〟と、ミハイルがアリスタルフの手から書類を取り上げる。
「頭痛薬は不要だ。頭は痛くない。むしろ、過去ないくらいにすっきりしている」
〝書類に目を通すくらい、いいではないか〟と片眉を持ち上げて、アリスタルフはミハイルが入れてくれたハーブティーに手を伸ばす。妃の元に通った翌日にミハイルが入れてくれる、頭痛に効くというハーブティーだ。
「あの……私が寝室の扉を開けただけで目を覚ます陛下が……」
「そういえば、二度寝の際、マルファが部屋に入ってきたらしいが、気づかなかったな」
コクリとハーブティーを一口飲み、〝ガウンを持ってくるように頼んでいたのだ。すまないことをした〟と続けたアリスタルフに、ミハイルがショックを受けたように顔を引きつらせる。
「……陛下が、マルファの気配に気づかなかった?……私の気配には一瞬で気づくのに……?」
〝正直、ショックを受けております……。私の方が、長く陛下にお仕えしているのに……〟と肩を落とすミハイルに、アリスタルフは苦笑する。
「ラリーサ様がご一緒であるのなら、私が近づいても起きないのでしょうか」
〝興味があります〟という視線を向けてくるミハイルに、アリスタルフは僅かに片眉を持ち上げて〝リーサの寝室への入室は許可しないぞ〟と告げる。
「まぁ、そうですよね。わかっております。しかし、不思議ですね」
〝ラリーサ様からは、安眠物質でも出ているのでしょうか〟と続けたミハイルに、アリスタルフはすぃっと視線を逸らせて〝どうだろうな〟と返す。まさか、幼子のように寝かしつけられたとは言えない。いや、しかし、二度寝をした時には別に背をトントンされていたわけではないし……。本当に、安眠物質が出ているのだろうか?ハーブティーを飲みながら、取り留めのないことを考えていれば、ラリーサの元へ使いに出していた侍従が戻ってきた。
「陛下からのお茶会へのお誘い、喜んでお受けするとのことです」
淡々とした口調でラリーサからの返事を伝える侍従に〝ご苦労だった。さっそく、後宮の中庭に茶会の用意をしてくれ〟と命じて、アリスタルフはティーカップを置いて立ち上がった。
「俺は、リーサの部屋にいる。茶会の準備が整ったら、呼びに来い」
〝ミハイル、リーサの元に先触れを出せ〟と命じ、アリスタルフは部屋の扉へと足を向ける。
「すぐに、お部屋に向かわれますか?」
先触れの指示を出したミハイルが、アリスタルフの後に続く。
「いや、図書室に寄っていく」
〝手土産は、必要だろうからな〟と笑うアリスタルフの表情は柔らかく明るい。他の妃の元へ行く際には、絶対に浮かべない穏やかな表情だ。よほど、ラリーサの側は居心地がいいのだろう。確かに、強引に距離を縮めてこようとする妃や、逆に距離を測りかねている妃とは違い、ラリーサは人との距離を取るのが上手い。相手が〝程よい〟と感じる距離を保ちながら接するスキルは、政務を代行する中で培ったものなのか、生来のものなのか。どちらにしろ、アリスタルフにとっては、人柄もその技量も申し分のない〝正妃〟なのは間違いない。
「成り行きとはいえ、よい〝后〟をお迎えになられましたね」
ミハイルの言葉に、アリスタルフは僅かに間を開けた後、〝俺には、勿体ない后かもしれないな〟と微苦笑を浮かべた。
明日は、一日お出掛けの予定なので、もしかしたら更新出来ないかもしれません……。




