「連勤」術士、缶コーヒーよりも上手い飲み物に出会う
ギルドの扉を開けると、受付嬢がにっこり笑って出迎えてくれる。
「鉱物採集十日間、お疲れさまでしたぁ! 明日一日、丸ごとお休みです」
一日、お休み……。
なんて。
美しい言葉だ。
俺は報酬を貰って、ギルドカードを渡す。
「凄いです! レベルが上がったので、次回からは『七連勤』で一日半のお休みとなります」
俺はガッツポーズを取る。
レベルが上がると、連勤日数が減るなんて。
なんて!
なんてホワイトな環境なんだ!!
◇
俺は転生者だ。
前世はIT系企業で、とんでもない量の仕事を与えられていた。
残業時間、月三百って、何?
唯一の楽しみは、隙間時間で飲む、缶コーヒー(しかも加糖)だったよ。
結局若い身空で、過労死してしまった。
俺を哀れんだのか、現世と霊界の狭間で女神が降臨し、異世界への切符をくれた。
チートスキルってないかと訊いたら、女神は微笑み、二つ付けてくれた。
一つは言語スキル。どこでも誰とでも話が出来る。
そしてもう一つは「連勤」だった。
「錬金、じゃないの? 『連勤』なんて、むしろ要らねえ!」
女神は答えずに消えた。
そして気が付いた時には、今いる世界で冒険者の格好をしていた。
それからは、何かとギルドにお世話になっている。
「凄いスキルをお持ちですね!」
「ええっ……そうですか?」
「はい! これは連勤すればするほど、仕事日数が減っていくけど、報酬が上がるっていう、レアスキルですよ!」
まさか。
闇よりも濃いブラック環境にいた俺を舐めんな。
どんなに働いても、控えめな給料だったぞ!
そう思ったが、まあ他にすることもなく、おれは依頼を受けた。
それが十日前のこと。
翌日丸々休んだら、気力体力マックスに回復し、次の依頼に向かう。
七日間で終了し、報酬は十日連勤の時よりも、三割増しになっていた。
計算基準がわからん。
五連勤の仕事は、顔見知りの冒険者と二人で、ダンジョンのお宝探しだった。
大方仕事が片付いた時、冒険者の男が湯を沸かし始める。
「兄ちゃんも飲むか?」
思わず大きく頷く。
彼はコップのような器を二つ取り出すと、その中に茶色の粉とお湯を入れる。
懐かしい香り。
これって、まさか……。
「粉が沈んでから飲めよ」
褐色の液体から立ち昇る香りは、間違いなく珈琲のものだった。
たまらず一口。
ざらりと口の中に残る、コーヒーの粉。
思わず俺は叫ぶ。
「上手い!」
冒険者の男がニィッと笑っう。
社畜の頃、隙間時間に飲んでいた缶コーヒーよりも、それは甘く感じられたのだった。
残業三百時間、さすがに今はそんな企業はない、と信じたいです。
ちなみに私は、缶コーヒー類は、無糖派。
お読みくださいまして、ありがとうございました!!