美食亭でのお仕事③
「ごちそうさん!」
「ありがとうございました!」
昼時の客が一通り帰っていって、エリスは大きく息を吐き出した。足元がふらついて、エリスはカウンター席の椅子に座り込んだ。数時間立ちっぱなしで、少し休憩したくなった。
「疲れたかい?」
「はい……。皆さん、とてもお元気で」
「はは、エリスが可愛いからさ!」
お昼ちょうどより少し前からやってきた人々は、皆入ってくるなり見慣れないエリスがいることに驚き、質問攻めにし、エリスがあの村から出てきたことを知っては関心し、野ウサギを狩って皮を物々交換しようとした話に大笑いをし、それからようやく注文をしていた。これをお昼の時間を過ぎるまでずっと繰り返していたのだ。林業で生計を立てている人の多いらしいこの村の働き手たちはそれはもう元気がよくて、エリスはもみくちゃにされた髪をようやく整えた。
お客さん一人一人に何度も同じ話をしたエリスはもう喉がからからだった。ふう、と大きくため息をついて、それから息を吸うと、香ばしいいい匂いがした。
「さ、あたしたちもお昼にしようか。ドグラス、できた?」
「ああ。ベリー水もある」
エリスはぱっと目を輝かせた。どんなに忙しくても大変でも、おいしいものがあれば大丈夫だ。アンネがにっこり笑って差し出したベリー水を一気に飲み干して、エリスは今度は歓喜のため息をついた。
「おいしい……」
からからに乾いた喉を滑り落ちたベリー水は、爽やかな香りとしつこくない甘さを残していく。エリスの地元の村でも取れるこのベリーをこうして潰して水に漬けておいて飲むなんて方法があるなんて、とエリスは感動していた。
「おかわり、飲むかい?」
「お願いします!」
「飯も、できた」
ドグラスがカウンターに置いたそれは、ほんのりと甘く香ばしい匂いがした。匂いは昨日初めて食べた『パン』に似ているけれど、それよりもずっと薄くて、色もほんのりとした黄色だ。端っこにベリーを煮たものが乗せてある。慣れないナイフで一口サイズに切り分けて、ベリーを乗せて、口に運ぶ。
「おいしい!」
薄く焼かれたそれは、生地にも味がつけてあってほんのりと甘さが口の中に広がる。せっかく飲んだベリー水の水分を持っていかれる感じはあるけれど、その水気のなさも食感としておいしさに変わっている。そんな渇いた口の中に広がるベリーを甘く煮たソースが香り高く美味しい。いつものベリーの香りを生かしつつも、この薄焼きの生地に合うように品のいい甘さに仕上がっている。
「そうか」
ドグラスは目を細めて喜ぶエリスを眺めていた。この地域の伝統的なパンケーキで、街で出るものに比べてしまうとかなり素朴な味のするものだが、エリスが気に入ったことが嬉しく思えた。
「ドグラスさん、この生地もおいしいけど、何よりこのベリーがとってもおいしいの! どうやって作っているの?」
「ああ、これはジャムだ。ベリーを砂糖と一緒に煮て作るんだよ」
ドグラスは瓶にたっぷり詰まったジャムをエリスに見せた。つやつやと赤紫に光るジャムは、エリスにはどんな価値あるものよりも素晴らしく見えた。
「今度私にも教えてください!」
「もちろん」
そうして二人が和やかに話していると、突然美食亭の扉が勢いよく開かれて、一人の少女が飛び込んできた。
「エリスって女はどこ!?」
また可愛い女の子を出そうとしています。よかったらブクマいいね等よろしくお願いします