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朝が来たらおはようと!

作者: 縁側

久しぶりの肩慣らし短編投下。

 地平線の先から徐々に浮かび上がっていく太陽が朝がきたと声を出している。


 おはよう、寝ぼけた頭でふと目を開けた自分にその言葉をかけた。いつもならこのまま上体を起こして、パチリと可愛い音を立てながら頬を叩き意識に一喝を叩きつける所だが、今日はやけに目覚めが悪いのか、ボーと仰向けのまま天井を眺めていた。


 背中から────一階にあるリビングの方向から物音が聞こえる。どうやら母親が起きて家事をしているようだ。


「う~~~ん」


 両手両足を力いっぱい伸ばして、眠気を取ろうと悪戦苦闘しているがぼやけた頭は以前に彼女の思考を遮っていた。


「ねむ……あだ」


 視界の隅から飛び出してきた物体が頬に突き刺さる。数秒間をおいたのちにその原因である人物に視線をやると、とても幸せそうな表情でよだれを垂らしている弟の姿がある。


 どうやら自分は、寝ぼけた弟の左ストレートが見事に頬にクリーンヒットしたらしい。


 この野郎っと、怨念を込めた両手で弟の脇腹をくすぐった。


「うーー、……あひゃひゃ!!??」


 すると見事にその場でバッタのように飛び上がった犯人。なにゆえ!? と、きょろきょろ周囲を見渡して何事と驚いている弟に目を向け、へっと小馬鹿に鼻息をする。


「ねえちゃん……、さいてーだよ」


「おまゆう」


 先行をとった犯人が何を言うかとあきれた表情で此方を見下ろす弟をジト目で見つめ返す。


「……おはよ」


「う、……おは、よう」


 ため息を吐き出すと起き上がりながら挨拶をし、お馬鹿な弟の頭をぐりぐりと撫でて、身だしなみを整えるために鏡がある脱衣所に向かう。


 その姉の背中を撫でられた頭を手で押さえながら小さな挨拶を俯いたまま弟は返した。


 〉〉〉


「おはようございます」


 一階に降りると、リビングのテーブルに朝食を設置している母親の姿が目に入った。いつもご飯を作ってくれてありがとうと感謝を込めた、平坦な挨拶を母親にする。


「………」


 耳に入ってくるのは、お皿をテーブルに置いていくかちゃりとした金高い音、テレビから流れてくるニュースキャスターが最近の事件を告げる声。少しの間をおいて様子を伺うが、朝食の準備をしてくれている母親から挨拶の返事はない。


 右手に持っているトレイから朝食を置き終えた母親は振り返り、その姿に気が付いた。


「あら、起きてきたならおはようぐらい言いなさいよ」


 グチグチと小言を言いながら娘の横を通り過ぎて台所の方に向かう母親。


 挨拶をちゃんとしていないのは母親の方だろと、こちらの方もグチを吐き出したくなるが、父の前でそんな姿は見せられない。


 リビングの奥に設置してある仏壇に向かい、座布団の上で正座をする。


「おはよう、おとっちゃん」


 返事はいらない。ただ、そこにはきっと父の思いが、願いが、自分に還ってきているから。そんなものは今は必要ないのだ。


「さて」


 また今日も一日が始まる、長い一日が。


 〉〉〉


 ガチャリと、鍵が開く音がして玄関が開くと弟が帰ってきた。


 けど、その姿はとても汚れていて、所々擦り傷があるようにも伺えた。


「────」


 俯いたまま身体を震わせながらも二階に駆け上がっていく弟、すぐそばにいた姉の姿には気が付いていないのか、そのまま通り過ぎた。


 両手を握りしめて、自分自身のことが本当に嫌いになる。何も手助けしてやることができない状態というのは本当にまどろっこしい。本当ならば今すぐに目的地に乗り込んで罵詈雑言を浴びせて、この落とし前をつけてやるところだ。


 けど、そうはいかない。


「おとっちゃん……」


 窓から沈みかけの太陽が目に入る。周囲も夕暮れになっていき、もう少しで夜が来る。外からは他の下校している小さな子供たちの賑やかな声が聞こえる。自分もあんな風な時期があった、本当に懐かしく感じる。


「う……」


 一向に収まる気配がない眠気に思わず呻き声が漏れる。この眠気は何なのか正確な答えは出そうにもないが、それが己にとってとても良くないことだとは本能で理解出来る。


「まだ、だめぇっ」


 壁に掛けてある時計に目を向けて、近くにあるカレンダーにも目を向ける。


「………お願い助けて」


 〉〉〉


「おはようお兄ちゃん!」


「うん、おはよう」


 また一日が始まる! 楽しい楽しい一日が!


