4話 訪問者
寝室の扉のノック音で目が覚めた。
何だ? まだ夜だぞ? とりあえず扉を開け、ギールの姿を確認する。
「何かあったのか?」
「魔王様にお客様です」
「客?」
一瞬嫌な予感がした。まさか、追手か?
今の自分なら、追手を怖がる必要はないが、今は逆に相手をするのが面倒だ。
折角、この穏やかで平和な日々を噛み締めて生きていると言うのに。
何か現実に戻された気分だ。
「魔王様に挨拶したいと、悪魔が来ています」
「悪魔が挨拶に?」
「はい、新しい魔王に挨拶がしたいと」
追手ではないと分かり、ひとまずは安心したが、挨拶ね・・・・。悪魔って意外と律儀なのか?
「分かった、その悪魔は今どこにいる?」
「応接室で待たせておします」
「了解、ところでギール」
「はい」
「魔王っぽい服、選んでくんねえ?」
「はあ」
ギールは一瞬、呆れたような態度だったが、直ぐに服を選んでくれた。
まあ呆れるよな、魔王が部下に魔王っぽい服選んでくれなんて。魔王として、もっと威厳を感じる言動をとるべきか、とは思うが面倒なのでそれは却下だな。
*
ギールに選んでもらった服に着替え、応接室へと向かった。
部屋にはギールと、挨拶にきたと言っていた悪魔が、向かい合って、ソファーに腰かけていた。
俺が入ってきたこに気づいた悪魔は、サッと立ち上がり俺のほうに向かってきた。
「おお!! 新魔王さま!! お初にお目にかかります。 私は、ノール、と申します」
深々と、俺の目の前でお辞儀をする悪魔。すこしピンクの混じった銀髪が、サラッと流れる。
「挨拶が遅くなり、申し訳ありません。」
「ノールか、よろしく」
「はい! 今後ともよろしくお願いいたします!」
ニコニコと人懐っこい笑顔で、テンションも高い。ギールとは、真逆のタイプって感じだ。
俺は座るよう促し、ノールの向かいに腰かけた。
改めて、ノールを見る。なんというか、悪魔ってイケメンが多いのか?ギールもイケメンだが、ノールはまた違うタイプのイケメンだ。華やかなイケメン?ギールは、すっきりとしたイケメンって感じた。
「急な訪問にもにも関わらず、ご対応感謝いたします!! 」
「おっおお、まあ折角来たんだ、ゆっくりしていってくれ」
「ありごうございます! しかし、驚きました。以前来た時とは、城の様子がかなり変わっておりますね!」
「ああ、大分老朽化が進んでいたから、大幅に修繕したんだ」
「さようでございましたか。とても美しくなしましたね! 椅子のデザインや花、絵と、見ていて飽きない!! 城の主からの持て成しも感じます!! 魔王様はとてもセンスのあるお方ですね!!」
滅茶苦茶褒めて貰ってる所悪いが、カタログから適当にそれっぽく見えるよう、選んだだけなんだよな。
なんて、言えないな。
元々がボロボロだったから、余計に綺麗に見えるのかもしれない。それより、さっきから気になっているものがある。
「それより、その袋は何ですか?」
ギール、ナイスだ! そう、部屋に入ってきた時から気になっていた。ノールの横に、人ひとり入れそうな大きな黒い袋。ご丁寧に、袋の口は赤いリボンで結ばれたいた。もし本当に、人だったらどうしょうと思って、正直聞く勇気がなかった。
「よくぞ聞いてくれた!! 実は、魔王様にご挨拶するのに手ぶらではと思い、何か良いものはない物かと、探していた所、運良くとても珍しいものが手に入りました。いやー、実はいい手土産が見つからず、挨拶が遅くなってしまったのですが、本当なら、もっと早く挨拶するつもりだったのですが」
「で、その良い物とは?」
ギールが、ノールの言葉に割って入る。
多分、説明を聞くのが面倒だったんだろう。
そのままにしてると、永遠に喋りそうだもんな。
「そうですね、さっそく見て頂きましょ! 」
赤いリボンを解き、中身が現れ、俺は目を丸くした。
「なんと!! 悪魔とエルフのハーフです!!」
いやいやいやいや!!! 何ドヤってんだこいつは!!
明らか、どっかから誘拐してきてんじゃねーか!!
確かに、その子からは、悪魔とエルフの魔力を感じる。耳はエルフの様に長くはなく、悪魔のそれだ。
しかし、その悪魔とエルフのハーフを見ると誘拐だけではないように思う。
女のようだが、服もボロボロだし、かなり痩せている。白金の髪色が特徴的だが大分傷んでいる。
何年もまともな生活を送ってきていないように見える。
ノールの口振りから、ここ数日の間に見つけたようだか、何か訳ありが?
今は眠っているようだが、一番気になるのは、首輪だ。鉄製の首輪の様だが、魔力が込められている。
この首輪が、どうやらこの子の魔力を封じ込めているらしいな。
「それで、この子とは何処で出会ったんだ?」
「はい、ダイル町の近くの森で見つけました!」
ダイル町と言えば、のどかな町で、特に治安が荒れていると言うことはないし、近くに大きい街がある訳じゃない。俺の知らない何かがあるのか、それとも、たまたまそこに居ただけなのか。
「私が、何か手土産にいい物はないかと途方に暮れていた所、同じ悪魔の気配がしたので、同じ悪魔なら何かいい物はないかと、聞こうとしたのですか、近づいて見ると、悪魔とエルフのハーフだったのです! 私はこれだ!! と思い、このハーフを献上したしだいです」
うん! ばっちりガッツリ誘拐ですね!!
頭が痛くなりそうだ。この子を探している奴が居るはずだ。どうしたものか。
とりあえず、この子が起きるのを待つ事にするか。
「とりあえず、その子を別の部屋へ移してくる」
そう言い俺は、その子を客室のベッドへ移動させた。
念のため、ベッドのサイドテーブルに水と食料を置いていく。
この子の記憶を覗く事も出来るが、勝手に覗く訳にもいかないし、やっぱり起きるのを待つのが一番か。
応接室に戻り、さっきと同じ場所に座る。
「いかがですか?魔王様!! お気に召しましたでしょうか!?」
ノールは俺の行動に、自分のプレゼントを俺が受け取ったと勘違いしたのだろう。
感想を求めているようだが、どうしたものか。
「・・・・お気に召しては、いない、かなぁ」
悪魔にどう伝えればいいんだ! 誘拐は犯罪ですよ、なんて悪魔に通じるのか? そもそも俺は、手土産なんて頼んでねえ!!