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ド田舎出身の美少女、世界最高の料理人を目指す!  作者: ゆきはら
はじまりの村 ノストヴァイン
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美食亭でのお仕事④

美食亭でのお仕事④

 ばん、と大きく音を立てて開いた扉は、そのまま跳ね返ってばたんと閉じてしまった。なんとも締まらない空気になったのをエリスが感じてどうしたものかと思案していると、今度は勢いよく、でも丁寧に扉が開かれた。


「あんたがエリスね! ……ふ、ふーん、結構可愛いじゃない」

「マルガレータ、エリスに何か用かい?」


 マルガレータと呼ばれたその少女は、エリスほどではないにしろ整った顔をしていた。エリスと年はそう変わらないだろう。腰まで綺麗に伸びたオレンジがかった茶色い髪が開けっぱなしの扉から吹き込む風に吹かれて揺らめくのにエリスは思わず見入ってしまっていた。少しそばかすのある頬がなんとも言えず愛嬌がある。

 くりくりの灰色の目をきゅっと吊り上げて、マルガレータはエリスの前にぐいっと歩み寄った。思わず腰が引けたエリスの顔をじーっと見てから、諦めたようにため息をついた。


「まったく、これじゃお兄ちゃんがああなるわけだわ」

「どうかしたのかい?」

「お兄ちゃんってば、帰ってくるなり鼻の下伸ばしてエリスちゃんがエリスちゃんが、ってその話ばっかりなんだもの。腹が立ったから実物を拝みにきたのよ」


 最初の怒鳴り声が嘘のようにマルガレータは大人しくなってちょこんとエリスの隣に座った。


「ドグラス、お水ちょうだい」

「ベリー水があるぞ」

「じゃあそっちにして」


 まかないの残りもおまけのように出したドグラスのおかげか、マルガレータは本来のものであろう穏やかで愛らしい笑みを浮かべていた。やっぱりおいしいものはいいな、と思いながらエリスはマルガレータの横顔を眺めて、ふと思った。今日のお昼に来たお客さんたちは、まだ仕事中のはずなのに、彼女はいつエリスのことを聞いたのだろう。


「ところで、お兄ちゃん、とは……?」

「ああ、マルガレータは朝に来たイェンスの妹だよ」


 アンネに言われて、エリスは改めてマルガレータをよく見た。ぱっと見た時の可愛らしい印象に気を取られていたが、よく見れば似ている点はいくつもある。

 

「イェンスさんの! なるほど。確かに髪の色がよく似ていますね!」

「あら、エリスあんたいいところ見てるじゃない。そう、この髪はお兄ちゃんとお揃いなの!」


 村にいた兄妹は仲が悪く、こんなことを言おうものなら烈火の如く怒っていたのだが、マルガレータは嬉しそうに鼻歌でも歌いそうな勢いでエリスにそう答えた。どうやら兄のことが大好きらしい、ということを察して、エリスはにっこり笑った。


「マルガレータさんはイェンスさんのことが大好きなんですね」

「そりゃそうよ。あんな素敵なお兄ちゃん、世界中探したってイェンス以外にいないわ!」


 あちゃ、という顔を視界の隅でアンネがしたのが見えて、何かまずいことをしただろうか、とエリスが気にしようとしたところで、マルガレータはさっきまでよりも目を輝かせてエリスに兄自慢を始めた。


「お兄ちゃんはね、私のヒーローなの! 私のためにわざわざ他の街まで出稼ぎに行ってくれて、それでも私に会うために冬になると村に戻ってきてくれてね、それで、誰よりもかっこよくて、素敵なんだから! 私が小さい時にはね……」


 マルガレータは生まれつき体が弱く、素朴な村で生きていくには他の人よりも治療のためにお金がかかった。そのため、兄であるイェンスはマルガレータのために、小さい頃は薬草を取りに行って薬師の手伝いをして少しでもかかるお金が減るように工面し、今のマルガレータくらいの年齢になった頃からは季節によって出稼ぎに出ているらしい。そんなにいろいろ頑張っている人だったのか、とエリスは今朝見たイェンスの姿を思い出しながら、マルガレータの話を聞いていた。とにかくお互いのことを思い合っている兄妹らしく、マルガレータの兄自慢と兄エピソードは、一時間以上、アンネが止めるまで続き、エリスは完全に場の空気に呑まれていた。


「マルガレータ、そろそろ時間じゃないか?」

「あらほんとだ。じゃあねエリス、また来るわ。あ、それと」


 ぴょこん、とマルガレータは椅子から降りて、くるりとその場で回って見せた。柔らかいロングスカートの裾がふわりと揺れて、控えめにつけられたフリルがよく見えた。深緑の綺麗な生地に白い花——マーガレットだろうか——の刺繍がされていた。ところどころに散りばめられているビーズの反射がマルガレータの可憐な雰囲気によく似合っている。

  

「あんた、服古すぎるわよ。今度私がこういう可愛いの見繕ってあげる」

「服を?」

「ええ! 可愛い服を着た方が、元気が出るものよ」


 じゃあね、と軽やかに去っていったマルガレータの背中を見送った。そっくりな兄妹だ。嵐が去ったような美食亭の中で、アンネだけが変わらず元気に腰に手を当てていた。


「さ、夜のお客様が来る前に、掃除と皿洗い! きびきびいくよ!」

「はぁい……」

評価ありがとうございます!励みになります。

マルガレータはこの村での出番と、後半にもいろいろやってもらう予定のお兄ちゃん子です。可愛さが伝わるといいな。

ブクマ・評価よろしくお願いします。

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