プロローグ
本編の世界設定のベース的なお話です。
ちなみに、設定は二次創作していた際に作ったものを一次創作に転用した感じです。
キラキラと頭上から降り注ぐ光が、時折そよぐ風によって柔らかくかき混ぜられる。一見、水晶で出来ているようにも見える白銀の宮殿。その中庭の木陰で気持ち良さそうに寝転がるのは、白銀と漆黒の毛並みを持った二匹の番の狼だ。互いの顔を寄せるようにし身を横たえ、時折〝ふぅ〟と和やかく息を吐き、身を休める二匹の姿は誰の目にも仲睦まじく映るだろう。
ふと僅かに頭をもたげた白銀毛の狼が、すぴすぴと可愛らしく鼻を鳴らした黒毛の狼の顔をベロリと舐める。それを擽ったそうに受け入れた黒毛の狼が、薄っすらと瞼を持ち上げ、顔を寄せてきた白銀毛の狼の口元を舐め返そうとした――その時だった。
ガッシャーン!!!
宮殿の奥から聞こえてきた大きな音に、二匹はビクリと身を震わせて勢いよく上体を起こす。そして、顔を見合わせると〝やれやれ〟といった風に息をつき、のそりと立ち上がる。
最初に立ち上がったのは、黒毛の狼の方。四肢で柔らかな草を踏みしめ、そろりと歩き出した黒毛の狼の姿が、まるで水が流れるように一人の女性へと変わる。
すらりと長い手足。柔らかな胸の膨らみに、括れた腰。そして形の良い小ぶりな尻。ゆったりとしたエンパイアラインの白いドレスがミルク色の肌によく馴染む。高い位置で一つに結った黒髪を僅かに揺らし、紅茶色の瞳を僅かに眇めて女が小首を傾げる。
「また、何をしたのかしら」
「さぁ?」
女の言葉に、続いて立ち上がった白銀毛の狼――いや、その身はいつの間にか一人の美丈夫へと姿を変えている――が、微苦笑を浮かべて肩にかかった長い銀髪を後ろへ流す。そして、白いシンプルな執事服に着いた芝を軽く払うと、蒼い瞳をゆるりと和らげてするりと女の細腰を抱く。
「朝から、趣味部屋で何かやってたみたいだけどね」
男の言葉に、眉間に小さな皺を作り〝嫌な予感しかしない……〟と女が呟く。
「まぁまぁ。俺も手伝うから」
愛しい妻の眉間に出来た皺を伸ばすように軽くキスをして、男は〝やっぱりもう少し人手は必要だよね〟と溜息をつく。
「主様が大人しくしていてくれれば、私とあなたで十分なんだけど」
「そのうち皆帰ってくるよ」
「だといいね」
はぁ……と一つ溜息をついて、二人は僅かに歩く速度を上げ、宮殿の奥にある主の〝趣味部屋〟へと向かった。
◆◆◆
「……主様」
「うわぁ……これはまた」
主の趣味部屋へと足を踏み入れた二人が、ぱちくりと瞳を瞬かせた後、ガクリと肩を落とす。広くは無いが狭くもない――白い壁に囲まれた主の〝趣味部屋〟の中央に目をやれば、そこには〝やり切った!やってやった!〟と満足気に仁王立ちする少年の背中がある。そして、その足元へと視線を落とした二人は、床一面に散らばった〝箱庭〟の残骸たちにほぼ同時に頭を抱えた。
「主様……創造主様っ」
そう張り上げた女の声に、視線の先の少年がクルリと振り返る。透明に近い白い髪がさらりと揺れ、薄い金色をした双眸が二人を映す。
「あ、ユーリア、ヴァシリー!見てください!」
得意げに胸を張り、〝さぁ!〟と右手を部屋の中央へと伸ばした少年――二人の主であり〝創造主〟と呼ばれる存在は、キラキラと瞳を煌めかせる。その無垢な双眸に、言いたいことは山ほどありはするが、一度口を噤んで、二人は主が示す方へと視線を向ける。
そこには、大きな球体がゆっくりと上下に回転しながら浮いていた。
「ユーリアが、箱庭の数が多すぎて掃除が大変だと言うので、全部引っ付けて〝球体〟にして〝浮かせて〟みました!」
