青空を背に、手を繋いで並ぶどうぶつたち
誠は『動物』ということばが嫌いだからいつもひらがなで書く。『動く、物』という表意文字が、なんだか彼らを馬鹿にしているように思えるからだ。
「小学校五年生にもなって『動物』って漢字も書けないの?」
お母さんにそう言われた、知能を疑うように、心配そうに小首を傾げられて。
明日動物園に行くのを楽しみにしすぎて、カレンダーに『どうぶつ園』と書いたのを見られたのだ。
「書けるよ。書けるけど、なんかひらがなで書いたほうが、かわいい感じしない?」
ムキになってそう言う誠に、お母さんは安心したように笑った。
「そうね。かわいいよね、ひらがなのほうが」
日曜日の動物園はひとだらけ。
アトラクションみたいに配置された動物のあいだを、川のようにひとが流れていく。
「あっ! レッサーパンダ!」
「わあっ! 白いトラだぁ!」
「綺麗な鳥……。トキっていうんだ?」
お父さんがうんちくを語る。
「学名は『ニッポニア・ニッポン』っていうんだぞ。ニッポンの名をもつ鳥なんだ」
「でも日本にはもう生息してないのよね」
お母さんのことばに誠はかなしくなった。
ニッポニア・ニッポンがニッポンに生息してないなんて。
どうぶつふれあいコーナーのコンパニオン・アニマルたちはみんなフレンドリーだ。
誠はうさぎにニンジンをあげる。うさぎは鼻をフンフンさせたけどお腹いっぱいなのか、あっちへ行ってしまった。
小屋の中にはねこがたくさんいて、ニャーニャー鳴くけど近寄ってこなかった。
高い柱の上から警戒するように誠を見下ろした。
いろんな種類のいぬがいて、友達のように近づいてきた。
おおきなバーニーズの耳の中を指でくすぐってあげると、たまらないといった声をだしながら、誠にもたれかかってきた。
水辺には初めて見るおおきなネズミみたいなのがいて、びっくりした。
「カピバラだ」
お父さんが教える。
おとなしいので、おそるおそる撫でてみると、毛が針金みたいにチクチク固くて、それはそれでおもしろかった。
「やっぱりぼく、どうぶつが大好きだ!」
誠はお父さんとお母さんに感謝をいった。
「ありがとう! どうぶつ園に連れてきてくれて」
誰が『動物』なんてことばをみんなにつけたのだろう? 誠は思う。みんな友達なのに。おなじ地球に暮らす、友達なのに。
アイスクリームを食べながら上を仰ぐと、青空を背に、今日出会ったみんなが手を繋いで横に並んでいて、その中に笑顔の誠もまじっていた。
イラスト:幻邏さま