 隣で横になっているお兄ちゃんにしっかりとおはようの挨拶をすると、にっこりと笑いながら僕の頭を撫でてくれた。ちょっと恥ずかしい気持ちもあるけど、胸がポカポカするから好きなんだ。


「お兄ちゃんいつも気が付いたら居なくなってるけどいつもどこにいるの?」


 一つだけ疑問なのは、毎朝一緒に寝てくれるし、挨拶もしてくれる。それにたくさん褒めてくれるけど……気が付いたらいつもかくれんぼしていることなんだ。しかもとーーーーーても上手で、何度も何度も家中を探しても見つからないから困ってるんだよ。


「どこだろうね……、きっと見つけてくれるって信じてるよ」


「今日は学校がお休みだから! 絶対! みつける!」


「それだったら見つかっちゃうかもね」


 そうなったらお兄ちゃんもうれしいかもと、笑いながら頭をぐりぐり撫でてくれた。


「期待してないでしょ!」


「してるしてる」


 この顔は絶対に見つからない……って顔をしてるなぁ。


「そういえば、ママは今日どうしたの?」


 ふと明るくなり始めている外の様子を見てから僕にそう聞いてきた。


「うんーーーとね。確か大事なヨウジがあるから、暗いうちからお外に出てる! だから今日は朝から夜までかくれんぼが出来るよ!」


「………」


「お兄ちゃん?」


 唇を噛みしめて────震えている、お兄ちゃんが。


 頭に置いたままの手が震えているのが分かる、どうしたんだろう。お腹痛いのかな、だったらこうしなきゃ。


「……え?」


 よしよし! お兄ちゃんにもお返しのなでなでだ! 両手でしっかりとなでなでしたらきっとお腹の痛みも飛んで行っちゃうに違いない!


「こうやったら僕も大丈夫だったからお兄ちゃんもきっと良くなるよ!」


「────ふふふ」


「何で笑うのさ!!」


 頑張って両手で撫でてたらお兄ちゃんに笑われた! なんで!?


「もう! もうやらない!」


「あ、………ごめん。────ごめんって!」


「ぷんぷん!」


 意地悪なお兄ちゃんに見せる顔なんてないったらない!


「じゃあ時間になりそうだからかくれんぼ、始めようかな~~」


「あああ! ずるい!待ってよ!!」


「まちませーーん」


 僕がよそ見をしている間に部屋からいつの間にか、お兄ちゃんが出てた! こうなったら隠れる前に追いかけて、秘密の場所を探すんだ!


「まて────!」


「待ってるよ! ────きっと、ぼくができなかった、かくれんぼがおわるの」


 ドアを開けて廊下に出たけどお兄ちゃんの姿がもうどこにもない!? 


「くそーー! こうなったら!」


 手当たり次第に家たく? 捜索? をするんだ! 今日はママはいないから、ママに行ってはダメって言われている作業部屋? もこっそり探しちゃおう!


「────でも、不思議だよなぁ」


 本当に不思議。前に学校から帰った後、玄関に着いたと途端に何処からともなく鑰が落ちてきたんだもん。ほんとうにフシギ!


 〉〉〉


「……おはよう」


「って言っても、だーれもいないけどね」


「因果応報ってやつ? あっは、────面白くないわ」


「たまたま何てクソだわ、そんなこと……」


「ほんの気まぐれが、やめられなくなるなんて」


『時間です』


「はい、はぁい」


「特にありません。別に何とも。………あるとしたら、旦那達はかわいそうだったわ、それだけ」


 〉〉〉


「………おはようございます。お兄ちゃんと────そのお姉ちゃん。」

お読みいただきありがとうございました!

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