〝どうだ〟と鼻高々に顎を持ち上げた主に、女――ユーリアと呼ばれた黒狼の聖霊獣が、〝それは、ありがとうございます〟と微苦笑を浮かべる。
「確かに……今後の掃除はしやすくなりました」
「そうでしょう?」
「……空いた箱庭は、どうします?」
〝また、散らかしたなぁ〟と頭をかいた男――ヴァシリーと呼ばれた白銀狼の聖霊獣が、小さく息をつく。ヴァシリーの指摘に、主はぐるりと部屋の中に視線を巡らせた後、〝おや?散らかってますね〟と可愛らしく小首を傾げて見せる。
「……散らかしたのは、主様です」
一つ深い溜息をついて、ユーリアが足元に転がった箱庭を一つ拾い上げた。
「これ、捨ててしまっていいですか?」
尋ねたユーリアに、主は〝ん~〟と小さく声を漏らした後、〝倉庫に保管しておいてください。また、何かで使うかも〟と言う。
「……倉庫にこの数の箱庭の空き箱を保管しておくスペースはありませんよ」
上体をおり、散らばった箱庭を拾いながらヴァシリーが指摘する。
「あれ?もう一杯になってしまいましたか?」
ぱちくりと瞳を瞬かせた主に、二人が無言でコクリと首を縦に振る。
「では、新たに倉庫を一つ増やしましょう」
「……あの、主様。倉庫の保管物の管理もなかなかに大変なのですよ」
〝すでに、倉庫がいくつあると思っているんですかっ。その捨てられないクセをどうにかしてくださいっ〟と、ユーリアが悲鳴のような声を上げたのに、主は〝だって、勿体ないじゃないですか〟と頬を膨らめる。
「いつか必要になるかもしれないし」
「そう言って、千年単位で使っていないものが倉庫100棟分あります!」
「二千年後に使うかも」
にっこりと笑みを深めて告げた主に、ユーリアは諦めを存分に含んだ溜息を一つつき、箱庭を拾っては入口近くに積み上げているヴァシリーに倣い、主の趣味部屋の片づけを開始する。
「あ、僕も手伝いますよ」
そう言って、自身が散らかした箱庭を拾い始めた主に、ヴァシリーが〝今度は成功しそうですか?〟と尋ねる。それに〝さぁ、どうでしょうか〟と部屋の中央に浮かぶ球体となった〝箱庭〟を見上げ、主が小さく笑う。
「やはり、難しいですね。争いの一切ない平和な世界を作るというのは」
〝でも、そんな世界が出来たら素敵でしょう?〟と笑う主に、ユーリアとヴァシリーはにこりと笑みを深めて〝そうですね〟と頷く。
「それに、宮殿の中がもっと賑やかになればいいと思っているので、〝聖霊獣〟の核となるような清らかな魂がもっと欲しいです」
〝聖霊獣の型もいくつか作っておかないとですね〟と続けた主が、無駄のない動きで部屋を綺麗にしていく二人を見やる。
「今度は、二人の〝仔〟を作りましょうか?」
主の尋ねに、ポンッと顔を赤くしたユーリアが〝え?!〟と声をひっくり返し、蒼い瞳をキラキラと煌めかせたヴァシリーが〝ぜひっ!〟と声を弾ませる。
「双子がいいです!ユーリアと同じ黒毛と、俺と同じ銀毛の双子!」
ヴァシリーの希望に、主が〝いいですね。絶対に可愛いです〟と大きく頷く。
「今度、二人の毛を一房ずつください。型を作る時に、練り込みますから」
〝楽しみです。可愛い仔を作りますよ〟と笑う主に、ユーリアが気恥ずかしそうにはにかみながら、〝ありがとうございます〟と告げる。嬉しそうに互いに微笑み合う二人に、主も満足気にうんうんと頷く。そして、つい先ほど出来たばかりの〝箱庭〟を見上げると、〝箱庭の中へと落とした子たちが、良き魂と出会えることを期待します〟と無邪気な笑みを浮かべた。
とりあえず、時間かかってもいいから、最後まで書ききるのが目標です!
(目標が低い!!)




